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第48話 あったんだ、モヨモトは嘘つきなんかんじゃなかったんだ!

「すみません! 遅くなりました!」



 テュールが訓練場に着いた時には生徒たちは既に整列しており、カイン、ザビオルド、ルーナたち教師陣の姿も見える。慌てて頭を下げて謝り、アンフィス達の近くへと整列する。



 ルーナは一瞬目を配り、整列したのを確認すると言葉を発する。



「よし、全員揃ったな! ではこれから実技の訓練を始める。基本的に実技もこの三人の教師が見て回る。体術、武器術はカイン、魔術はザビオルド、私はその両方のフォローを行う。まずは準備体操と基礎体力訓練だ」



 そう言って、クラス全員で準備体操をした後、走り込みや筋力訓練を始めとした基礎体力訓練が行われる。



 走り込みは訓練場の外周を走る。カインは地面に寝そべりながらたまに、ちんたら走んなー、と声を掛けてくる。誰がどう見ても運動会を見学しにきた近所のおっさんだ。



 一方反対側にいるザビオルドは、真面目に監督しながら生徒にやや優しすぎる喝をいれている。



 そしてルーナはと言うと、最後尾を走っている。その手に鞭を携えて……。間違いなく現代日本であればワイドショーに取り上げられてしまう絵である。



「走れ! 最後に物を言うのは体力と根性だ! 時間まで足を止めることは許さん! 女生徒だからと甘く見るつもりは一切ないぞ! 戦場では相手が女だからと手を抜く阿呆はおらん! 分かったのならキリキリと走れ!!」



 最後尾の生徒は泣きそうだ。というか泣いている。それはよく知っている幼女──リリスであった。



「ひぃぃ、イヤなのだぁ、怖いのだぁ、叩かないでほしいのだぁ」



 泣き叫ぶ幼女、追い立てる女教師。これを見てワクワクしてしまう者がいたら末期であろう。



(で、そろそろウザいんだが……)



「……どうした? テップ何か言いたいことでもあるのか?」



 テュールの横で何も言わずただニヤニヤと走っているテップにそう問う。



「いや勇者がここにいると思うとつい嬉しくてね。流石だよな~。俺もどうやって忍び込もうか、覗こうかと計画を練っていたところだったんだ。それをまさか堂々と正面から突入する! 俺は胸が震えたね。こいつには一生勝てない、と。流石だマイソウルブラジャー」



「……やかましいわ。事故だ事故。故意じゃないからな?」



 結局覗きの件は教師陣も隠しておくことは不可能だと考え、下手に隠すくらいならいっそとルーナから説明されていた。



「事故で着替え現場に遭遇してしまったテュールは罰として雑用係を一ヶ月任命した。但し教師の依頼のみだ。間違ってもお前らの奴隷ではないからそこは履き違えるな。そして被害者である女生徒からは訓練の相手になって欲しいと要望があったためそれを受理した。この件の処罰は以上だ。余計な詮索、口出しは無用とする。分かったなら走ってこい」



 ――と。



 そう説明された時、男子からゴミのような目で見られると覚悟していたテュールだったが、思春期男子を甘く見ていた。男子一同は目をキラキラと輝かせ、そわそわしだしたのだ。だが、もちろん何にだって例外はある。テュールの斜め後ろ、頭らへんに痛いほど視線を感じさせる存在がいた。テュールは怖くて振り向けなかったが、クルードで間違いないだろう。



 そこからは決してクルードを視界に入れずに逃げるように走っていたテュール。がむしゃらに疾走し、半周ほどクルードの前方に位置してからはその位置をキープするよう細心の注意を払っている。



「で、どうだったんだ? どの子がバインバインだった?」



 そして、その間ずっと隣をついてきたテップからは最低な質問が飛び出る。ルーナから注意された詮索無用という四文字は脆くも崩れ去っていた。



「命が惜しいので黙秘する……」



「なんだよ、テュール冷たいじゃないか! 俺の物はお前の物、お前の物は俺の物、仲良く共有しようぜ?」



「お前、よくこの殺気の中そんなことが言えるな……」



 後ろを振り返らずテュールがそう言う。半周の距離がありながらもクルードの視線をずっと背に感じているテュールは嫌な汗が止まらないのであった。



「アハハ、んじゃカグヤのはいいからさー、他の──ヒッ!!」



 バッとテップは振り返る。カグヤという三文字を出した時点で殺気を浴びる対象になったのだろう。



「ま、間違えた! あー、間違えた! 間違えた! おい、テュール!! お前絶対に着替えの件に関しては今後一生詳細を語るなよ! 特にカグヤ様のは墓までご内密に持っていってござ候!」



 どうやらクルードは視線だけでテップの脳内の言語を司る部分を焼き尽くしたようだ。



「ったく、下らないことを言うからだ。そのうち教師に見つかってまた怒られるぞ? で──」



 一緒に走っていたのは何もテップだけではなかった。その中の一人ベリトに視線を向ける。



「お前は何故に執事服のままなんだ?」



「フフ、それは私が執事だからですよ」



(いやドヤ顔で返すなよ……)



 執事という単語で何もかも許されると思っているのではないかと、ついつい本気で心配になってしまうテュール。ちなみにヴァナルとアンフィスはきちんと体操服に着替えている。余談であるが、この三人はそれぞれ、ルーナ、カイン、ザビオルドから教室は女子が更衣室として使っているという情報を聞き、覗きを回避できたのだ。



 そしてそのまま結局、一時間程走ったがクルードからの視線は途切れることはなかった。テュールの人生でこんなに情熱的に見つめられたことがあっただろうか? いやない。



 こうして嫌な汗をかきっぱなしの走り込みがようやく終わると、そこからは体術、魔術の訓練へと移っていく。



「ここからは本来であれば団ごとに別れるのだが、まだ第一団しか決まってないか、まぁいい。第一団はここに集まれ。残りの二十名は向こうだ。半分に分けてカインとザビオルドの担当とする。担当教師は時間でローテーションするからカインの担当の者たちも安心するがいい」



(おい、ルーナ女史、冗談は嫌いじゃなかったのか?)



 思いっきりカインを出汁にして冗談を言うルーナについつい内心でツッコむテュール。だが、よくよく考えればそれが冗談ではなく本気である可能性もあったことに気付く。



 そして、第一団の十名はそんなルーナの訓練を受けることとなる。



「では、それぞれ得意な戦闘スタイルを言っていけ」



「素手だな」



「短剣二刀流だよー」



「相手の方に合わせていますね」



「魔法でーす! つーか身体動かすの嫌いで──ヒッ!!」



 ここまで男性陣四人。テップは魔法が得意と答え、これにはテュールも意外だと思ったが、何ていうことはない。きちんとオチが付いており、ルーナにもきっちり視線でツッコまれていた。ちなみにテュールは剣、刀と答える。



 そして女性陣──。



「刀術です」



「魔法ですね」



「魔法なのだー」



「……素手」



「槍だ」



 カグヤが刀を使い、レフィーが槍を使うのは初めて知ったためテュールは少し驚きを覚える。そして、それを聞いたルーナはそれぞれの戦闘スタイルを紙に記録していく。そして──。



「では、まずは実力を測るためにも軽く組手をしてもらおう」



 そう言ってルーナは組手の相手を指定していく。



「テュールとカグヤ、アンフィスとレーベ、ステップとリリス、ベリトとセシリア、ヴァナルとレフィーだ。倉庫に木製の武器があるから各自で選んで持ってこい」



 そして言われた通り、武器を選びに行く面々。しばらくして武器を選び、戻ってくると──。



「よし、ではテュールとカグヤからだ。試合時間は三分。お前らは魔法はなしとしよう。純粋な剣術、刀術のみで戦え」



 そう言われ、はいと返事をしてから二人は距離を置き、名乗りを交わす。



「モヨモト流剣術印加(いんか)カグヤ参ります」



「あぁ、モヨモ──、モヨモト流!?」



(え、え、え? モヨモト流って本当にあったの? ──って、そ、そうかっ!! モヨモトって二つ名刀神じゃん!! ってことは、あったのか!! モヨモト流剣術は本当にあったんだ!! モヨモトは嘘つきじゃなかったんだ!!)



 完全にモヨモト流は自分だけだと思いこんでいたテュールは驚愕するが、モヨモトの二つ名を思い出し、納得する。



「ん? どうしたテュール。何に驚いているんだ? モヨモト流剣術はこの世界で最も有名な剣術だぞ? まして刀術と言えばモヨモト流の他にないと言っても過言ではない。そして、カグヤの出自を考えれば当然だろう」



「い、いえ、僕の田舎ではモヨモト流剣術習っていたの僕だけだったんで、初めて同じ流派の人と戦えるんだぁと驚いてしまいましてハハハ。あぁカグヤすまない。同じくモヨモト流剣術……テュールだ。よろしく」



「んっ? なんて言ったの?」



 免許皆伝の部分を早口かつ小声でモゴモゴと言って誤魔化すテュール。これで嘘はついていないと自分を納得させ、シラを切ったままテュールは構える。



 そして、カグヤは納得していない顔をしているが、テュールが構えをとったため、そのまま追求せずに自分も構えをとり、開始の合図を待つ。



「はじめっ!」



 そして戦いの火蓋は切って落とされた──。

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