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第65話 あれ?声が、勝手に、出ているよ?

 黄色一色に染まる弁当箱を見つめるテュール。



「……今日はレーベとリリスの当番か?」



 コクリと頷くレーベ。



 そうなのだー! 自信作なのだー! と胸を張るリリス。



 昼食はお弁当を女性陣がローテーションで2人ずつ組み、作ってくれている。そして本日の担当はリリスとレーベ。ハズレ? バカを言っちゃいけない。この(・・)組み合わせは偏りはあるものの美味しいものを作ってくれる。



 ちなみに少女たちの料理の腕は、カグヤが一番、レフィーが二番、そしてリリスとレーベがどっこいどっこいと言ったところだ。セシリア? ……彼女を料理の上手い下手で言い表すのは難しい。



 セシリアはカグヤ、レフィーと組む時はとても繊細で美味しい料理を作る。が、レーベかリリスのどちらかと組むとたまにハンパじゃないケミストリーを引き起こし、ファンタスティックな料理を仕上げてくる。ちなみにセシリア一人で料理した時もギャンブルだ。



 さて、全員がお弁当箱を開けたところで、合掌し礼をする。さ、本日の卵焼きオンリー弁当をっと――。うん、美味い。少し甘めの卵焼きが座学後で疲れた頭にピッタリだ。



「どう? 美味しい!?」



 リリスがキラキラした目で見上げてくる。



「美味しいよ、ありがとう」



 そう言って、ついついリリスの頭を撫でる。



「……ふたりで作った」



 レーベが小さく自己主張をする。



「レーベもありがとな?」



 レーベの頭もぽんぽんと撫で――ついでに周囲に殺気の篭った視線を少々ばら撒いておく。



 そして、そんな様子を見ていたセシリアが――



「うらやましいので私も今度テュールさんにお菓子を作ってみましょうか、なんて、フフ」



 ニコリと笑顔でそう言う。



 その言葉を聞き、カタカタカタと右手が震えだし、それを左手で必死に押さえようとするテップ。おい、失礼だろ。と思いつつも――



「あぁ、ありがとうセシリア。楽しみだな~? ちなみに作るとしたら、何を作ってくれるのかな~、なんて?」



 自然に言えた、と思う。なんてって付け加えちゃうあたり動揺しているのだが、それくらいは許してくれ。



「フフ、秘密です。ですが最近とっても美味しそうなお菓子を思いついたので期待してて下さい!」



 思いついたって何だ、思いついたって。間違いなくレシピの存在しない創作お菓子ですよね? センスに左右されちゃうお菓子ですよね?



「ほぅ、うらやましいな。俺もセシリアのお菓子は食べてみたかったが、テュールのためと言うなら泣く泣く辞退しよう」



「だねー。にくいね~テュール」



 アンフィスとヴァナルが保身とからかいを一石にまとめて投じる。



「え? 皆さんの分も作ろうと思っていましたけど……?」



 純粋無垢なセシリアが意外そうな顔でそう言う。おい、アンフィス、ヴァナルお前らこんなセシリアを見て心が痛まないのか? お前らの血は何色だ?



「コホン! では、当事者と言えるテュール様に決めていただくのはどうでしょうか? テュール様がセシリア様のお菓子を独り占めしたいか、それとも慈悲深くも私達に分け与えて下さるのか」



 え? 独り占めなんてそんな……。と、両手を頬に置き、恥じらうセシリア。



 そんな目を瞑りながらクネクネしているセシリアに向け、テュールは一度唾を飲み込んだ後、ゆっくりと言葉を選びながら答える。



「……そりゃ、当然独り占めはしたい。だが、それはいくらなんでもわがままが過ぎるだろ? だから――「独り占めさせてくれ」



 ……ん? おかしいな、俺が喋る前に俺の声が……?



「あー、すまない、もう一度言うぞ――「君のお菓子を独り占めさせてくれ」



 ……おい、テップ? お前なに某ナントカ堂さんばりの腹話術声帯モノマネを使って――ハッ!?



「テュ、テュールさんが、そこまで言うなら仕方ないですねっ。ちょっと恥ずかしいですけど私テュールさんのためだけに全力で創造(つく)ります!」



 目を瞑りながらクネクネしてたセシリアが見事に引っかかってるーーー!?



 そして前に座っている男ども、その覚悟を決めろみたいな目をやめろ。いや、決めるけどさ。それにファンタスティッククッキングになるとは限らないんだからな! ……限らないんだからな。



「あ、あぁ、セシリア。わがままを言ってしまってすまない。ありがとう。楽しみにしているけど、その……忙しかったりしたら急がなくていいからな? いずれ、いずれで大丈夫だからな?」



「いえ、善は急げです! 今すごく色々なアイデアが思い浮かんできているので忘れない内に作ってみようと思います! ですので今夜のデザートは期待してて下さいっ」



「……あ、あぁ、ありがとう。嬉しすぎて涙が出そうだよ……」



 そ、そんな大袈裟ですっ。とわたわたするセシリア。この子に殺されるなら本望か……と、他の人のことは言えないほどには失礼なことを考えるテュール。



「カグヤさん、帰りに買い物に付き合っていただいてもいいですか?」



「もちろんいいよ」



「ありがとうございます♪」



 これは介入できるチャンスだと思い、俺も荷物持ちとしてついていこうかと提案するも、何を作るかバレたらつまらないのでダメですと断られた。……大丈夫多分わからないよ、とは言えず、苦し紛れにカグヤに明らかに無茶なものは弾くよう視線で訴える。



 伝わったか伝わっていないかは分からないが、カグヤはやや苦笑しながら頷いてくれた。



 そんな昼休みを過ごし、午後からは実技の時間だ。既に第ニ団、第三団も決定しているため、団ごとに訓練を行い、時折団同士の模擬戦を行ったりしている。



 第ニ団の団長は気苦労多き公爵家の次男クルード君だ。初日のことがあるため徹底した差別主義者かと思ったが、案外そういうわけでもなく、種族や家柄に関係なく接し、面倒見もいいため人望は厚い。ただしカグヤが絡むとやはりおかしくなる。そのため俺にだけ相変わらずあたりが厳しい。



 第三団の団長は出席番号1番のアイリスだ。彼女には……なんというか少し同情する。この団はアイリス信者の男子とそれを止めようとするアイリス守護隊の女子が意見をぶつけ合いながら物事を決めてしまう。そしてアイリスが口を挟もうとすると――



「アイリス殿の言いたいことは分かっているでゴザル。任せておくでゴザル!」「アイリスちゃん、こいつらからアイリスちゃん守るからね? 大丈夫、何も言わないでも分かっているから」



 と、アイリスそっちのけで話が進み、最終的にアイリスは空気と化したまま両者の中で話が締結(ていけつ)する。ボソッと「私の立ち位置って結局ここか……、もういいや、どうせ私なんか……、私なんか……」と呪詛を紡ぐその姿は涙なくして語れない。



 ちなみにアイリス信者の男子達にアイリスのどこがいいかを聞いてみたら――



「拙者達にも届きそうな位置にいて、陰のあるところにゾクゾクするでござる!」



 と、いい感じに失礼かつ変態っぽい回答を得られた。うん、遠くから応援してるね?



 こうして今日も愉快なメンツで実技の授業を行い、何事もなく時間は過ぎる。



 実技の授業が終われば帰りのホームルーム。今日もいつも通り早く終わるかな、なんて思っているとルーナから――

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