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第35話 おひサバト

 ──ただいまー。



 アンフィスとヴァナルがやや気だるそうな声で帰宅を知らせる。



 そして、アンフィスとヴァナルの後ろから邪魔するよという声がし、人影が家の中に雪崩こんでくる。



「ホホ、ここがテュール達の家かぇ、いい所に住んどるのぅ」



「ガハハハ うむ、だがちと狭いな!! まぁ学生には丁度良いか、ガハハハ!!」



「そうだよー、あまり若い内から贅沢を覚えると良くないからね~」



「おや、珍しくツェペシュがじじくさい事を言いよったさね、カカカ」



「まったく賑やかだな。我みたいに一度岩山に住んでみればいい。どこでも住み心地が良く思えるぞ、フハハハ!!」



 五人は口々に家の感想を言いながら、勝手知ったる様子でリビングへと入ってくる。



「なんだ、ヴァナル、アンフィス、モヨモト達を連れに行ってくれてたのかー! 久しぶりだね。こっちは元気だったけど、そっちもみんな変わりない?」



 テュールは驚いた顔を見せるが、すぐに笑顔になり久しぶりの家族の再会に声の調子が跳ね上がる。



 そんな光景をみて、口をパクパクしている者が五人いる。テュールはそんな少女たち五人を見て、疑問に思う。



(どうしたんだ? ププ、レフィーのあんな顔は珍しいから目に焼き付けておこう) 



 そんな少女達を見つめながら師匠達は小さく笑った。そして一言──。



 大きくなったな。



 そう言うと五人の少女が五人の師匠の元へと駆けていく。



 カグヤはモヨモト、セシリアはルチア、リリスはツェペシュ、レーベはリオン、レフィーはファフニールの元へ。



「えぇぇええええ!?」



 今度はテュールが口をパクパクさせる番であった。あの光景を見て、と指をさしながらアンフィス達へと振り返るテュール。しかし、アンフィス達はウンウンと頷きながら、さもこの光景を当然のように受け入れている。



 そして一人急展開についていけないテュールが固まっている間にそれぞれが再会の挨拶を交わす。



「ホホ、カグヤ大きぅなったのー、最後にあった時はこんなんだったろうに」



 そう言ってモヨモトが親指と人差指を少し離しおどけたように言う。



「お祖父様、私は親指姫ではありませんよ? それで? 一体どこをほっつき歩いていたんですか?」



 カグヤは笑顔だが、それは再会の笑顔とはまた少し違う威圧感を伴った笑顔であった。現にモヨモトは目を見開き、カタカタと震えている。そして隣では──。



「セシリア、久しいね。どうさね? 少しはお転婆が直ったかい? カカカ」



「もうお祖母様ったら! 今ではすっかり淑女です。本当に……、本当にお久しぶりです」



 セシリアは涙を流して再会を喜ぶ。そんなセシリアの頭をルチアが微笑みながら撫で──。



「泣き虫なのは変わらないさね、カカカ」



 そう楽しそうに笑い飛ばした。



 そしてリリスはと言うと、ツェペシュの胸にダイブしていた。



「ツェペじぃ! リリスおっきくなったのだ!」



「ふふ、そうだね~、少し見ない間に随分と大きくなってお母さんに似てきたね~。将来が楽しみだよー。アハハハー」



 と言いながらクルクル回り出すツェペシュとリリス。実に平和な家族であった。一転リオンとレーベの再会は重苦しい雰囲気を発している。



「おじーさま……」



 一言そう呟き、射殺さんばかりの視線を叩きつけるレーベ。その視線を真っ向から受け止め、ニヤリと口を釣り上げ、静かに構えを取るリオン。レーベが目を閉じ、一つ深呼吸をする。吐ききると同時に目を見開く。床材を踏み抜かんばかりに蹴り、レーベはリオンへと駆ける。



 一撃──自分の全てを受け止めて貰えるという絶大な信頼のもと繰り出す後先を考えない一撃がリオンの頬へと突き刺さる。



 リオンの上半身は大きく仰け反り、首の筋肉は目一杯引き伸ばされ、顔が明後日の方へと向けられる。口から一筋の血を流しながらリオンはニヤリと笑い、襲撃者を両手でひょいと持ち上げ、目線を同じくして声を掛ける。



「いい一撃だ。獅子族の名に恥じない魂の籠もった一発だったぞ。強くなったな、レーベ」



「──っ! おじーさまっ!」



 たまらずリオンの顔に抱きつくレーベ。実に獣人族らしい、そしてリオンとレーベらしい再会の喜び方であった。



 そして最後は──。



「久しいなレフィー。息災であったか?」



「はい、お祖父様、この通り元気にやっております」



「ふむ、そうか……。どうやら成龍になもなれたようだな。随分早いがその際は大丈夫であったか?」



「テュールたちに助けて頂き事なきを得ました」



 とスゴく堅苦しい再会の挨拶をしていた。 



(マジか、えぇぇ、何この偶然? 仕組まれていたとしか思えないんだが……?)



 テュールはあまりの出来すぎた展開に天井を仰ぐ。作者が微笑んでいた。そしてふと気付く──。



(ん? ファフニールの孫のレフィー。ファフニールの子供のアンフィス。え、つまりアンフィスはレフィーの叔父? え、あいつ同い年なのに叔父さんなの? プププ、これはいいネタが出来た……)



 暗い笑顔を浮かべるテュールであった。



「って、そんなんどうでもいいわ! 急に情報量多くて混乱するわ!!」



「ん、なんだいテュール? あたしらがイルデパン島から生えてきたとでも思ってたのかい? そりゃあたし達だってあの島に来るまではこっちの大陸にいたさね。それに、これだけ人生長けりゃ色々あるもんさ、ほれこの子達が生まれたって時にはあたし達も見に行ってたのは知って……、まぁ教えてはなかったかも知れないね」



(あぁ、俺が五歳くらいまで週一くらいで交代でみんな家を空けてたな……。てっきり、日用品の補充だと思ってたけどちょいちょい孫の顔見に行ってたのかぁ……)



「ホホ、まぁ積もる話しもあるじゃろうが、折角の祝いの席じゃ、食べて呑みながらゆっくり語らえばええじゃろ? のぅ?」



 みんなにそう説くモヨモト。



「そうですね、お祖父様、積もる話しもありますからね?」



ニコリと笑うカグヤ。



(……スマン、モヨモト、俺も修行を積んで強くなったつもりでいたがカグヤには勝てないんだ……。自分でなんとかしてくれ)



 オロオロと助けを求めてくるモヨモトの視線を断ち切り、そう言外に返すテュールであった。



 こうして合格祝い兼テュールの誕生日会が始まるわけだが、この時についでとばかりにもう二人家に招く。幻獣界の王、神獣フェンリルと、魔界の王、王級悪魔バエルだ。



 元日本人で東京に住んでいたテュールからすれば十分に広い家であったが、やはり十六人も入るとかなり狭く感じる。



 そして、皆は立ったままグラスを持ち、モヨモトが乾杯の音頭をとり、グラスを打ち付ける音が響き渡る。



 当然、ここまで個性豊かな十六人が集まって和気藹々の平和な祝賀会になろうわけもない。



 さぁ、真理の扉は開かれた。始めようではないか──混沌の饗宴(ケイオス・サバト)を!!

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