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第84話 ほ、本当に良い話なのか……?

「……良い話ぃ? 本当に良い話なのかぁ?」



 酒の入ったグラスを握りしめながら机の上に突っ伏していたテップが、ジト目でこちらを睨みゆっくりと上半身を起こす。



「あぁ、本当だ。女だ。女! お前を気に入っている女がいたんだよっ!」



 そんなお客さん閉店ですよ状態のテップにテュールは必死に希望を降り注ごうとする。



「……っ! ほ、本当か? あれ? なんか既視感が……。うっ、頭が痛い。なんだ、思い出そうとすると……。まぁいい。本当なんだな? 嘘だったら神話級魔法ぶっ放すぞ?」



「ホホ、お前さんは打てんじゃろが」



 ……。



 おい、モヨモト今はやめてやれ……。



「ふぅ……。あぁ! 本当だ! な? レーベ」



 気を取り直し、レーベにも確認をとると――コクリ。小さく無表情にレーベが頷く。



「へー。テップを気に入ってる女の子かぁ~。興味深いねぇー。ね、アンフィス?」



「ほ~。これはこれはテップ良かったですね。どんなお相手か私も気になります。ね、アンフィス?」



 白々しい様子でヴァナルとベリトがノッてくる。女性陣達もどこか困惑した表情だがそれでも相槌を打ってくれている。しかし一人だけ徹底的に無視を決め込んでいる男がいた――。



「……」



 アンフィスだ。一体あいつ、どうしたんだ? 今日一日中機嫌悪いが……。あぁ、あいつもなんか女のことでからかわれていたっけ。まぁ、けど今はテップだ。テップ。



 とりあえずアンフィスの不機嫌の件は後回しにして目下悪酔い候補生ナンバーワンのテップの処理にかかる。



「で、テップ。相手はなんと、上級生だ」



「む、お姉様かっ!! 構わんっ、続けろ!」



「それも最上級生な? で、さっき記憶が曖昧だって言ってたけど、何を隠そう俺達の決勝の相手の一人だ。リーシャっていうポニーテールのツンデレ風の先輩。向こうはテップのこと知ってたけど知り合いか?」



「リーシャ……。ポニーテール……。うっ、頭が……。いや、けどなんとなくぼんやりと名前や顔が出てきたってことは知っているな……。知っている。知っているはずだ! それは俺のヒロインだ! よし、よし、テンション上がってきたぁぁぁ!! 飲むぞ!!」



 テップは先程までの苦虫を噛み潰したような顔から一転、雑誌の裏でブレスレットをしただけで勝ち組になれた男のような表情に早変わりする。そして手に持っていた酒を勢いよく飲み干すとリオンとファフニールのガチムチお酒好きコンビと上機嫌に酒盛りを始めたようだ。



 ……ふぅ、良かった、ってあいつ切り替え早っ! まぁ、けどそこがテップのいいところだな。んで、もう一つの懸念事項は……。って、懸念事項さん顔引き攣ってるけど大丈夫か?



「アンフィス? やっぱお前変だけど、どうしたんだ?」



 アンフィスとの付き合いも長いがこんな表情のアンフィスは見たことがないため、流石に心配になったテュールが声をかけるが――。



「……。いや、なんでもない。ただ、ほんの少し、色々と後悔しているだけだ……」



 やはりアンフィスは煮え切らない答えのままだ。



「? お、おう? そうか。まぁなんか悩みがあったら言えよ?」



 これ以上は食い下がっても仕方がないだろう。そう、判断しテュールは引き下がる。



「あぁ。さんきゅ。まぁ今は放っておいてくれ……。お前らもな」



 そして最後にニヤニヤしながら行く末を見守っているベリトとヴァナルに釘を差したようだ。あの二人の態度から察するにあいつらは何か掴んでいるな。まぁ、言わないってことは大したことじゃないんだろう。



「ま、俺のことよりあっちをどうにかした方がいいぞ?」



「ん?」



 アンフィスの顎の先を視線で追うと――。



「ナハハハハー!! 床がぐるんぐるんなのらー!!」



「負けない。わらしは負けない。最強になるってきめら」



 幼女二人が空のコップを前になんか言ってた。どうやら前回とは違い、つっぷさずに意識を保っていたみたいだ。ギリギリだけど。



「ハッハッハーテューくん、こっちにきて抱っこするのらー!」



 バシンバシンとソファーを叩いて白い頬を朱に染めたゴスロリ幼女がこっちへ来いと催促する。



「え、イヤだけど」



 当然断る。そして、もう一人はトテトテと近づいてくると両手で俺のシャツを引っ張りながら戯言(たわごと)を言ってくる。



「ししょー。わらしは負けない。わらしをらっこする」



「らっこってお前……」



 そんな二人の対応に困っていると、痺れを切らしたヤツらが――。



「えーい、突撃なのらー! どーん」



「わらしは負けない。ろーん」



「「「アウッ」」」



 タックルをかましてくる――避けるわけにもいかず、とりあえずそれぞれを片手で受け止める。そして何故か便乗してきたポメベロスはテュールの胸のあたりにヒシッとしがみついている。



「えぇ……。俺酔っ払ってないから君たちのテンションについていけないんですけどぉ……」



「ガハハハ! そうだレーベ。負けるんじゃねぇぞ! 女としても負けるなんてこたぁ許さねぇからな!」



「フフ、リリス? 売られた喧嘩は買ってもいいけど、最後は仲良く、だよ?」



 はぁ……。そんな光景を肴にしながら煽ってくる親族ってどうなの?



 軽い疲労感に襲われたテュールは、幼女二人と犬一頭のハッピーセットを抱えたままスタスタと歩き、ソファーに腰掛けて、天井を仰ぎ見る。



「おら、テュール今日の主役がなにすましてんだよ。飲め飲め」



 そんなテュールにこのまま安寧が訪れるはずもなく、リオンが近付いてきて、おもむろに酒瓶の口を押し付け、飲ませてこようとする。



「おい、やめろ両手が塞がって。うぷっ。おい、アルハラだぞ」



「フハハハ、残念ながらこちらの世界にそんな言葉は存在しない。我がそんな言葉は認めないからなっ! ほれ飲め飲め!」



「そうだー! そうだー!」



 すっかり上機嫌なファフニールとテップも煽ってくる。あの野郎さっきまであんなだったのに……! そしてテュールがイジられているこのチャンスをあの御方が見逃すはずもなかった――。



「ふむ、楽しそうだ。宣言通り私も加わるとしよう、ほらテュール? あーん?」



 赤髪の龍族皇女が遠慮なく酒瓶を傾けてくる。



「ガバババ。ごぶはっ……!! こらっレフィーてめぇ殺す気か!」



「ナハハハー、テューくんが噴水になったのらー!」



「まけない、わらしはまけない。わらしもふく」



 やめなさい。お願いだからやめなさい。



「はっ!? そうだ!! そんなことよりカグヤとセシリアには飲ますっ――な、よ、……って」



「いいれすか! お祖父様っ! あなたは学校にあんなふざけた格好できて恥ずかしくないんれすかっ! それが一国の王族のやることれすかっ! だいらいれすねぇ! もしばれらら――!」



「フフ、聞いてください。お祖母様、あのですね? テュールさんが私のお弁当を褒めてくれたんです。あれ? お祖母様聞いてます? もうちゃんと聞いててくださいね? 今日ですね? テュールさんが私のお弁当を――」



 ソファーから振り返るとそこにはモヨモトを正座させて説教しているカグヤと柱に向かってこんこんと話しかけているセシリアがいた。



「あったまいってぇ。なんでこんなうちの女性陣は酒癖悪いんだよ……」



「おや、私は悪くないさね。それともなにか、あたしは女性じゃないと、そう言いたいのかい?」



「ガハハハ、そりゃそうだろ! ババアはカウンどぶろっくっぁぁ!!」



 もはや宴会芸になりつつあるリオンへの鉄拳制裁を見て、再度ため息をつき、祈る。どうか、カグヤとセシリアがこのまま眠るように寝てくださいますように、と。



「ハッ!? 今俺自らフラグ立て――」



「テュールくん! きみもきみらよ? いっつもいっつもいっつもいっつもおんらのこを侍らせてデレデレデレデレろ――」



「テュールさぁん。私はテュールさんが好きなんです。好きで好きでしょうがないんです。私も抱っこして下さい。いえ、抱っこすべきなんです!」



 こうしてわらわらとテュールの目の前に女性陣が集まり――。



「ナハハハー!! この場所は早いもの勝ちなのらぁ~」



「わらしはまけない。られの挑戦でも受ける」



「面白そうだ。私も勝負に混ぜてもらおう」



「では、不肖このベリトが取り仕切らせてもらいましょう」



 何かが始まってしまうこととなった――。本当に嫌な予感しかしない……。

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