絶望人間ローストビーフ 美味しい怪異の作り方
前に犬神を作るように人を材料にして式神を作れるだろうと、書いた。
その続きだ。
犬神の作り方ってのは犬を生きたまま首だけ出して埋めて、犬がぎりぎり届かないところに飯を置いて、その飯が犬の息で黄色く変色した時、すなわち犬の餓えが極まった時その首を跳ねて式神にするってものだ。
これをそのまま人間でやっても、多分駄目だろう。
犬と違って人間は余計なことを考え過ぎる。
餓えで人を材料に怪異に至ろうとするなら、即身仏になるだけの時間と手間が必要だろう。飢餓で心から余計なものを落とすには時間がかかる。
おそらく手っ取り早いのは火をつけることだ。
精神を炎の熱さだけで染め上げてしまうのだ。
と、ここで小野不由美の残穢だったか鬼談百景だったに入っている炭鉱事故の怪談を思い出した。
確か欄間の隙間から黒焦げの死体が見えるって話だったが詳細は覚えていない。とても嫌な話なので未読の方はぜひ読んでいただきたい。
どうもまじにヤバい話は忘れる性らしく嫌な話ほど詳細が抜けるのよな。
しかも、読み返そうと探すと出てこないんだこれが。
気になるから仕方ない買い直すかと本屋行くと、そこでもないと言うパターンなのよな。
それはいい。
ポイントは炭鉱事故だ。
直火で焼いちゃいけないんだ。
例えばガソリンかけて焼いたら、死に至る情動が火の反射行動で終始してしまう。
人を材料に怪異に至ろうと思ったら、黒焦げになるまで熱だけ加えなきゃいけない。
作るのは人間バーベキューではなくて、人間ローストビーフってことだ。
おそらく必要なのは事故による密閉空間での死。
どこからも助けが来ず逃げ場もないことへの直感的理解からくる深い絶望。
誰が見てもすぐ分かる絶望がないと死への情動に不純物が混じり怪異には至らない。
そうか、前に殺人によるその場所への霊的汚染は大したことがないと書いたが、その理由もこれか。
人に殺されたのでは、死への情動が不純物混じり過ぎるし炭鉱事故で生きたまま焼かれるほどの絶望の圧力が上がらない。
風船に恨み、恐怖、痛み、後悔等々の穴を開けていくようなものだ。
圧力の逃げ場が多すぎる。
これではどんな無惨な殺され方しても、怪異には至らないはずだ。
絶望の圧力が足りない。
怪異には至らない。
もう一つ、事故による怪異を思い出す。
こっちは有名。
慰霊の森。
まじでヤバい場所らしいが、俺は絶対行かないで誰か行く人いたらレポートお願いします。
確か航空機事故だったよな、と調べたら航空機同士の衝突事故で機体が空中分解して乗客が高空から生身で地面に叩きつけられたのか。
人間ローストビーフの次は人間ミンチだな。
これほどのどこからも助けが来ず逃げ場もないことへの直感的理解もないだろう。
しかも地面に衝突するまでは明瞭に意識があり続ける。
これだよ、この絶望の圧力こそが人をして怪異に至らしめる。
不純物のない絶望とその逃げ場がどこにもないこと。
それが大事なんだ。
そこでまた思い出す。
被害者が自分が殺される場面を霊になって繰り返すような怪異は余り聞かないけど、自殺者が霊になって自殺を繰り返すような怪異はよく聞くよな。
これは自殺者の精神が閉塞してることによる精神的に逃げ場がなく、助けもないことによって絶望の圧力が上がっているからではなかろうか。
なぜ苦しいかなんてもう忘れてしまった。どうして死のうとしたかなんてもうどうでもいい。
分かっているのは今死ななきゃならないってことだけ。
自殺に至るまでに精神は擦りきれ淀みきることで、逆に絶望に不純物がなくなりその圧力は怪異に至る。
ありそうな話だ。
ということは人を材料に人為的に怪異を作るって無理ではなかろうか。
拉致してコンテナに監禁して蒸し焼きにしたとしても、それが人の手でなること故に材料にされた人間は最後の最後まで助けがくることを信じたりはしないだろうか。
それ以前に殺人であるから、感情の逃げ場が多すぎる。
逃げ場のない絶望への直感的理解が足りなさすぎる。
人を材料に怪異を作ろうと思えば、炭鉱事故や航空機事故に匹敵する絶望を作り出す必要がある。
もしくは時間をかけて丹念に拷問などで余計なものをそぎ落とし、絶望の圧力を高めていくか。
これって、俺、ほんものの幽霊屋敷を作るのが夢だったんだ、日本一の心霊スポットを作るんだとかではなくて、その怪異を呪術に利用するんだなんて場合はその手間暇で呪い殺す人を直接殺した方が早いよな。
呪術って使い道ないのう。
ただ呪術が無力かというとそうではなく、現代日本で一番猛威をふるっている呪術は占いだと思うんだがそれについてはまたあとで。