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第36話 主人公最強とか言ってごめんなさい

「かんぱーい!」



 この場には十五歳未満はいないため、全員が酒を片手に乾杯をする。



 そしてテュールも魔法で冷やしたビールを一気にあおり、飲み干す。



「ぷはーっ。キンキンに冷えてやがるぜ」



 ゴトン。ゴン! ゴン! 目を閉じ、ビールの堪能したテュールはグラスをテーブルに置く。



(さて、モヨモト達に何がどうなっているのか聞かなきゃな)



 そう思いながらテュールは目を開けた。



 ここまで十秒。



 乾杯という発声から腰に手をあて天井を仰ぎ、目を瞑って五臓六腑にビールを染み渡らせる。余韻を楽しんだ後、気持ちを切り替えてそっと目を開ける。ここまでが十秒ということだ。



 その僅か十秒で既に場は混沌と化していた。



(あ、ありのまま今起こったことを話すぜ? 酒を飲んでいたら目の前に屍がニ体出来あがっていた。催眠術とか超スピードとかそんなチャチなもんじゃねぇ、というより超スピードで催眠術かけらて倒されたっていう方がまだ説得力がある)



 とにかくテュールが目を開けたときには、既にリリスの屍とレーベの屍が出来あがっていた。先程のゴン! ゴン! はどうやらグラスを置いた音ではないらしい。グラスを片手に持ったまま額をテーブルに打ち付け、動かない二人から予想されるには、だが。



「レーベェェェ!! 獅子族は酒ごときに負けてはならんぞ! ほれ起きろ! 飲め!」



 リオンは、そんなレーベを揺すり、酒を飲まそうとする。完全なアルハラである。一方ツェペシュはそっとリリスをソファーに運びタオルケットを掛け休ませている。各家庭で教育方針に大きな違いがあった。



 ムクリ。



(あ、レーベが起きた)



 ゴクゴク……ゴン! 



(あ、死んだ)



「負けるなレーベェェ!! 飲むんだ! 飲むんだレーベェェ!!」



 ズバンッ!!



 尚も喚くリオンがルチアによって強制的に黙らされた。方法は言うまでもないだろう。



 そして、ルチアによってレーベは回収され、二つ目の屍安置所(ソファー)で寝かされる。ロリっ子達二人は開始十秒でログアウトとなった。



「フフ、リリスちゃんとレーベちゃんにはまだ少し早かったみたいですね~」



 そんな二人を見て少し頬が赤く染まったセシリアがそんなことを言う。



「そうだね。お酒は飲んでも飲まれるな。自制しなきゃねっ?」



 ねー? とカグヤとセシリアが少し上機嫌になりながらそんな話しをしている。



(俺これ知ってる、フラグってやつだ。止めなきゃ……)



 そんなことをテュールが思っていると腹をさすりながらリオンが近付いてくる。



「ってて、たくあのババアめ……。おい、テュール聞いたぞ? お前うちのカワイイ孫娘の師匠になったみたいじゃねぇか? ん?」



「あ、あぁ、まぁ成り行きでね?」



「そうか、そうか、ついこの前まで鼻垂らしていたお前が師匠か? 偉くなったもんだな? うちのレーベの師匠名乗りたいんなら俺に酒で勝ってから言えぃ!!」



 リオンはどうやらレーベの代わりにテュールに絡みに来たようだ。成り行きとは言え、了承したからには責任は持つ。テュールはやってやろうじゃねぇかとリオンを睨みつけ戦闘態勢をとる。そこに──。



「テュール、我も混ぜてもらおうか。なにやらうちのレフィーが、不幸な事故とは言えお前から辱めを受けた、とそう言うのだよ。これが事実だった場合我も龍族の誇りを賭けて戦わねばならないのだが?」



 ギロッとテュールを睨むファフニール。そしてファフニールの背中には計 画 通 り と言わんばかりにニヤリと笑顔を浮かべるレフィーがいた。



(あんにゃろう、さっきの仕返しだな……)



 その背中越しに睨もうとするテュールだが、ズズズっとファフニールが近寄ってきて、視界を埋め付くしてしまう。



(というか威圧感ハンパないんすけど……)



 目の前の威圧スキルMAXのおっさんにうんざりしながらテュールは仕方なく、弁明をする。



「え、えと、事故でそういったことがあったような……。なかったような……。決して故意では──」



「あったんだね?」



「……はい」 



「よろしい、これは聖戦(ジ・ハード)だ。我とお前の全存在を賭けて戦おうではないか」



 テュールの目の前にマッチョが二人ニヤリと笑って酒を構える。



(え? 折角の祝賀会なのにこんなむさ苦しいの二人と飲むの?)



 周りに助けを求めようとするが、当然それは叶わない。



(ッチ、こうなったらヤケだ。この二人を潰してから楽しむ!)



 そう思ってた時期がテュールにもありました。



 一時間後──。



「あかん……。無理、マジで無理……。ごめんなさい、ごめんなさい、許して下さい。主人公最強とか言ってごめんなさい、うぷっ」



「ガハハハ!! 情けないな! テュール!! そんなんじゃうちの孫娘はお前に預けられんぞ!! ガハハハ!!」



「フハハハ!! この程度で済むと思うな若造!! うちの孫娘を辱めた罰しっかりと思い知らせてくれるわ!! フハハハ!!」



 何杯、いや何十杯飲んだろうか。転生後の身体は酒が強くなっていたためどんなに飲んでもほろ酔いだと過信していたが、限界はあったのだ。三人の横には空になった樽が一つ転がっていた。



 そして、そんなマッチョ二人はテュールをイジって満足したのか次はアンフィスとレフィーに絡みに行った。



(アンフィス、俺の(かたき)を取ってくれ。そのニ人とついでにレフィーを沈めてくれ……)



 そう心の中でエールを送り、視線を切る。そして視界の端ではベリトとバエルが忙しなく、しかし落ち着き払った動作という一見矛盾した動きで場を切り盛りしている。やはり、この悪魔執事コンビは流石である。執事の仕事の隙間でツェペシュと一緒にのんびり周りを眺めて食事をとりながら楽しんでいる。



(あのポジションうらやましいな……。はっ!? 執事見てる場合じゃねぇ!! セシリアとカグヤは──!?)



「ウフフフ、あれ? お祖母様が三人います? あらあらお祖母様そんなクルクル回ったら危ないですよ~? ウフフフ」



 目の焦点があっていないセシリアがウフフフ言いながらルチアに話しかけている。ルチアは無視して酒を飲んでいる。そう、お祖母様ガン無視である。



「あれ? お祖母様がお話を聞いてくれません……。私はダメな子なんでしょうか? ダメな子なんでしょうか……、うっ、うぅ」



 ポロポロと泣き始めるセシリア。尚も無視するお祖母様。



(おい、お祖母様少しくらいかまってやれよ)



 酔っ払いとは言え、同情してしまうテュールであった。しかし、セシリアはまだカワイイもので、厄介なのはカグヤであった。



「お祖父様聞いてるんれすか!? あなたはまったく何も告げずに一体どこに、ヒック、行ってらんですかっ! お父様とお母様、お兄様がろれだけ、ろれだけ心配してたか! わかってるんれすか!!」



 モヨモトに鬼絡みをしていた。モヨモトはホホホ、と苦笑いを浮かべながら左右に助けを求めるも完全に周りから無視されている。ヴァナルは面白がってカグヤ()お酒(ガソリン)を注ぎ足している。



(おい、そこのバカ犬やめてやれ)



 そして、そんな悪ふざけ大好きなヴァナルの父親である神獣王フェンリルは──寝ていた。神の獣の王と書く存在がすぴーすぴー言いながら床で寝ていた。何故だろう、テュールの心は少し癒やされた。



 こうして、事情を聞くこともできず、お祝いムードでもないまま饗宴(サバト)は続く──。

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