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第83話 い、良い話があるんだっ!

 いつもよりのんびり歩いてもやがて終着点は見えてくるもので、見慣れた扉の前にテュールは立つ。


 

 キィ。



「ただい――」



「「「おめでとう!」」」



「まぁ……?」



 むぎゅ。



「わぷっ。……ししょー? どうした?」



 扉を開けて急に立ち止まったテュールにぶつかったレーベが訝しげに非難の言葉を口にする。



 そして、そんなレーベが腰のあたりから顔を出すと――。



「……ん。ありがと」


 

 何が起きているのか理解して、笑顔で感謝の言葉を口にする。



「……試合が終わって探したらいないと思ったが、こんな準備してたのか……。ありがとう」



 目の前には校内トーナメント優勝おめでとうと、そして、本戦も目指せ優勝! と大きく書かれた垂れ幕と飾り付けが飛び込んできた。



「ホホ、お疲れさん。まずはおめでとう。んで、どうじゃった? ワシらの解説。よかったじゃろ?」



「ガハハハ、レーベよくやったぞ! だが、まだまだ甘めぇな! おめぇはちっこいからな、デカくなれ! 俺のようにデカくなればもっと強くなれるぞ? 今日は食え! 死ぬほど食え!」



 おい、リオンと同じサイズのレーベとか可愛さゼロじゃねぇか。そこかしこからクレームくるわ。



「カカカ、まぁ今日くらいは美味いもんでも食べてゆっくりと休むさね。あたしも久しぶりに作ったんだ。不味いなんて言ったら神話級魔法ぶちこむから覚悟しな」



「フフ、テュール、レーベおめでとう~。魔界のみんなから祝辞を預かってきたよ~。まとめると今日は翅を伸ばすといい。そして明日からも夜露死苦だってさ。ハハハ」



 魔界古っ!? そして翅っ!? 不良なのかヴィジュアル系なのか……。いや、そもそも地球のネタ……。いや深くは考えまい。深く考えだしたら負けな気がする……。



「テュールくん、レーベちゃん、おめでとう。私も今日は二人の好きなものだけを作ったからねっ?」



「フフ、テュールさん、レーベちゃん、おめでとうございます。私も精一杯頑張って作りました。あの、その、美味しくなかったら言って下さいね?」



「大丈夫なのだ! リリスが味見したけどバッチリだったのだ! 今日はたっくさん食べるのだー!」



「ん、二人ともおめでとう。ちなみに私は料理に関しては見ていただけだ。まぁ、しかしめでたい日だからなテュール? あーんくらいしてやっても……。フフ、冗談だ。みんなそう睨むな」



「おぉー、二人ともおめでとう! いやぁ、実は決勝戦あたりの記憶が曖昧なんだが、まぁけどお前らのことだから余裕だったんだろ? 良かった良かった! ハッハッハ!」



「だ、そうだよ~。アンフィス、テップが気にしてなくてよかったね~。あ、二人ともおめでとう」



「はぁ……。俺はもう疲れた。テュール、後は任せた。俺は寝る」



「フハハハ、アンフィス? どこにいくんだ? 祝いの席だぞ? お前の兄弟であろう? 座れ」



「……はぁ。もう好きにしてくれ」



「フフ、なにはともあれお二人とも優勝おめでとうございます。さぁ料理が冷めてしまう前に頂くとしましょう。では、乾杯の音頭はモヨモト様に――」



「ホッ。わし? ええよ? んじゃ、コホン。あー、まずはテュール。レーベ。ほんにおめでとう。じゃが、まだスタートに立ったばか――」



「ガハハハ!! かんぱーい!!」



 ――かんぱーい!!



 グラスやコップ同士がぶつかる音が響き渡る。



「ばか……、り、じゃ……。ばか……」



「おう、モヨモトバカバカ言ってねぇで飲め、飲め!」



「じじぃになると話が長くなってダメさね。ほら、バカバカ言ってないで飲みな」



「お、おんしら……」



 そんなモヨモトの影には、執事がいつもの笑顔で立っていた。目が合うと、なんでしょう? と視線で返してくる。恐らくこの展開まで込みでモヨモトを指名したのだろう。執事恐ろしい子……。



「あっ、そうだ。セシリア?」



「はい、なんでしょう? 何かお口に合わないものでも……?」



「いやいやネガティブすぎるだろ。お弁当だよ。昼ごはん」



「……そ、そのお口に合わないものでも……?」



「だーかーら、いや、まぁ俺が原因でもあるしな。すまない。いや、弁当がどれも俺好みの料理で味も最高だったからお礼を言いたくてさ。おかげでいつも以上に調子良く戦えたよ。ありがとう」



「え、あ、嘘? 本当です? 嘘じゃないです? また、気を使って……」



「ストップ、ストップ。本当だって。本当に美味かった。絶対に嘘じゃない。それで、また、もし、その、気が向いた時でいいから作ってくれると嬉しい……かな」



「え、その、もちろんです! こちらこそ食べて下さってありがとうございますっ! 毎日でも作ります! 私テュールさんのためなら毎日気が向きます!」



「え? セシリア、テューくんと結婚するのだ? 毎日ごはん作るって結婚するときに使う言葉って聞いたのだ」



「え? そ、そんな! 結婚なんて! ……けど、その、えぇと、テュールさんさえ良ければ私は――」



 ゴトンッ。



 急な物音に全員の視線がそちらへ向く。喋っていたセシリアでさえも……。そして、その視線の先には――。



「うぅ……うぅ。ちっくしょう。お前はいつもそうだ。なんでお前ばっかり物語の英雄みたいにモテるんだ。ぢぐしょう。ぢくじょう。あぁ、今夜の酒はちっとしょっぺぇが、こんな甘ったるい夜にはこの塩味が丁度いいぜ……」



 泣きながら酒を飲んで詩人になっている男がいた。



「テ……テップ」



「テ……テップさん」



「やめろっ、やめろっ、お前ら二人で俺をそんな目で見るなっ!! くそぉおお、今夜は飲むぞ!! おら、誰か付き合え!!」



「はっ!! そうだ、テップ! お前に良い話があるんだっ!」

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