時代遅れのサンタさん
私のサンタさんは、すごく時代遅れだと思う。
その上、とっても強引なんだ。
流行の物を手紙に書いて送っても、昔の物しかプレゼントをしてくれないんだから。
とても使い心地は良いし、良い品物なのだろうけど、ちょっとは時代についてきて欲しいよね。
小さい頃は、最新のオモチャをプレゼントしてくれたのに……
そんな私が小学四年生になった頃、サンタさんがいないことを知ってしまった。
お母さんにそのことを話すと「サンタさんはいるわよ?」と、私を騙そうとする。
「だって友達が言ってたもん。お父さんがプレゼント置いていくところを見たって」
「そうなの? なら、その子のお父さんがサンタさんなんじゃないの?」
お母さんの惚けた返事に、私は思わず声を荒立ててしまった。
「お父さんがサンタさんって、そんなはずないよ! その子のお父さんはレストランで働いているんだから! うちはお父さん死んじゃったから……お母さんがプレゼント置いてるんでしょ?」
でもお母さんは優しい目で私を見て、頭を撫でてきた。
「あのね。昔、お父さんが話してたことなんだけど。だれでもみんなね、サンタさんのお話を知ると、サンタの種が心に残るらしいの」
「……サンタのタネ?」
「そう、サンタの種。サンタの種は子供を思う気持ちで育つのよ。育ったサンタの種は、ちょうどクリスマスの時期に合わせて花を咲かすって……。そしたら、花が咲いた人はみんなサンタさんになってしまうんだって……。お父さん、笑って……言ってたのよ……」
少し涙ぐんだお母さんが、押し入れの奥からDVDを取り出した。
「聖がサンタさんの正体に気付いたときに見せてくれって、ね」
お母さんがDVDを再生させると、病院のベッドで座ってるお父さんがいた。
久しぶりに見た父の姿は、痩せていたけど楽しそうに笑っていた。
――あ~聖、お父さんです。久しぶり、かな?
このビテオレターを見てるってことは、サンタさんの正体に気付いたんだな。
……何才ぐらいなのかな。小学生だと思うけど、中学生もありえるし……高校生は……さすがにないよな。
大人だとお父さんは少し心配です。
……なんてな。本当は全然心配してないよ。
覚えてるか? 聖がサンタさんに今年のクリスマスプレゼントの手紙を書いたこと。
『おとうさんがげんきになるクスリ』って書いてあったんだぞ……
そんな、良い子が……っ、幸せになれないはずがないよなっ!
……聖はプレゼント、流行りの物が欲しかったか?
時代に左右されない、本物を選んだつもりだが……やっぱり流行の物が欲しいよな。
父さんも母さんと一緒に、ああだこうだと選びたかったよ。
お母さんに任せても良かったけど、お父さんのワガママで無理矢理サンタさんをさせてもらいました。
ほら、幼稚園の発表会で聖が『あわてんぼうのサンタクロース』を歌っていただろ?
聖のサンタは、最高にあわてんぼうだから先にプレゼント買ってきてしまったんだよ。
ごめんな。でも聖のサンタはお父さんが似合うと思うんだ。
だって、サンタクロースは空からやって来れるだろ?
なら、お父さんが適任だよな?
そう思わないか? 聖……
……聖。俺は……俺にとってお前は、神様がくれた最高のプレゼントだったよ。
願わくば……もっと、お前の成長を見たかった。
もっと、聖と話して、もっと……もっと、聖と一緒にいたかった!
聖……こんな俺のところに生まれてきてくれてありがとな。
お父さんはそれだけで、世界一の幸せ者だ。
ありがとう……ありがとな…………ふぐぅ、ごほ、ごほ……
……って、サンタさんの方がプレゼントもらってるじゃないか!?
湿っぽいのはサンタさんには似合わないし……よし!
聖のサンタになったからには、夢と希望と笑顔をプレゼントしないとな!
愛してるぞ! 聖!
空から聖の幸せを祈ってるからな。
神様には、なんとか話をつけとくから安心しとけ。
母さんも……朝柊の幸せも祈ってる……
じゃあ、二人の幸せを願って歌います!
曲はあわてんぼうの――――』
私のサンタさんは空からやってくる。
今年のプレゼントも時代遅れに違いない。
そんなあわてんぼうのサンタさんは、今年は笑顔だけでなく涙も一緒にプレゼントしてきた……だけど、
「私にとって世界一のサンタさんだよ」
私は夜空の星に向かって、そう語りかけた。