水月
5分どころか1分で読めるもはや詩のような小説?です。
真夜中だと言うのに、あまりにも月の光が眩しくて目が覚めてしまった。
いつも日の出を目覚まし代わりに使っているからカーテンを閉めないのだけど、まさか月に起こされるとは思わなかった。
部屋は静かな光で満ちて、ともすれば光に溺れてしまいそうだ。
溢れるみずに限りは無く、冷たい温もりをもってこの身を包んでくれる。
そんな月に憧れて部屋から空を見上げる様子は、なるほどどうして水槽の中の魚に似ているとも言えるか。
自分の皮肉に自分で苦笑しながらベッドを見下ろすと、柔らかそうな月溜まりが私を誘っていた。
迷わず横になるのもよかったが、夏真っ盛りの夜だからか喉が渇いてきた。
お気に入りのグラスに冷蔵庫から取り出した水を入れて再びベッドに戻る。なんでもない動作でもめんどくさく感じてしまうのは私の短所だろう。
そのまましばらく、私はグラスに口をつけることなく中の水をのぞき続けた。
中にはさっきまで見上げていたはずの月が揺らいでいる。ゆっくりと転がして遊んでいると、なんとも不思議な気分になった。
今、私の手の中に月がいる。それはなかなか買ってもらえなかったオモチャをようやく手に入れたときの感覚に似ていた。
小さな興奮は緩やかな眠気と相まって頭を甘く痺れさせる。
少し名残惜しいけど、そろそろ眠ろう。
一気に飲み干す水は、いつもより甘く感じた。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
人物のワンシーンを切り出す練習をしていた頃の作品なので、とってもとっても短いですが、少しでも心に何かを残せたのなら幸いです。
最後まで読んでいただいたあなたに、心からの感謝を。