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第90話 ショートフックはレモン味

「フハハハハ!! 久しいなボルト! そしてミリアンは久しく見ない間に面白い男になったな」



 面白い男になったで片付けていいレベルじゃないと思うけどなぁ。まぁファフニールがいいならいいけどさ。



「あぁ、兄上、親バカであるが、このミリアンは優秀に育ち、自慢の息子と呼べるのだが、如何せんこの一点だけがどうにも……。レフィーも迷惑をかけて申し訳ないな」



 ボルトがレフィーに頭を下げ謝罪する。うん、このボルトって人は恐らくまともな部類の人だ。



「いえ、ボルト様。もう慣れたものですから気にしないで下さい」



 レフィーは今なお悶ているミリアンには一切視線を送らずボルトにそう答える。



「ハハ、これは頭が上がらないな。して、そちらの人族の者は……?」



 龍族同士の挨拶が終わり、明らかに異分子であるテュールについにスポットライトが当たる。そして、テュールは口を開こうとして――。



「私は「そう、最初から気になってたけどお前何なん? 近くない? つーか横に立つとかあり得なくない? とりあえず今すぐレフィーたまから離れろや。3つ数える内に5m離れろ。さもなきゃ俺が強制的に離してやんよ。運が悪けりゃ永遠のさよならだな。いちにっさっ――」



 ゴンッ!!



「やめろ、バカモノ。公龍皇様の前で何たる無礼な振る舞いだ」



 ミリアンがものすごいメンチを切って、殺気を全開にしてきた。3つ数えるって大概いーち、にー、とかじゃん? あいつただぶっ飛ばすための建前として使ってきやがったぞ? 正直ボルトが殴って止めてなかったら開戦だったな……。



「フハハハハ!! 気にするな! 男はいつだって女を賭けて戦う生き物だ。やはり男子たるもの肉食系でなければならんな!」



 豪快に笑ってファフニールがそんなこと言ってるけど、こっちの世界にも肉食系とか草食系とか通じるの? いや、モヨモト達なら浸透させてそうだな……。



「そちらの者もすまないな。ウチのバカ息子が。だが、そうだなウチのバカ息子の精神衛生的にも少しだがレフィーから離れてくれると円滑に話が進むと思うんだがどうだろうか?」



 そう言われれば特に否定することもない。別に一歩下がったり、横にずれたりするのに抵抗はないからな。テュールはそう考え、身体をずらそうと足を浮かしたところで――。



「その必要はありません。なぜならここにいるテュールという者は私の恋人ですから。ね?」



 レフィーがそう言って、腕を絡めてきた。ここで同意したら面倒くさいことになるのは火を見るより明らかだが、そもそも今日という日は面倒くさくなると分かっていたはずだ。先延ばししてもしょうがない。無心になれ。俺はオウム。俺はイエスマン。



「えぇ、私が離れる必要はありません。なぜならここにいるテュールという私はレフィーの恋人デスカラ」



 ドドン、と宣言する。フフ、ボルトもミリアンも龍がアンチマテリアルライフル食らったような顔してるぜ。



「……な、な、な、な、ななな、なななな、なな、なになにににに、なにを言ってるんだ?」



 ミリアンは激怒して、なんだったら竜化してくるとまで予想したが、一周まわって理解できていないよう――というより理解したくないんだろうなぁ。



「というわけで兼ねてより頂いていた求婚の件ですが、正式にお断りさせて頂こうと思います。私はこの方と結婚したいと思っていますので。ね?」



 レフィーが笑顔でテュールに同意を求めてくる。分かってる、分かってる。アイアムオウム。アイアムイエスマン。



「はい、私も同じ気持ちです。レフィーさんと結婚したいと思っています」



 その宣言にボルトとミリアンは雷に打たれたように身体が硬直し、表情は驚きのまま氷ついてしまったようだ。



「あ、兄上。そ、それは本当なのですか?」



 先に解けたのはボルトだった。そして――。



「うむ。本当だ」



 ガガーン。また固まった。



 そらからたっぷり1分程ボルトとミリアンは動かなかった。そして、ミリアンはパチクリパチクリと何度か目を瞬かせ、レフィーとずっと腕を組んだままのテュールに焦点を合わせる。



「……コ、ココココッ、コココココココココ」



 そして、ミリアンは急にニワトリの真似をし始めた。あらミリアン君ったら意外とオチャメ。



「コロスッッッ!!」



 ですよねー。まぁ正直この展開になるとは思っていたんだ。で、俺がこいつぶっ飛ばせばいいんだろ? ごめんなミリアン君。俺はレフィーに逆らえないんだ……。



 テュールはやれやれと一つため息をつき、ミリアンに決闘を申し出る。



「よし、決闘を「ほぅ? ミリアン。お前は我が認めた結婚相手を殺す、と。そう言うわけか? となれば我を敵に回すということだな?」



 予想外のことにファフニールがテュールの言葉を遮り、僅かに殺気を乗せた声で、ミリアンに問いかける。



「ぐっ……」



 一瞬言葉を飲み込み、逡巡するミリアン。それはそうだろう、ファフニールは龍族の中では神様みたいな存在だ。おいそれと敵対するのは愚策。ましてやレフィーの祖父にあたるんだ。喧嘩は売れないだろう。



「ハハハ、兄上。言葉の綾ですよ。ほら、ミリアンお前も冷静になれ。過ぎた言葉今なら取り消せる。お前はバカだが愚かではないはずだ」



 ボルトが慌てて再起動し、やや早口でミリアンをたしなめる。



「……申し訳ありません、公龍皇様。つい我を忘れて言葉が過ぎました。前言撤回させて頂きます」



「うむ。許そう」



 ミリアンはスッと表情を消し、頭を下げる。それを見たファフニールは腕を組み、ふんぞり返ってお許しになった。こんなふざけた態度とっても公龍皇って存在は絶対的な存在なんだなぁ。



「……ですが、本当にこの者はレフィーの恋人なのでしょうか……?」



「コラ、ミリアン! 何を言っておる! 先程兄上が――」



「ボルトよい。……ミリアン言ってみろ」



「レフィー様の事ですから、しつこく求婚する私を追い払う口実として急遽恋人役の代役を立てたのではないかと邪推してしまうのです」



 なぬっ。さ、流石は長年レフィーを追い続けてただけあって予想が的確だ……。



「な、なるほど。どうなんですか兄上?」



「その答えはレフィーの口から聞けばいい。ミリアン、お前はレフィーを長年見続けてきたというのならば真実かどうかその言葉を聞けば理解できるだろう。どうなんだレフィー?」



 みんなの視線がレフィーに集まる。



「ッフ。流石ですねミリアン殿。今までのはまぁ嘘みたいなものです。そしてここからはその目に映ることこそが真実です……。おい、テュール目をつぶって10秒動くな。それで今までの貸しは全部チャラだ」



 え? 認めちゃうの? そしてなになに? 何すんの? 今までの貸しが全部チャラ……? 非常に魅力的だ。だが、このレフィーがそう簡単に貸しを破棄するか? それ相応の厄介さを伴っているはずだ。なんだ? 何をしたいんだ?



 テュールは安易に頷かず、一瞬考え込む。その気が逸れた一瞬に――。



「ハッ!!」



「グボェラッ!!」



 みぞおちを全力でショートフックされた。テュールは腹を抱え、身体をくの字に曲げる。な、なにしやがんだ……。



 そして目線の高さが同じとなったレフィーに耳元で小さく囁かれる。



「フッ。テュール、すまないな。覚えておいてくれ、龍族の女は欲しいものは力づくで手に入れるんだ」



 そう言って、テュールの顔を両手で押さえ込み、唇を重ねる。その瞬間――テュールとレフィーを膨大な魔力の奔流が包み込む。



「……!? ッフ……フハハハハ!! 流石我の孫娘だな! これは我も予想してなかったわ!」



「おいおいマジかよ。レフィーの奴正気か……?」



 ファフニールが豪快に笑い、今までつまらなそうに眺めていたアンフィスが目を見開き、僅かに口角を上げる。



(え? なに? 何が起こってんの? つーか唇ぷにぷにですね。ってそれどころじゃない気がする……が、もう俺には選択肢とかないんだろうなぁ。悔しいからぷにぷにを楽しむか……はむはむ)



 テュールはレフィーと唇を重ねながら現状がどうなってるか考えようとするが、考えても分かるわけがないのでぷにぷにをはむはむして楽しむ。これくらい役得があっても許されるだろ?



「ま、ままま、まさか魂契約(リンクゲージ)!? じ、人族と魂契約するなど聞いたことがないっ!! 魔力交配をしたというのかっ⁉︎」



 リンクゲージ? 魔力交配? なんぞそれ……。つかボルトのおっさんの慌てぶりやばいな……。



 そしてミリアンは――。



「…………」



 立ったまま気絶していた。





今回テュールは何一つ自分の意志で喋ることができず、何一つ行動を起こすことができず、できたのはレフィーの唇をはむはむすることだけでした。

作者もレフィーにショートフックされてもいいんでキスされたいっす……。いや死ぬか……。

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