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第77話 弁当、それは青春の味

「……みんな、ここで食うのか?」



 キテレツ集団がわらわらとテュールの周りに集まってきた。その他の観客や生徒達はそこから更に大きく輪を広げヒソヒソ話をしながら様子を窺っている。おいおい見世物じゃな……、いや、これは見世物だな。俺だって他人だったら見ちゃうもん……。



 そしてそんな見世物集団の一員である覆面強盗がテュールの質問にさらりと返答する。



「ホホ、当然じゃ。ワシらは家族じゃからの。のぅ? ケンタウロス?」



「ガハハハ。当然だ! メシは大勢で食った方がうめぇからな!」



 え? リオンそれケンタウロスのつもりだったの? ケンタウロスって下半身が馬だからね? 地球出身のあんたらなら知ってるだろ? え? もしかしてこっちの世界のケンタウロスって……いやいや。



 と、テュールがどうでもいいことを考えていると、何かを勘違いしたツェペシュが不思議そうな声を出す。



「フフ、もしかしてテュールは家族とご飯食べるのが恥ずかしいの~?」



 黙れAlucard(ドラキュラ)。家族とご飯を食べるのが恥ずかしいんじゃない。家族がこんな格好をしていることが恥ずかしいんだ。



「ハハハ、皆そうからかってやるな。思春期という奴だろう。我にもあったあった。先生のことをお母さんと呼んでしまった日には身投げまで考えたぞ、ハハハハ」



 豪快に笑う大仏。ファフニール? 俺が転生者って知ってるだろ? 今更思春期が再来するわけないだろ……。はぁ、なんだろうこの人達の相手をしているとものすごいMP的なものを吸われる……。



「はぁ……。いや、もういい。どうせ明日には全校生徒に知れ渡るんだ。今更だな。よしっ、メシ食うか。けどせめて移動しよう?」



 テュールのその言葉にキテレツ集団は頷き、歩き出す。テュールを先頭にキテレツ集団は歩く歩く――。



「もうやだ。アイドルってこういう気分なのか? いやきっと違うな」



 痛いほどの衆目を浴びながらようやく会場の外へ出る一行。そして開放的な空の下、テュールの目に飛び込んでくる文字。



 テュール様御一行ココ



 有能な執事はどうやら場所取りをしておいてくれたようだ。地球で言うところのブルーシートが敷いてあり、周りをロープで囲ってある。そしてその外には既に何組か野次馬が陣取っており、食事をしながらこっちをチラチラ見ている。



「はぁ……。ポメ」



「「「アウッ」」」



 テュールは一つため息をつき、せめてもの癒やしにポメベロスを呼ぶ。するとポメベロスはナベリウスの腕の中からもぞもぞと這い出し、ジャンプしてテュールの胸に飛び込んでくる。そしてよちよちと首のあたりまで駆け上り、その三つ首をテュールの頭の上に乗せる。



「「「ハッハッハッ」」」



「おい、ポメ? 頼むからヨダレは垂らすなよ? お前の場合3倍になるんだからな?」



「「「アウッ!!」」」



 ……本当に分かっているのだろうか? まぁいい、後でシャワー浴びよう。



「で? 食事するのは俺とだけでいいのか? 他の――」



「シーッ!!」(よいか? ワシらとあやつら(・・・・)の関係は内密じゃ。もしバレたら大騒ぎじゃし、ましてこんな格好ではあやつらが変な目で見られてしまうじゃろっ)



 ……この覆面強盗さん殴っていいかな? その気遣いを俺にも発揮しろよ。俺にも。



「あの……せめてグレモリーさんはお面外しても……」



「グレモリー? その御方は誰でしょうか? あ、ちなみに私はオノノ・ヨモコと申します」



 ……もういいや。ツッコミ疲れた。



 テュールは何度目になるか分からないため息を一つつくと、グレモリーの言葉を流し、ブルーシートへと座る。そして胡座をかいた膝を二度叩く。それに反応したポメがすぐさま駆け下りてきて、テュールの胡座の中に収まる。



「あぁ、ポメ。お前だけが癒やしだ。さぁ俺とご飯食べよう?」



「なんじゃなんじゃ、寂しいのう。ワシらが折角応援しに来てやったに……」



「こんなジジババより犬がいいってことさね。こんなんじゃ来るんじゃなかったよ」



「けど試合は面白かったじゃありませんか。坊ちゃまも獣人のお嬢様もいい動きをしていましたよ。ナベリウス達を派遣した甲斐があります」



「私達のおかげ。散々訓練手伝った。あとケルベロス返せ」



「いや、だからその格好じゃなけりゃ大歓迎だって言ってんの。あぁバエルさんには感謝している。ナベリウス達をありがとう。ナベリウスにももちろん感謝しているぞ、ありがとう。だが、ポメは返さないからな。なぁ~ポメ?」



「「「アウッ!」」」



 テュールの言葉に嬉しそうに尻尾を振りながら一鳴きするポメベロス。



 そんなテュールとポメベロスを見て、ちょっとナベリウスが眉を(ひそ)めた。表情を変えるのは珍しい。だが、この集団の中で唯一まともな存在はポメかギリギリお前なんだ。だとしたらすまない、俺はポメを選ぶ、こいつは譲れない。



 そして、ワイワイガヤガヤと喋りながらようやく食事を始める。



 あんたにはこれだよ、とルチアがお重を差し出してくる。ありがたくいただくこととする。



 パカッ



 蓋を外せば、彩り豊かな料理の数々が目に飛び込んでくる。しかもテュールの好物ばかりだ。この弁当を作った人物は俺の好みを正確に捉えているようだ。早速いただきます。箸を使って、まずは玉子焼きを一口――



「ん、美味い。この味は……。こっち――も、美味い。――すごい、どれも俺の好きな味だ。この弁当は誰が作ったんだ……」



 お重の中の料理を次々に食べていくが、どれも自分好みの味の料理に興味が沸く。一体誰が作ってくれたのだ、と。そしてそんな呟きを聞いたルチアがぶっきらぼうに答える。



「フン、お前さんの弁当はどっかのエルフの少女が作ったみたいさね。バカみたいに試食を友達連中に手伝って貰いながら、ね。感謝の涙を流しながらお食べ」



「……そっか。うん、美味い。後でお礼言わなきゃな。……ハハ、ホント美味いや」



「そうかい、そりゃ良かったさね。ま、この弁当を食べたからには負けられないんだから覚悟しな」



「あぁ、当然だ。これ食べたら元気百倍になったからな」



 こうして結局、トンデモ集団とごく自然に会話しながら食事を終え、テュールは午後の試合へ臨むのであった。



 ◇



 一方、同時刻に他で昼食を取っていた残りの面々は――



「テュールさんのお口に合ってるでしょうか……」



 自分で作ったお弁当を不安そうに見つめながらセシリアが小さく呟く。



「大丈夫だよ。私達も何度も味見したけど美味しくできてたよ」



 そんなセシリアの呟きが聞こえたカグヤが、ほら、美味しいと目の前にあるお弁当を食べながら励ます。



「うん、やっぱりうまいのだ! このお弁当なら何個でも食べれるのだ! この玉子焼きなんかぜーーったいテューくんの好きな味なのだ!」



 リリスはすごい勢いで食事しはじめる。本当に何個でも食べてしまいそうな勢いだ。この小さな体のどこにそんなスペースのがあるのだろうかと恐らく皆が思ったであろう。



「そうだぜ、セシリア! このテュール弁当めっちゃ美味いぜ! ただほんの少しだけ俺の弁当だけしょっぱい気がする。なんでだろう? あと錆の味がするな、なんでだろう」



 上を向き、お弁当を強く強く噛み締めて味わっているテップがそんなことを言う。



「えぇ、それは涙液に塩分が含まれているのと、唇を噛み締めた際の血液に鉄分が入っているからですね。折角の美味しいお弁当なんですから余計な調味料は入れないことをおすすめしますが……?」



 そう言ってベリトは上品な箸捌きで食事を始める。



「言ってやるなベリト。しかし、本当に美味いな。私は追い抜かれてしまったようだな。だが恋に障害はつきものだ。私が障害となって立ちはだかるよう精進しようクク」



 自嘲気味に笑いながらレフィーがセシリアに負けを認めた――ようで宣戦布告をしていた。本音かどうかは彼女のみぞ知る。



「ん、美味しい。きっとししょー喜んでる。元気百倍」



 最後にレーベがそう言って小さく笑う。



「……皆さん、ありがとうございます。レーベさんすみません……試合がまだあるのに気を使わせてしまって……。こんなんだから私……。フフ、ウジウジのダメダメですね。……ふぅ、よしっ。レフィーさん是非お願いします! けど負けませんからね?」



 セシリアはウジウジでダメダメな自分を追い出すように頭を一度振ると、自分を奮いたたせる。



 そこからは少女たち5人はここにはいないテュールとキテレツ集団の話に花を咲かせる。それをベリトは優しく見つめ、そしてテップは上を向いたまま、なんでテュールばっかり、なんでテュールばっかりと呟きながら青春の味がする弁当を食べるのであった。

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