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第80話 カカカ天才さね

「え? あ、あぁ知り合い、です、けど?」



 急に話しかけてきた女生徒に咄嗟に答えた後、振り向いてよくよく見てみれば――

 

 

(決勝相手の人たちですやん……)


 

「そう。あなた対戦相手の1-Sの生徒よね? テップって奴もあなたと同じ1-Sクラスかしら?」



 尚も質問を続けてくるポニーテール女史。奴と言うくらいだから面識があるのだろう。

 

 

「え、あ、えぇと……そうです。あの~テップが何かしました? その、あいつアホなんですけど根は良いヤツなんです。ご迷惑おかけしたならすみません。ですからそのリンチとかはやめていただけると……」



 とりあえずテップのことだからアホなことをしたのは確定なので代わりに謝っておく。テップ感謝しろよ?

 

 

「ううん、違うの。あ、ごめんなさい。私はマリ、こっちはリーシャね。実は私達、テップ君にナンパから助けてもらって、それでリーシャがテップ君を気に入っちゃったの」



 テュールが謝るとポニーテール女史の影から物腰が柔らかくおしとやかな女生徒が慌てた様子で出てきてそんなことを言う。しかし驚くべきはその女生徒――マリの発言の内容だ。



「え!? テップに!? 本当ですか!?」



 そう、テップを気に入ったという発言。おいマイソウルブラジャー喜べ!! ここに遂にお前のヒロインが現れたぞ!!

 

 

 テュールは興奮を隠しきれない様子でマリにこれが現実かどうかを確認する。

 

 

「ち、違うわよ!! マリ何言ってるの!? 助けてもらったつもりはないわ! むしろ余計なお世話を勝手にしてきて先輩に対して生意気な態度を取ったから指導……そう! 指導をしてあげようと思ってるだけよ!」



 うおっ!! テンプレツンデレじゃないか!! 万が一デレないにしてもドMテップなら指導もご褒美のはず!! 良かったなテップ!!



 ちょっとキツめの言葉なのに感動しているテュールを見てリーシャは不思議そうに首を傾げている。そんな時――

 

 

 クイックイッ

 

 

「ししょー。今は試合の方が大事」



 感動するテュールの服をレーベが引っ張り(たしな)めてくる。



「ハッ! あ、あぁすまない。そうだな。……リーシャさん、試合が終わったら必ず紹介します。もちろん俺たちに勝ったらなんてことは言いません。紹介したいですから」



 丁寧な物言でも遠慮する気はないことを伝える。



「……ふーん。アナタも生意気ね。いいわ、どうも今年の一年は調子に乗ってる子が多いみたいだから思い知らせてあげる」



「リーシャものすごい三下っぽいセリフだよ?」



「ぐっ……。マリ……うるさい」



 リーシャも自覚があるのだろう。確かに三下のセリフだ。決勝戦ちゃんとした試合になるかな……?

 


「ん。私たちは負けない。絶対に勝つ」



 そしてレーベはそんな空気に流されず常に真剣に試合のことだけを考えているのが分かる。

 

 

「フッ、フン! いいわ! 論より証拠よ! リングの上で証明してあげるわ!」



 と、リーシャは最後まで盛大にかませキャラフラグを立てて足早に去っていく。マリは小走りで追従し、振り返ってぺこりと頭を下げる。その顔には苦々しい笑みが浮かんでいた。

 

 

 そんな二人を見送った後、テュールはレーベと顔を見合わせて息を一つ吐き、ニコリと笑うとゆっくりと自然な足取りでリングへと向かう――。



 ◆

 

 

『さぁさぁ! 遂に4人が出揃いました! 対戦するクラスは第一シードであり大本命の3-S! 狂狼リーシャ選手と、羊飼いマリ選手! 対するは一年生でありながら上級生を打ち破りここままで勝ち進んだ1-S! 獅子姫星レーベ選手と、不敬罪ことテュール選手です! 決勝戦の解説はベネチアンマスク婦人――略してベネ婦人にお願いしております! よろしくお願いします! 早速ですが、ベネ婦人この対戦カードどう思われますでしょうか!』



『そうさね。リーシャって子は考えるより直感で戦うタイプだね。自分のできることできないことをよく分かっているから迷いがなく思い切りがいい、17、8の娘にしちゃ達観している。そしてマリって子はかなり頭が良いね、きちんと周りが見えている。こういう子は戦力を足し算じゃなく掛け算にできるタイプだ。良い生徒を育てたね』



『流石3-Sの代表!! この奇っ怪な集団の一員であるベネ婦人から称賛の言葉をいただきました! そんな3-Sに対し、身内であるテュール選手とレーベ選手はいかがでしょう!?』



『ふむ、まずレーベって子は、リーシャに近いね。まぁこっちはわりかしクレバーな部分もある。どこぞの筋肉ダ……ふむ、流石にこの場でこれは控えておこうかね。ま、ともかく格闘術に関しては流石は獣王の直系だけあるってレベルさね。あとは不敬罪とか呼ばれている奴は……そうさね、本人には言ってこなかったけど天才としか言いようがないね。格闘術、武器術、魔法、全てが学園レベルをとうに越えているよ。ま、育てた人間がよほど優秀だったんだろうね、カカカカ』



『おっと、ベネ婦人まさかの身内ベタ褒めからの自分持ち上げです!! しかしベネ婦人が言うと本当にそう聞こえてきます! 何か不思議な説得力を持ちます! 私は実況という立場上どちらかを贔屓することはできませんが、恐らくは皆様が思っていることを代弁したいと思います! 3年の意地を見せてくれ、と! 不敬罪ことテュール選手の鼻を折ってくれ、と!!』



『フフ、あぁ是非とも鼻を折ってやってほしいね。カカカカ』



 ◆



「あなたの家族あんなこと言ってるけど?」



 リーシャが呆れたような口調でそう言ってくる。



「えぁ? は、はい。……いや多分この会場で一番驚いているのは俺だと思いますよ。なんてたってあのベネ婦人が褒めたんですから……。こりゃ雪が降るどころか本当にこの試合負けるんじゃないかってくらいの出来事なんですよ……」



「……あなた本当に何気なくバカにしてくるのね? いいわ、全校生徒を代表して私とマリであなたの鼻を折ってあげる」



 驚いて素のトーンで失礼なことを言うテュールに噛み付く狂狼。そしてそんな狼に今度は獅子が噛み付く。



「ししょーは天才。言わなくても分かるレベル。そしてししょーを倒したいなら弟子の私をまず倒してみて」



 この言葉にあのおしとやかなマリでさえ――



「フフ、ベネ婦人さんが言ってたようにレーベちゃんは負けん気が強いところなんかもリーシャと似ているのね。そこまで言うからには手加減なんて期待しないでね?」



 言葉が強くなる。だがロディニア大会で優勝すると決めたのだから、学内トーナメント(こんなところ)で躓いてなんかいられない。



 そして4人はそれぞれの言葉を訂正しようとせず、強い意志を籠めた視線とともに押し通す。言葉での問答はここまでだ、あとは試合でお互いの主張を証明してみせよう、と。



 4人の気迫が伝わったのか先程までざわついていた会場が急に静かになる。



 そしてそんな張り詰めた空気の中、遂に審判が本日最後の試合の開始を告げる。



「では、開始線について。――互いに礼。……はじめっ!!」

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