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第92話 ま、まさかその構えは天地魔闘の!?

 ミリアンの目は血走っており、口角には泡を浮かべ、ゆっくりと幽鬼の如く一歩ずつ近付いてくる。



「ヒッ……」



 それを見た幼な子は小さな悲鳴を上げ、目を背けるようにテュールの胸に顔をうずめてくる。おーよちよち、こわいでちゅね。テュールは頭をゆっくりと撫でながら優しく声をかける。



「きゃわゆいねぇ。きゃわゆいねぇぇぇ!! フヘヘ、食べちゃいたいよぉぉおおおおううう」



 そんな親子睦まじい姿を見て、尚もミリアンの暴走は止まらない。もはや、その姿、その口調からは龍族としての誇りを感じられない。いや、理性ある生き物と断じることができない。テュールは腕の中の子に向けていた笑みを消すと、ミリアンに最後通牒を渡す。



「ミリアン……。これ以上この子に近付いたらお前を敵とみな――」



「ばっかもぉおおおおおん!!」



「ぐぼぇらふぇぶらってぃあ!!」



 テュールが話しかけた相手は今消えた。ボルトの拳がミリアンの顔面を容赦なく打ち抜く。戦闘モードに入っていなかったであろミリアンの顔面からはめきょって音が聞こえてきた。それはもう聞こえちゃいけないレベルの音だった。その直後、壁を五枚ほど突き破り遥か遠くで気絶したようだ。



(ミリアン君今日という一日は本当に衝撃的な一日になってしまったね……)



「はぁ、はぁ……。テュール君と言ったかな、そして可愛らしい君も、うちのバカ息子が本当にすまない。兄上、レフィー、本当にうちのバカ息子はバカになってしまったようです。せめて介錯はこの私の手でさせて下さい」



 ボルトが深々と頭を下げる。どうやらミリアンは死罪になるようだ。



(え? まじ?)



 テュールは流石に後味が悪いと焦るが、ファフニールはこれを大ごとにする気はないようだ。



「フハハハハ! よい! よい! 昔から言い寄ってた女が目の前で子供を産んだら誰だって気の一つや二つ狂うものだ。それより今日はめでたき日だからな! 無粋なことは言うな」



(いや、気の一つや二つ狂っちゃダメだろ。まぁけどとりあえずミリアン君死刑にならんで良かった)



「で? どうすんだ?」



 アンフィスが混沌と化したこの状況を見てそう尋ねてくる。



(う~ん……。帰ったら帰ったで多分大変なことになるとは思うんだけどさ、帰ろ?)



「ねみゅ……」



 テュールの腕の中にいる幼な子の目がトロンとしてきた。



(そうだよな。まだ生まれて数分だ。こんな騒がしくしてたら疲れちゃうよね。うん、帰る。決めた、俺は帰る)



「決め――」



「お祖父様、この子を一度落ち着いた場所に……」



「む、そうだな。ボルトすまないな。今日は失礼するぞ。ミリアンには気の毒だが、これで諦めもつくだろう。また気持ちが落ち着いたであろう頃に顔を出す」



「いえ、断られ続けたのにも関わらず、諦めがつかなかった我が息子にはいい薬になりました。えぇ、落ち着いたら是非に。テュール君も今日はすまなかった。その子ともまた会えるのを楽しみにしているよ」



 相変わらずボルトはちゃんとした人だった。そして相変わらずテュールは何も言わせてもらえなかった。



「で、お前はそのまま帰るのか?」



 隣に立つレフィーがそんなことを聞いてくる。



「……これ、治る?」



 テュールは一縷の望みをかけぐるっと一同に視線を送るが、誰も彼もピンときている感じはない。



「まぁ、仕方ないかぁ。これで帰るかぁ」



 テュールは諦めたようにそう呟くと腕の中から我が子をとられる。



「よしよし、君は私と行こうな?」



 子供はすっぽりとレフィーの腕に収まるとトロンとした目が完全に閉じ、小さな寝息が聞こえてくる。



「よし、帰ろうか」



 テュールはレフィーのその姿を見て、少し微笑んだ後、そう声をかけ部屋の扉から一歩を踏み出す。




 ◆



「おい」



 家へ帰る道中にテュールの周りを沢山の人が囲む。



(そりゃ目立つよなぁ。こんな角と翼と尻尾と鱗生やした種族俺も見たことないからな。そらざわざわするわ。こらこらー許可なくカメラ型魔道具で写真撮っちゃダメだよー? で、この囲んでいる人たちは俺のファンかな? すまんな、あいにくサインは考えてないんだ)



 テュールができるだけ前向きに物事を考え、現実逃避していたところで再度声が掛かる。



「おい」



「はい、なんでしょう?」



「ふぅ、テュール? てめぇその格好はなんだ?」



「ハ……ハロウィンの仮装です」



 話しかけてきたのは顔なじみの衛兵さんであるウェッジだ。できるだけ穏便に済ませようと思ったテュールは、和やかな冗談を混ぜて笑顔でそう返答する。しかしウェッジはコメカミをピクピクさせ笑う様子はないまま問い詰めてくる。



「市民から何件も通報があったぞ。大魔王みたいなのがいます。すぐ来て下さいってな。お前、まさかその格好で暢気に散歩できるとでも思ってんのか?」



「ハハ、ウェッジさん冗談キツイっすよ。俺が大魔王だったら俺の周りの女性陣は何になるんです? 魔神ですよ魔神。というわけで失礼します」



(何がというわけでかは俺も分からんが、もう知らん。帰るんだ。けど、うん、アリの子一匹逃がさない完璧な包囲陣で衛兵さん達が立ってらっしゃいますね。お勤めご苦労様です! かくなる上は――)



「おーい、レフィー、アンフィスー。助け――」



「あぁ、あいつらならそそくさと帰ったぞ」



(あ、あいつら……。捨ててきやがった。ふざけんな俺だって早くウチに帰って愛娘と遊びたいんだ!!)



「ウェッジさんすみません。色々と説明して、誤解を解く時間を作りたいのは山々なんですが、俺にも今すぐやるべきことがあるんで、力づくで推し通ります」



(うん、子供と遊ぶってことだけど)



「なっ。おい、テュールバカな真似はやめろ! てめぇらも動くなっ!!」



 テュールがほんの少し闘気を放つと髪の毛が逆立ち、床のレンガがパラパラと顆粒状になり、地面から浮かび上がる。



 その姿を見た衛兵たちは慌てふためき、それぞれの武器を構える。目の前の存在がいかに特異かを肌で感じたのだろう。滝のように汗をかいている。



「こあぁぁぁぁ!!」



 テュールはそれらしいポーズでそれらしい声を出し、それらしいフリをする。



「は、離れろぉぉおお!!」



 武器を構えたまではいいが、金縛りにあってしまったように動けなくなってしまっていた衛兵達はウェッジの怒号で一斉に動き出す。そう蜘蛛の子を散らす動きで。



「さんじゅぅぅろっけぇぇぇい!! 逃げるにしかぁぁぁず!!」



 そして、テュールはタッタッタとジョギングペースで逃げた。家へと向かう路地をひたすらにジョギングした。



 その場に残されたウェッジ達は皆、心臓を手で押さえながら肩で息をしていた。最後にウェッジが呟いた言葉は――。



「どうすんだよ……。マジもんの大魔王じゃねぇか……」



 テュールの耳に聞こえたとか聞こえていないとか。



作者はウェッジ好きなんですよねぇ。

なんか一般人してるおっさんとか萌えるんですよねぇ。

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