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第42話 学校を休んだら班長とかにされている。あるある。

「あー、では、まぁ今更だが、改めて、諸君ハルモニアへの入学おめでとう。私が担任のルーナだ。見ての通り狐族の獣人だ。副担任は二人。一人は臨時講師として戦闘系を中心とした授業を受け持つカイン。人族でSSクラスの冒険者だ。ちなみにここのOBでもある」



 よろしくなー、と気楽な挨拶をするカイン。ルーナはそんな態度が気に入らないようで真面目にやれと睨んでいる。



「ん、コホン。それでもう一人の副担任が魔族のザビオルドだ。彼は魔術を中心とした実技・座学を担当する」



 よろしくお願いします、クルードを医務室に連れて行った後合流したザビオルドがナヨナヨっとした笑顔で挨拶をする。



「では、手短にひとりひとり自己紹介をしていけ。名簿順に上からだ。まずはアイリス!」



 急に呼ばれたアイリスは、ビクッとした後、すぐに自己紹介を始める。出身国と名前だけの簡単な自己紹介だ。種族は言わないが、出身国=種族が常識であるため誰も疑問には思わない。



 そして、順に自己紹介は進んでいく。当然噂になっていた五大国の王族関係者達の自己紹介の時にはクラスメイト達はざわめいた。



「カグヤ・マイヤード・エスペラントです。出身国はエスペラント王国です。よろしくお願いします」



 ──おい、さっき噂になっていたエスペラント王国第一皇女だろ? 



 ──王族で主席か……それでカワイイとかすごいな。



 んんっ! ルーナが咳払いをして先へ進める。


 

「セシリア・ユグドラシルです。出身国はリエース共和国です。よろしくお願いします」



 ──ユグドラシル! 



 ──世界樹の管理をしているリエースの巫女の一族……でもそんなことより、可愛い……。



 コホン! ルーナの咳払いは続く……。



「リリス・ヴラド・エウロピア! エウロパ領から来たのだ! よろしくなのだ!」



 ──ヴラド……賢王、ヴラドか



 ──あの真祖の? でも、そんなことより小っちゃかわゆいぃ。



 あー! おっほん!! ルーナの咳払いは徐々に精細さを欠いていく。



「レーベ・パンゲア・マーシュガ。パンゲアから来た。よろしく」



 ──パンゲア・マーシュガ……だと? 



 ──マーシュガ!?



 ──マーシュガ!! ガタリッ。男子たちは腰を浮かせ、目が輝かせている。



 はい、次行けー、ルーナは咳払いを諦め、普通に注意していた。



「レフィー・ドラグーン・アルクティク 出身はアルクティク皇国だ。よろしく頼む」



 ──アルクティク……。



 ──純龍……!? は、初めて見た。っていうかめっちゃ美しい。踏まれたい。



 ──確かに踏まれたい。踏まれたいぞぉぉ!! 



 ザワザワザワザワ! レフィーは大人気だった。本人は下らないとばかりに既に座って外を眺めている。分かりやすい非行少女スタイルだ。



「はぁ、お前らなぁ……。もういい」



 何度注意しても騒ぐ生徒達にルーナは疲れ切っていた。尚、我らが主人公テュールの自己紹介の時は、こうであった。



「あっ、テュールっす。家名とかないっす。どこの国にも属していないすげー西の田舎から来ましたー。よろしくお願いします」



 ──ふーん。



 で、あった。しかし、アンフィス、ベリト、ヴァナルの時はやや熱の籠もった視線を送る女生徒が何名かいた。いつもの仕返しとばかりにテュールはそんな三人の自己紹介の時にニヤニヤしてたら他の女生徒から、なにあの人ニヤニヤして気持ち悪いっていう目で見られた。



 そしてテップの時は──。



「ステップです。気軽にテップって呼んでくれなー。出身はエスペラント! よろしく! あ、彼女は欲しいですが、募集はしていません。なぜなら愛されるより愛したい、そんな愛の狩人なので! 好きなおっぱいは──」



 スパンッ! 彼の自己紹介はそこまでだった。ルーナの投げたチョークがテップの額に当たる。当たった瞬間に粉末になる程度の威力で……。



 そんなこんなな自己紹介が終わり、考えないようにしていた現実を突きつけられる。



「あー、もう分かっていると思うが、ここにいるカグヤ、セシリア、リリス、レーベ、レフィーの五人はそれぞれの出身国の王族・皇族に類する立場の者たちだ。しかし、ここ自由都市リバティ、特にハルモニア校に通っている間はそういった立場や肩書は極力気にせず接するようにして欲しい。しかし、弁えるべきところは弁えろよ?」



 ジロッと先程カグヤのことでトラブルを起こしたばかりのテュール達を睨むルーナ。コクコク頷くテュールとテップ。アンフィスとヴァナルとベリトはニヤついたまま頷くことはない。



(お前らも含まれているんだからな?)



 ルーナがくるりと黒板を振り向いた瞬間にそんな三人を睨むテュール。だが、そんな三人は半笑いでいつものように肩をすくめるだけであった。



 カッカッカ。そしてルーナが黒板に大きくリーダー、男子、女子と書き、振り返る。



「で、だ。まず始めにこのクラスのリーダーを決めたい。女子と男子一名ずつだ。誰か立候補はいるか?」



 クラスのほぼ全員の視線が主席のお姫様、カグヤに集まる。え? え? とカグヤは無言の圧力にビビっているようだ。



 しかし、そんなカグヤ一色ムードをまるで感じ取れていない幼女がその幻想(ムード)をぶち壊す!



「はいはいはーい! リリスがやりたいのだー!!」



 純粋無垢に手を上げるリリスにクラスメイト全員の視線が集まる。そして訓練され統率された軍隊のような動きで再度カグヤを見る。その無言の視線にはリリスでいいのか? と問うているようだ。



 そしてカグヤは、相変わらず無表情なレーベに肩をぽんっと叩かれ、頷かれる。これにはカグヤも苦笑いし、覚悟を決めたようだ。



「はい、私も立候補します。リリスちゃん? その、どうしても私やってみたいんだけどどうかな? でも自信がないからリリスちゃんに手伝って欲しいかなぁ、なんてっ」



「ん? カグヤがやりたいのだ? ……うんっ、いいのだ! リリスが手伝ってあげるのだっ!」



 リリスは本当にいい子だった。クラスメイト達はこの一幕にほっこりしている。なんならハンカチを目に当てて感動している女子すらいる。男子生徒の一部はリリスに大きな拍手を送っている。



(このクラス、ノリが異常に軽いな……。世界一の学校これで大丈夫か?)



 クラスメイトのノリの良さに若干引いてしまっているテュールであった。そして、それはルーナも同様なようで額に手を当て、頭が痛そうだ。



「ん、では、女子のリーダーはカグヤに頼むとしよう。では、男子だ。誰かいないか?」



 来た。男子がざわつき始める。



 ──王族の、しかもあんな美人と? 



 ──いや、けど勇気を振り絞れば俺にも春が……。



 ──放課後二人で残って、遅くなっちゃったね、送っていこうか? とか、ちょっと寄り道してこっか? とか!?



 男子生徒はみな思春期真っ只中であった。そんな中、愛の狩人テップが凛々しい顔で、手を高らかに挙げる。



 意外にもそのことに対し、クラスメイト達はあまり驚かない。バカなことを言っていたクラスの男子達も薄々とそうなるのではないかと思っていたのだ。あぁいうお調子者が恐れを知らずに突き進み、なんだかんだ上手いところをかっさらっていくのだ、と。



 そして、既に入学初日からお調子者枠を不動のものにしたテップは、息を大きく吸い込み、クラスメイト達に宣言する。



「はい!! テュール君がいいと思いまーすっ!!」



 !? ざわっ! 男子一同の予想が大きく外れる。テュールもテップなら行くだろうな、と思っていただけに驚きを隠せない。そして、そんな面白そうな提案に乗らないわけがないイルデパン島出身の三人──。



「はいはーい。ボクもテュール君がいいと思いまーす」



「俺もテュール君がいいと思いまーす」



「では、私もテュール様に一票を投じさせていただきますね」



 ヴァナル、アンフィス、ベリトだ。



(こいつら……! おい、やめろっ! クラスメイト達が、え? あのモブっぽい人? なんか普通じゃない? なんで推薦されてんの? みたい目をしているじゃないか!!)



 そして、カグヤはカグヤでモジモジと恥ずかしそうにテュールに視線をチラつかせ、テュール君ならやりやすいな、と小さく呟いている。そして、当然リーダーなどの器ではないと自身で分かっているテュールは、どうやって断ろうか思案している。それを何と勘違いしたのか、後押しの声が上がる。



「……ん、大丈夫。ししょーならできる」



「うむ、テューくん、リリスも手伝うのだ。安心するのだっ」



「そうですね、テュールさんは優しいですし、頼りがいもありますし。きっと良いリーダーさんになれますよ!」



 レーベ、リリス、セシリアだ。当然、五大国の姫君たちが賛同の声を上げれば、クラスメイトも納得──。



(あれ? 男子からの視線がなんだか突き刺さ──痛い! 痛い!)



 などするわけがなかった。特に男子生徒一同は、自分たちと同じポジションくらいだと思っていたテュールが姫君たちから支持を受けているのにとても嫉妬していた。そう、とても、だ。


 

 そしてそんなテュールと男子生徒の無言の確執を見て、レフィーがニヤリと笑う。そして──。



「あぁ私もテュールなら大賛成だ。皇国を任せてもいいと思えるほどの男だからな」



 ──え? クラスメイトたちがレフィーの言葉に凍りつく。



「お……お、おおおお、お前なんてこと言ってくれてんだぁぁぁあああ!?」



 つい声に出してツッコんでしまうテュール。



 ──お前!? 



 ──アルクティク皇国皇女をお前呼ばわり!?



 ──え? じゃあさっきの発言って、そういうこと?



 ざわつくクラスメイト。ニヤつくレフィー。それを見て笑っているアンフィス、ヴァナル、ベリト、テップ。何が起こっているか分からず左右をキョロキョロし、無意味に対抗して笑い始めるリリス。教室の空気は最高潮にカオスっていた。



 ドンッ!! パラッ……パラパラッ……。 



 ──そして遂にルーナの拳が黒板に打ち付けられる。白煙がもうもうと立ち上る中ルーナの怒声がテュールへと放たれる。



「えぇい、黙れ!! お前らいい加減にしろ!! 今はホームルーム中だ!! もういい!! 男子のリーダーはテュールお前だ!! 異論はないな!!」



「イエス、マムッ!!」



 ピシリと直立し、即座に敬礼、返答をするテュール。ふぅ、よし、それでいい、なんとか落ち着きを取り戻し、満足そうに頷くルーナ。



「では、最後にこのクラスには三十人の生徒がいる。これを五人一組で六班まで作れ。そしてその班をニつ合わせた十人を一団とし、三つ団を作っておけ。一週間後を締め切りとする。ここに班名簿を貼っておく、期限内に自分たちで決めて書き込んでおけ。以上だ、解散!」



 こうして怒涛の入学初日が終わる。



 そして、解散となったクラスメイト達は早くも班決めを意識しており、チラホラと自己紹介がてら仲良くなれそうな生徒を探し始めている。



 班決めと聞くとつい緊張してしまう元日本人のテュールであったが幸い五人なら何も恐れることはない。一瞬で決まった。テュール、アンフィス、ヴァナル、ベリト、テップだ。テュールは安心して振り向く。そこには──。



 なぁ、もう班決めた? 今しがたメンバーに数えてた四人がテュールではない男子生徒に話しかけていた。



「うわぁぁああ!! ばっっきゃろぉぉおお!!」



 テュールは泣いて駆け出した。そらもうイルデパンで家族と別れた時の何十倍もの涙を流し、駆けていった。



「フフ、少しやりすぎましたね」



「あぁ、どうやら何かしらのトラウマを踏んだみたいだな」



「そうだねー、本気で泣いてたねアレ」



「いやぁ、分かるなー。俺もこんなんだからどこでもやっていけるっしょって最後まで残されたもんだぜ、ハハハハ!」



 そう言って四人は張り出されている班名簿の一班の欄に五人分の名前を書く。ちゃっかりと班長はテュールに押し付けて。



 書き終わると次はカグヤが順番を待っていた。そしてサラサラと二班の欄に五人分の名前を書く。



「班のリーダーはリリスちゃん、お願いしていいっ?」



「フフン♪ 任せるのだー!」



 と、とても微笑ましい光景ができあがっていた。



 そしてちゃっかりレーベは副班長に就任し、このリリス班長、レーベ副班長の独断により、一班に何の確認もなく一班、二班での団結成が決定されていた。それを見たアンフィス達四人は、まぁどうせこうなるだろうし、いいだろ。班長もきっと喜ぶはずだ。とさして気にしていなかったが。



 そうとなれば団長を決める必要がある。テュールでいいだろ。九人の意見は見事一致し、こうして力と富と権力が一極集中した最強の第一団が結成されたのであった──。

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