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第55話 あ、ブレンド一つ。砂糖とミルク多めで、あとヌルくして下さい。

 少女たち五人はテュールを囲み、和気藹々と喋りながら下校する。



(あれ? これ俺必要?)



 テュールは少女たちの中心で口を挟むタイミングを見失い、聞き役に徹し適当に相槌を打っているだけであった。



 そんな和やか、と言えるかどうかは微妙な下校途中──。



「……最近リリスはししょーに甘え過ぎだと思う」



 少女たちの会話の中から不穏な一言が飛び出す。



「……う、うぐ。そ、そんなことないのだ! リリスとテューくんは友達なんだからこれくらい普通なのだ!」



 今もテュールの手をその白くて小さな手で握っているリリスが言い返す。



「ししょーは、もう少し弟子に目をかけるべき。リリスばっかり……そんなの変」



 視線を前方から逸らすことなく歩くレーベが無表情を装ったまま、テュールを責める。



「え? あ、そうだな……。ほら、リリス。レーベが拗ねるからここま──」



「拗ねてない。私はそんな子供じゃない。ただ一般論として弟子をないがしろにするししょーはろくでなしって言いたいだけ」



 レーベにしては珍しくやや早口でテュールの言葉を遮る。そしてそれを聞いてニヤけ始めるリリス──。



「なーんだ。レーベ()テューくんに甘えたいのだ? ならそう言えばいいのに、ねー? テューくんっ」



(リリスさんや? 自分が甘えているって自供しちゃってますよ? というか、無駄に煽るのはやめてください……)



 自ら甘えていることを自供し、嬉しそうにレーベを煽るリリスを見て、テュールの顔は引き攣る。しかし、非モテ前世を送り、転生してからも女子と関わることのなかったテュールにはどう取りなすべきかなど分からるはずもなかった。



「フフ、喧嘩はダメですよ~? 仲良く、ね? こうすれば、ほら仲直りっ」



 なんてテュールが困っていると、様子を窺っていたセシリアがひんやりした手でテュールの手を持つ。反対の手はレーベの手だ。そして徐々に近づけ、ピトリ。レーベの可愛らしい手がテュールの手のひらへと収まる。



「む……」



 レーベは何か言おうとするが、途中で口を閉ざし、やや下を向きながら手はそのままに歩みを続ける。



 恥ずかしがってるのか、嬉しいのか、拗ねたままなのか……。女性慣れしていないテュールには判断がつかなかった。



 が、とりあえず振りほどく様子もなく、文句を言う気配もないのであればこのまま事なきを得よう。テュール、悲しいまでの童貞処世術であった。



(しかし、思い返せば前世での学生時代に女子と手を繋いで帰ることなど一度もなかったなぁ……。それが入学二日目で叶っている。しかも二人同時だ。異世界ってやっぱりすごいんだな。ただ……)



 物思いに耽りながら両隣の幼女へとチラリと視線を配る。



「……ん?」



「どうしたのだっ?」



「いや、なんでもない……」


 

 この光景から犯罪の匂いがするということはあまり考えないでおこうと思いながら。



「変なテューくんっ。へへ、るんるん、テューくんと下校っ、下校っ♪」



 そんなテュールの内心など知ったこっちゃないリリスは、ご機嫌に歌いながらぶんぶんと手を振りスキップしている。



「…………」



 一方のレーベは静かだが、キュっと握り返された手は放すなと言っているようにも思える。



 そして、そんな一団の後ろからは──。



(ヒソヒソ、ヴァナルの奥さん、聞きました? 最近幼女を誘拐する事件が起きてるらしいのよ! 物騒な世の中ねぇ)



(ヒソヒソ、あらあら、アンフィスの奥さんも聞いたんですー? 私も娘の登下校が心配で、心配で! いい年した大人が幼女を……嘆かわしいですわねー)



 いつもの二人がヒソヒソとテュールに聞こえるようにそんなことを言い合っている。



(うるさい。俺も周りからの微笑ましい視線と、ドン引きの視線のブレンドに胃がモタれそうなんだ)



 両手を押さえられているため、振り向くことができないテュールは、文句を言うこともできず、内心で毒づく。



 そんなことを思っているとカグヤが──。



「フフ、到着だね」



 そう言って一軒の家の前に立つ。



「ん? 確かに到着だが、ここはモヨモト達の家……って、そりゃそうか。今日のパーティにカグヤ達も呼ばれているに決まっているよな。ハハ、なんだそういうことかスッキリした」



 学校を出る時、なぜ住む場所が違う五人の少女が一緒に下校したのか不思議に思っていたが、全てが繋がりスッキリと晴れやかな気持ちになるテュール。しかし──。



「ん? 呼ばれていると言うか、ここ私たちが住む家だよっ? というわけで、いらっしゃい、テュールくん。わが家へようこそっ」



 ヘヘ、と笑ってそう言うカグヤ。他の四人の少女もカグヤの言葉に頷いている。



「……へ?」



 先ほどまでのドヤ顔から一転、テュールは目を丸くし、言葉を失う。そして呆然と立ち尽くすテュールの両手をリリスとレーベが引っ張る。



「うむ、テューくん歓迎するのだ! これで毎日一緒に登下校できるのだー! 楽しみなのだ! フハハハハ!」



「……ん、ししょーいらっしゃい。私は弟子だからししょーの家に住むって言ったけど、ししょーは狼だからダメって言われた。でも裏だからすぐに会える。いっぱい稽古できる、よかった」



 そして、そんなテュール達をゆっくり追い越してセシリアが向かい合った家同士を指差し──。



「フフ、ほら丁度私の部屋があちらで、テュールさんの部屋があちらですので、窓を開ければたくさんお話しできますねっ」



 そんなことを言う。



「あぁ、テュール。ちなみに私の部屋はあそこだ。女性の身体に興味津々なお前のために着替える時は窓を魔法でノックしてやる。覗きたければ覗いてもいいぞ?」



 不敵な笑みを浮かべたレフィーは、テュールの部屋の窓から斜向いの窓を指差し、からかっていく。



 だが、テュールはそんなレフィーの冗談にも上手く返すことができず、生返事と相槌を打つだけだ。



「な、な、なにー!! テュール、お前美少女五人を隣の家に囲うとはなんたる鬼畜の所業だ!! クルードに言いつけるぞ!!」



「い、いや俺も今日知ったんだし……って、ん?」



 テュールの脳が情報を処理しきれていない内に、そんな声が後ろから聞こえてくる。その声は家にお泊まりセットを取りにいくと言って、駆け出した赤毛の男のものだ。



 テュールは、到着するの早かったな、くらいの気持ちでゆっくりと振り返る。



「なっ……!?」



 しかし、そこには、今から魔王討伐の旅に行ってきますと言わんばかりに大きなリュックを背負ったテップがいた。



「いや、お前、荷物多すぎるだろ……」



 とりあえず、処理しきれない情報は後回しにして、目の前のツッコミやすい所にツッコんでおくテュールであった。

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