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第82話 この子なりのスマートさ

「リーーーシャせんぱーーーい!! 頑張ってくださーーい!! 貴女のテッブグァボラッ!!」



 …………。



「はぁ……。あのバカ何騒いでんだよ……。つーかいい加減鬱陶しいな。もう十分槍投げは楽しんだだろ? ――レーベ!!」



 コクリ。



 レーベはテュールの言葉に一瞬視線を向け、頷く。



「つーわけで、俺も動くぞっ、と」



『おぉーっと、ここでテュール選手が動きました!! 試合時間は丁度3分を過ぎたところです!!』



「チッ、マリ!!」



「うんっ!!」



 テュールはリーシャを無視してマリへと向かう。リーシャはそれを防ごうと間に入りにいこうとするが、レーベがそんなことを許すわけがない。



『テュール選手速い!! あっという間にマリ選手へと肉迫しました!』



『ふむ、優雅さが足りないねぇ。がっつく男は嫌われるんだよ。もう少しスマートにやんな、カカカカ』



(相変わらず解説席は余計なことしか言わないな……)



「というわけで先輩、優勝いただきますね。本戦でも優勝する気なんで応援お願いします」



「何がというわけかは分からないけど……。フフ、リーシャじゃないけどあなたも本当生意気ね。ちなみに私、接近戦が苦手とは一言も言ってないから、ねっ!」



 そして激突する二人。一方では――。



「助けはなくなった。どうする?」



「あぁー。ホント生意気。まぁ確かにマリにはいつも助けて貰っているけど? 私だけになった途端ナメてくる連中は今までも床を舐めることになってきたわ。そして、これから、も。ねっ!!」



 そして激突する二人――。



『さぁ、激しくなってき――ませんっ!! 動きが止まっています!! 動き始めたように見えましたが、4人ともが止まっていますっ!! どういうことでしょうか!?』



 息を呑んで観戦していた人々から次第にざわめきが漏れ始める。



「まぁね、頑張ってはいたけど、あの二人は止められないよねぇー」



「そうですね。この大会で少しは強い方をお見かけするかもと思っていましたが、このレベルでは……。ねぇアンフィス?」



「あん? まぁ、頑張った方じゃね?」



 リングに背を向けぶっきらぼうに答えるアンフィス。その目の前には――。



「あれー? アンフィス君ちょっと優しいね?」



「フフ、そうですね。けど、アンフィスさんはいつも優しいですよ?」



「ぬふふ~。アンフィス照れてるのだっ!」



「……ニヤ」



 微笑をたたえて覗き込む4人がいた。



「……降参だ。勘弁してくれ。ッチ、テュール早く戻ってきてくれ」



 観戦席ではリングの上で起こったことを正確に理解していた応援団が和やかに談話していた。



『ど、どうなったんでしょう? 婦人?』



『おや、見えなかったのかい? こんな婆さんにも見えてたんだ。おまいさんたち若い者が見えなくて――。今、婆さんって言ったかい? 嫌な気分になったね、後で馬面でも殴るとしようかね。っと、話が逸れたね。あぁー……そうさね。結果だけ言えばテュールとレーベ選手の勝ちだよ。リーシャ選手とマリ選手は気絶しているからねぇ』



 会場に解説席からの声が響き渡ると一斉に視線はリーシャとマリを行ったり来たりし始める。



 そして、つかつかとテュールはマリの後ろへ、レーベはリーシャの後ろに回り込む。



「失礼しますよ、先輩」



「ん」



 と、声をかけてからお姫様抱っこで持ち上げる。



「はいはーい。担架2台お願いしますー。気を失ってるだけなので慌てないで大丈夫ですよー」



 騒然となりかけた会場に間延びした声でそう告げるテュール。



「ほいっと。……じゃ、俺たちの勝ちでいいっすかね?」



 二人を担架に乗せた後、振り返り唖然としている審判に確認を取る。



「え、あ、っ! しょ、勝者1-S!! テュール、レーベ組!!」



「いぇい、お疲れレーベ」



「ん、ありがとししょー」



 パシンッ。背の高さも手の大きさも全然違う二人は、それでも同じような笑顔でハイタッチを交わす。



『……ほぇ? はっ! ゆ、優勝は1-Sです!! 大本命であった3-Sを下し、まさかの1年生ペアの優勝です!! 一年生での優勝は恐らく開校以来初めての快挙ではないでしょうか!! そして皆様が気になるのは最後のシーンです!! 誰もがこれから盛り上がる場面と言った所で突如動かなくなってしまった4人ですが、どうなってこのような結果になったのでしょうか!?』



『ん? あぁ、テュールの方はイヤらしい倒し方だよ。重力魔法と地系魔法、風系魔法、それに視線誘導を加えて、最後に攻撃したのさ。もう少し詳しく言うならばリングを柔らかくして身体を傾かせたところに重力魔法で重心をずらす。そして緩急をつけ、平行に動いているように見せかけ、その実不規則に動いて相手の視覚を錯覚させる。で、内耳の気圧を下げれば、もう三半規管はめちゃくちゃさね。そこをデコピンで軽くゆすってやれば見ての通りだ。ま、最後のデコピンだけで意識は奪えたが、それだと少し強めにしなきゃいけないからね、あの子なりのスマートさなんだろうよ。カカカカ』



『……な、なるほど! な、なんとなく気持ち悪くなってきましたっ! 私だったら一思いにデコピンで気絶させて欲しいものですっ! というかデコピンで気絶とかテュール選手はどんだけぇー! って感じです! では、レーベ選手はどうだったんでしょうか?』



『ん? あぁ、あの子は一発ポニーテールの子の首に手刀を入れたよ。恐ろしく、速い、ね。まぁ、けど勢いでふっ飛ばしたり首を落とさなかったんだ。それなりに力のコントロールもできているようで安心したさね。カカカカ』



『……。ど、どうやら決勝戦は伯仲した戦いだと思っていましたが、そうとは言い難い状況だったようです……。しかし、これは本戦が楽しみです!! 最後に決勝戦まで戦い抜いた両代表に大きな拍手を!! 以上解説席、メルチェロと――』



『カカカ、テュールの婆さんだよ』



『でしたー!!』



 ◆



「――では、これにて閉会式を終わります。最後に優勝した1-Sと、参加した全30クラスの代表に大きな拍手を――。ありがとうございます。では、お気をつけてお帰り下さい」



「ふぅ、とりあえず本線行きのチケットを手に入れられたな」



「でも、本戦はレベルが違う。まだまだ強くならないとダメ」



「そうだな。まぁ、けど今日くらい休んでもバチは当たらないだろ? それにテップにも朗報があるしな」



「……ん。今日だけ。明日からまた修行」



「おう」



 こうして二人は影を並べながら、いつもよりゆっくりと帰り路をゆく。

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