第56話 俺がお寿司で、お寿司が俺で
「今はそんなことはどうでもいい! 問題はテュール、貴様が美少女五人、つまり美おっぱい五セットに囲まれて暮らすということだ」
ビシッと指をさし、堂々と言い放つテップ。美おっぱい発言に少女たち五人の視線は急速冷却中だ。
「いや、待てテップ。俺も今知ったんだ。あと別に一緒に暮らすわけじゃないし。つーか、それを言うならアンフィス、ヴァナル、ベリトだって同じ立場のはずだが」
我関せずの態度の三人を指差しながらそう言うテュール。それに対し、テップはチッチッチと人差し指を左右に振り、口角を吊り上げる。
「フ、全然分かっていないな……。あぁそうだテュールお前は分かっていない。いいか? だいたいこういう時にラブイベントに巻き込まれるのは察しの悪い鈍感系主人公なんだ!!」
再度ビシッと指をさし、そう宣言するテップ。ものすごいドヤ顔である。そんなテップは尚も言葉を続ける。
「げーんにー! 貴様は今も慎ましやかな美おっぱいニセットと手を繋いでいるではないか!! 反論できるかねっ!?」
「リリス達をおっぱいでカウントするななのだ……」
「……ん。控え目に言ってゲス」
両隣の二セットおっぱいズは汚物を見る目でテップを睨みながら小さく言葉を返した。
やがて視線冷却が完璧に済んだレフィーが無言で扉をくぐり、カグヤも、セシリアを誘って中へと入る。それを見たアンフィス達三人もおじゃましまーす、とこの場から去ってしまう。
残るはテップとテュールと幼女二人……。
沈黙が場を支配し、どこからともなく吹きすさぶ無情な風に、木の葉が舞う。
「……あー、すまんテュール。お泊りイベントにテンション上がりすぎた」
「……あぁ、テップ。そんな時もあるさ、さ、中に入ろうぜ?」
こうして四人もようやくモヨモト達の家に入る。
そしてテュールが家の中に入り、目に映ったのは異世界と聞いて想像するような中世ヨーロッパ風の内装ではなかった。
(外観を見て薄々気付いていたさ。打ち付っぱなしのコンクリートでできた壁、なんか複雑な外観構造、凝った窓の配置……。そんな近代建築の結晶みたいな家の内装が心温まる朴訥としたもののわけがないって……)
そして、やれやれといった様子でテュールは家にツッコミを入れる。
「誰だよ、この超オシャレなデザイナーズマンション的な家作ったやつは……」
吹き抜けになっているだだっ広いリビング、続くカウンターキッチン、陽光に照らされキラキラと光る透明な階段、照明は可動式のスポットライトだ。
「ん? ワシじゃよ?」
テュールの独白に近いツッコミに律儀に答えるモヨモト。
「うぉっ、モヨモトいたのか……。というかネーミングセンスは最低なのに家を造るセンスはあったのな……」
「ホホ、いいじゃろ? 島にいた頃は某DAんんん!! ……村を意識したから手作り感ある家にしてたんじゃが、こっちはほれ、孫達も住むし、シャレてた方がいいかと思ってのぅ」
「あ、あぁ。まぁカグヤ達はこっちの方がいいんじゃないかな」
「そうじゃろ、そうじゃろ。まぁ、島の家もあれはあれで風情があって良かったんじゃがの。世界中を、これ捨てるんですか? なら貰ってもいいですか? と尋ね歩いたもんじゃよ」
(……嘘だ)
恐らく嘘であろうモヨモトの話にジト目で無言の圧力をかけるテュール。
「ホホ、して、そっちの子は友達かの?」
だがモヨモトは、そんなテュールの視線など柳に風の如く無視し、テップを紹介しろと言う。
「あぁ、そうそう。クラスメイトで同じ班に所属しているテップって言う面白いヤツだよ。あぁテップ、こっちは俺の育ての親であり、剣の師匠であり、カグヤの爺さんでもあるモヨモトだ」
「どうも! テュールくんにはいつもお世話になっています! ステップって言いますが、みんなテップって呼ぶんでモヨモトさんもそう呼ん──、ん? カグヤの爺さん? ん? モヨモト? エスペラント王国の姫の爺さん? モヨモト?」
「ホホ、んむ、恐らくテップ君の考えているモヨモトじゃの。エスペラント王国の初代国王モヨモトじゃ。まぁ今はただの隠居ジジイじゃ、気楽にしとくれ、ホホホ」
「…………」
あんぐりと口を開いて固まるテップ。
(おぉー、テップが驚いてる。これは珍しい。いいものが見れたな)
変なところに優越感を感じるテュール。
「ガハハハハ! テュールよく来たな。……んん?」
リビングが賑やかになり、来訪者に気付いたリオンが下りてきて歓迎をする。しかし、その途中、怪訝な表情になっていき──。
「おい、テュール? お前うちの孫娘に手出すとはやるじゃねぇか? 覚悟はできてんだろうな?」
レーベとテュールの繋いだままの手を見て、視線を鋭くするのであった。
流石に親族に見られるのは恥ずかしいのかレーベはゆるゆると手を離し、口を開く。
「……手を繋いでただけ。おじーさま、過保護、うざい」
「なっ! ウ、ウザい……だと? レーベが……、レーベが……、うちのレーベが反抗期だぁぁぁぁ!!」
雄叫びを上げ、床に両手を勢いよく叩きつけながら嘆くリオン。そんなリオンに無言でつかつかと近付いていく女性が一人現れる。
「五月蝿いよ!!」
ルチアは怒声とともに四つ這いになっていたリオンの腹にサッカーボールキックを見舞う。
(おい、ちょっとリオン浮いたぞ……)
その容赦のない暴行にテュールは顔を青くし、改めてルチアの恐ろしさを再認識するのであった。
「おや、テュールいらっしゃい。リリスもおかえり~。フフ、リリスはホントテュールによく懐いているね~」
ツェペシュも賑やかな様子に気付いて出てきたのであろう。そして、テュールと手を繋いだままのリリスを見て微笑みを浮かべる。
「ただいまなのだ! うん! テューくんはいつも優しいから好きなのだ!」
(おい、サラっと好きとか言うな。リリスの言う好きがまぁそういう好きじゃないのは分かっているが、童貞舐めんな。あたしぃお寿司好きぃ、って言われただけで俺が寿司なのか寿司が俺なのか分からなくなるくらいだぞ! ……俺は何を言っているんだ?)
「ていうか、ちょっと待てツッコミが追いつかない。一旦みんな落ち着こう。まとめて紹介するから整列」
テュールが頭を振り、額を押さえながらそう言うと、師匠達がピクリと反応する。
「ほぅ、テュールが俺達に命令する、か。ガハハハ、偉くなったもんだなぁ? えぇ?」
「カァ、テュールも外へ出たらイッパシ気取りかい、まったく男ってのはこれだから……」
「ホホ、まぁそう言うでない。上京して修行から遠ざかれば師匠のありがたみも減るんじゃろ、のぅ?」
「フフ、ファフも呼ばなきゃねー。おーい、ファフ~。テュールがこっちへ来て並べって言ってるよ~」
「……なに? 我に並べと? ふむふむ。いいだろう。我を並ばすほどの男になったというのならば並んでやろうじゃないか」
師匠達五人は不敵な笑みを浮かべばがらテュールの前に一列に並ぶ。それはそれはとてつもない闘気と威圧感を放ちながら……。




