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第76話 わたいも×ちゅにこい

「はじめっ!!」



『さぁ!! さぁ!! 遂にはじっ――』



 開始の合図とともにリング上の4人が動き出そうと緊張する。一番初めに動いたのはテュール。しかしそれは極僅かな動き――両手の平を開いて、握る――それだけだ。



(引っかかるかなぁ? 引っかかったらレーベ頼むぜ……)



『――ま、り、ま、し――』



 そしてテュールの目論見通り、ダグとアレントの視線がそれぞれ一瞬テュールの両手に吸い寄せられる。そして、一瞬あれば十分だ。レーベが拳をその場(・・・)で振るう。



『――たっ!!』



 レーベの振るった拳は二回。ダグとアレントの顎の先端目掛けて鋭く振るわれた拳がもたらしたのは、ただ一度の頷き。ダグとアレントはその拳圧に顎を打ち抜かれ、大きく頭を前後に振られる。それだけで――



『さぁ、今開始の合図とほぼ同時に大きくダグ選手とアレント選手が頷いたのが放送席から見てとれます。何かを確認し合ったのでしょうか!! おーっと、しかし、これはどういうことだ!? ダグ選手とアレント選手大きく一度頷いてから動こうとしませんっ!! このままでは、テュール選手とレーベ選手に――』



『ホホ、もう終わっとるよ』



 そういうことだ。視線を吸い寄せられ、意識が途切れた一瞬に顎を打ち抜かれれば大抵の人間はこう(・・)なる。



『え? 終わっているとは、どういうことでしょうか? 私には始まったようにも見えませんが……あぁーっと、倒れました!! ダグ選手とアレント選手が今、自ら倒れました! ばたーんっと!! 私からは何の攻防も見えませんでした!! どうやら覆面強盗さんにはこの状況が理解できていたようです!! 解説お願いできますでしょうか!?』



『ホホ、もろちんじゃ。これはテュールの動き、今回では両手の平をさりげなく、されど気付くように開け閉めしてミスディレクション――視線誘導を行ったんじゃ。その視線が奪われたコンマ数瞬の間にレーベ選手が両選手の顎を拳圧で打ち抜き脳震盪を起こさせた、というところじゃな』



『………………。おぉっと!! この視界の狭まった覆面からきちんと見えています! そして、オチャメさも兼ね備えております!! ですが、学校行事ですので下ネタに引っかかりそうなネタはご勘弁願いたいです!! しかしこの解説は期待できますよー!! 皆様お分かりになりましたでしょうか!? つまり、テュール選手がグーパーしている間に、レーベ選手が二人を倒してたと、そういうことです!!』



 おい、グーパーって言うな、グーパーって。それじゃまるで俺が遊んでたみたいじゃないか! 視線誘導は高度な技術なんだぞ? もちろんレーベの拳圧でピンポイントを打ち抜く技術も凄いが……。



『そして、レフェリーが倒れたダグ選手とアレント選手に近づき――、試合終了だぁぁー!!! 勝者は1-S代表、テュール、レーベ組です!!』



「……うし、まずは一勝目だ。ナイスだレーベ」



「ん。ししょーの誘導のおかげ」



 っく!! バトルジャンキー組は自己主張が激しいやつが多い中、レーベは謙虚さを忘れないんだな。えぇ子や、えぇ子や。



 テュールはレーベの頭をクシャクシャっと撫でる。目を細めてなすがままになるレーベ。――ハッ!!



『流石ですっ!! 流石あの(・・)テュール選手です! 試合が終わった直後にピンク色の空気へと塗り替えていきます!! 今のをどう見ますか覆面強盗さんっ!!』



『ホホ、こんな衆目の中でヒト様のお嬢さんに手を出すとは中々勇気があるの、もしレーベ選手の親御さんが見てたらと思うと、叱ってやらんとの』



『なるほど、しかし、こう聞くと解説の覆面強盗さんはなんだかテュール選手のまるで、そう。身内みたいな言い方ですが、このところはどうなんでしょうか!?』



 ん? おい? なんだその流れは……。もう試合終わったんだからいいだろ? 次の試合のアナウンスを……



『ホ……!? き、気付かれてしまいましたかの?』



 …………え、何この茶番。



『えぇ……。まぁ、ゴクリ』



 …………口でゴクリ言うなよ。



「どうどう」



 リングから降り、二階で観戦しているみんなのところへ行こうとしている最中に不穏な会話を続けているモヨモトと放送部のメルチェロ。既に結末の見えた会話にテュールの表情が険しくなる。それを見たレーベが抑えて抑えてとジェスチャーしながら声をかけてくる。その間にも放送席での会話は続いており――



『ホホ、秘密にして欲しいんじゃが、実はここにおる者達はみなテュールの家族なんじゃ』



 あ、言いやがった。全館放送のマイクを通して秘密にして欲しいって言いながら暴露しやがった。



『えぇぇぇ!? こちらのキワモノ集d……、失礼!! こちらのキテレツ集団は皆様テュール選手のご家族なんですか!? 驚きですっ!!』



 おい、メルチェロ。言い直しても大して失礼度合い変わってねぇよ。あーあ、もうどうすんだよコレ……。



「……どんまい」



 背伸びをして、テュールの肩をトントンと叩くレーベ。うぅ。



『では、折角なのでテュール選手が勝利したことについての感想を伺いたいと思います!! では、こちらの真っ黒な服装で可愛らしい三つ首の犬を抱えたお嬢さんに聞きたいと思います!! お嬢さんはテュール選手の妹さんでしょうか?』



 …………って、よりにもよってそいつを選んでしまったか。



『違う。他人。家族なんかじゃない』



 ですよねー。



『おーっと!! 恐らく反抗期です!! お兄ちゃんなんか家族じゃないというアレでしょう!! でもしっかり応援には来ている!! キャーツンデレシスターキター!! 実に可愛らしいです!!』



『違うと言っている。人間風情が気安く喋りかけるな。私は魔界の公爵である悪魔ナベリウスだぞ。立場を弁えろ』



『おーっと!! 厨二病であります!! コッテコテの厨二病を発動しております!! 申し訳ありません! そうとは知らず人間風情が大変失礼をしました!! しかし、流石はこの集団の一員です!! 一見普通そうに見えましたが中を開けてみればビックリ箱です!! では、もしやそのワンちゃんは……地獄の番犬なのでしょうか……』



『ほぅ、ひと目で見抜いたか。人間にしてはいい眼をしている。そうだ、こいつは地獄の番犬ケルベロスだ』



『『『アウッ!!』』』



『おーーーっっと!! ブレませんっ!! そして、このドヤ顔です!! 実に可愛らしい!! 私もこんな妹が欲しいです!! 私の妹がこんなに可愛いわけがないし、そんな厨二病の妹に恋がしたい! です!! さぁほらお姉ちゃんと呼んでみて下さい!! ハァハァハァ……。――』



「お! おつかれー。ナイスファイトー。ハハ、あっち(・・・)大変だなー」



 放送席での漫談の内容のせいでヒソヒソと指をさされながらも黙々と歩いていたテュールとレーベは観客席に戻ると、見知った顔――テップにまず声を掛けられる。



 その後も他の面々から試合の労いと、放送の労いの両方をかけられる。どちらかというと後者の労いの方に心が篭っていたのは言うまでもないだろう……。



「で……、元凶の二人はどこ行った?」



 テュールは目線を左右に配り、この事態を招いたであろうアンフィスとヴァナルの行方を尋ねる。



「えぇと、アンフィスは頭が痛いので席を外す、と。ヴァナルはお腹が痛いので席を外す、とそう言ってましたね」



 うちの執事がそんな答弁をする。もちろん嘘だろう。



「おい、ベリト。こんなんでもお前の主だ。嘘偽りなく報告してくれ」



「…………畏まりました。では――アンフィスは放送を聞き、笑いすぎて顎が外れ、治す間もなく笑い続けたため頭痛がすると医務室へ。ヴァナルは腹がよじれるーと床を転げ回りながら笑い続けた結果、本当に腹がよじれたようで医務室へ……」



 う、うそじゃなかったーーー!!!



「そ、そうか。うん、なんだろう。一周周ってもうどうでもよくなっちまったな。ベリトもなんかすまん……」



「いえ、心中お察しします」



 テュールの言葉に沈痛な表情で応えるベリト。流石は執事だ、皆がバカにする中――



「何を言ってるのだー? ベリトだってずっとブフブフ、ブフブフ、吹き出しっぱなしだったのだ?」



「………………ベリト?」



「………………さて、試合を観戦しましょうか」



 とりあえずベリトを無言で一発殴り、当然避けられ、それを三度繰り返した結果、諦めて腰を下ろす。



 そして、午前中は一回戦のみのため腰を落ち着けて観戦をすることができた。次に戦う相手の試合も見たが、控えめに言っても負けることはないだろう。というか対戦相手をすべて見回しても今のところ脅威となりそうな相手はいない。まぁ、実力を隠している選手がいるのかも知れないが……。



 ちなみに解説はテュールの試合後もモヨモト達が順番に受け持ち、流石は実力者ということで解説者独特の、恐らく、多分、であろう、などの曖昧さがなく非常に聴きごたえのある解説をしている。



 そうして一回戦が全て終わると――



『今から1時間程お昼休憩となります。午後の第一試合は13時からとなります。繰り返します――』



 と、館内アナウンスが流れる。



「さて、昼飯にするかー。って、おーい。みんななんで急に離れ――」



「ホホ、テュールお昼じゃな!」



「ガハハハ!! さぁメシにするぞー!!」



「お昼ご飯だね。ハリー! ハリー! ハリー!」



「我らが使命は、その肉の最後の一片まで食すこと――エイメン」



「――――」



 …………え? 俺この方々と食事するの?

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