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第34話 入学試験の結果はっぴょぉおおおお!!

 二次試験から五日が経った。



 テュールはその間、冒険者稼業として小遣い稼ぎをしたり、アンフィス達と修行をしていたが気持ちはどこか上の空だった。



(受かっているかなぁ? 名前書いたかなぁ?)



 そう、テュールはまだ名前を書いたか書いていないかを引きずっていた。



 そんなテュールが本日のギルドでの依頼を終えて帰宅すると居間にアンフィス達三人がおり、重々しい空気で椅子に腰掛けている。



(遂に、か……)



 そろそろだとは分かっていたためテュールも覚悟を決めて尋ねる。来たのか? と



 コクリ、無言で頷く三人。そしてベリトがスッと立ち上がり、足音をたてずに歩く。向かう先には一通の封筒があり、ベリトはそれを手にとる。その封筒をテュールの前まで持っていくと、どうしますか? と目で尋ねる。



 お前の手を(わずら)わせるまでもない。俺が自分で見よう――そう言わんばかりに目を閉じ、首を横に振った後、封筒を受け取るために手を伸ばすテュール。



 ベリトは(うやうや)しく頭を下げ、イエス・マイ・ロード、という手つきで封筒を手渡す。



 テュールは封筒を受け取ると、手刀で封筒の上端を薙ぐ。ハラリと落ちる封筒の上端。奈落を彷彿とさせる封筒の口が開く。



 空気が粘つき、ドロリと絡みつくように感じる。呼吸の仕方が分からなくなる。そんな中、テュールはついにその封筒に手を差し込む。



「って、なんやねん! この空気! やりずらいわ!」



 テュールは、自分も含めて楽しんでいた小芝居にツッコむ。



「はいはい、見よ見よ」



 そしてスパンっと中から通知を取り出し目を通すテュール。三人も音速で後ろに回り込み覗き込む。



 そこには大きく合格の二文字とテュールSクラス所属と書かれていた。



「い……」



「「「い?」」」



「いよっっしゃあああ!! 名前書き忘れてなかったぁぁあ!! あぁ、もうこの五日間マジでストレスで胃痛かったわ。眠る前も書いたっけ、書いてないっけ、朝起きてすぐに、書いたっけ、書いてなかったっけ……。うぉおおお!! ストレス解放っっ!! ひゃっふーー!!」



 喜ぶべきポイントが若干ズレてしまっていたテュールであった。



「あー、そのテュール様、その件をまさかそこまで気にされるとは思っていませんでした。軽率な発言お許し下さい。何はともあれSクラス合格おめでとうございます」



「おめっとー」



「おめでとー」



 アンフィスとヴァナルもそれに続く。



「あぁ、ありがとう。終わり良ければ全て良しだ。あぁー、気が抜けた……。って、お前たちはどうだったんだ?」



 ドカッとソファーに腰を下ろし、ホッとしたテュールは当然受かっているであろう三人にそう尋ねる。



「えぇ私達も無事Sクラスへの入学が決まりましたよ。順位は私が十五位、アンフィスが十ニ位、ヴァナルが二十五位ですね」



(さ、流石ベリト、完璧に狙った所に着地していやがる……)



 と、言ってもアンフィスとヴァナルもかなり器用に着地しているのだが。



「ちなみにテュールは何位だったのー?」



 ヴァナルが尋ねてくる。



「どこに書いてあるんだ?」



「合格通知の下だよー」



 テュールを含め四人で合格通知の下まで目を走らせる。そこに書かれていた順位は──。



 三位。



「あっぶねーーー!!」



 テュールが叫ぶ。ジト目で見つめてくる三人。



「いや、筆記試験はカナリ手ヲ抜キマシタヨ? ……いえ、ちょっとスラスラ解けちゃうから調子に乗ってしまったかも知れません。はい、すみません」



 言い訳をしても納得してくれない三人に結局謝ることになるテュール。



「そ、そうだ! ベリト! 祝賀会の準備はできているのか!」



 バツの悪くなったテュールは楽しい話題へと無理やりにシフトする。



「えぇ、それなのですが少し準備に手間取ってしまいまして、明日になってしまいそうです。今夜は英気を養って明日に備えていただけますか?」



 合格かどうか、いや、名前が書いてあるかどうが気になり、祝賀会のことなど今の今まですっぽり抜けていたテュールがベリトを責められるわけもない。



 テュールはベリトの言葉を了承し、その夜は慎ましやかに夕食を取り眠るのであった。



 そして翌日。



 さて、今夜は祝賀会だとテュールは張り切ってそれまでゴロゴロしようとする。が──。



「家の中の準備を整えるのでテュール様は邪魔です。どこぞへ遊びにいってきて下さい」



 拒否など許さない笑顔でベリトにそう告げられ外に追い出された。



 ちなみに追い出され際、一人では寂しいと思いヴァナルとアンフィスを探したが姿は見当たらなかった。



(あいつら、どこへ行ったんだ? つーかヤバイ、俺ぼっちじゃん)



 前世の寂しかった生活を思い出し、今はあいつらがいてくれてよかったと改めてその存在に感謝するテュールであった。



 とは言え、今はいないのなら仕方がない。リバティに住んで既に三ヶ月、テュールにだって知り合いの一人や二人はいる。早速会いにいくが──。



「リリスちゃん? 今日はいないねぇ」



「セシリア様? すまない今日は朝から所用で出ているんだ」



「おやテュールさん依頼ですか? え? カグヤさん? 今日はギルドには来ていませんよ」



(レフィーもレーベも捕まらない……か。今日はみんなどうしちまったんだ……? 世界は俺一人になっちまったのか?)



 結局誰も捕まらずぼっちなテュールは、大袈裟に不貞腐れ街を出る。



(もういい、せめて祝賀会では美味しく食事をたらふく食う!)



 テュールはぼっちを誤魔化すために街の外でひたすらに自分を追い込む修行を行うこととした。リバティの街から数km離れた平原で巨大な魔法陣から幾条もの光りが放たれ、直後に大地を揺るがす程の衝撃と爆音が響く。



 余談であるが後日調査隊が編成され平原を調べたがクレーターなどの痕跡は発見されなかったという。それはそうだ、テュールがその身で衝撃を全て受け止めていたのだから。



 そんなドMな訓練をしたり、走り込んだり、剣を振るったりしている内に辺りが夕焼けに染まる。



(そろそろ帰ってもいいのかな……?)



 ちょっぴりメンタルが弱っているテュールは軽く川で水浴びし汗を落としてから家路へと着く。



 黄昏時をのんびり歩いていると色々な記憶が蘇り、その中でイルデパン島での十五年間も当然思い出す。



 師匠たちやアンフィス達と毎日顔を合わせて、毎日修行をして、毎日勉強をして──決して短くない時間であったが過ぎてしまえば本当に一瞬だったなと懐古する。



(ったく、中身はおっさんのはずだがいつまで経ってもガキのまんまだな)



 テュールは鼻を一つ鳴らし少しホームシックになっている自分を自嘲する。そんなことを考えていたら帰るべき家はもう目の前だ。



 コンコン。



 ノックをし、入ってもいいか声をかけるテュール。どうぞ、決して大声を出しているわけではないのに扉越しにクリアに聞こえるベリトの声。不可思議だが執事はなんでもアリだと、いつものように諦め、扉を開ける。



 パンッパンッパンッ。



 「「「「「誕生日、そして合格おめでとう!」」」」」



 クラッカーとともに五人の女性の声がテュールを出迎える。


 

「……へ?」



 呆気にとられ棒立ちになるテュール。クラッカーなんてこっちの世界にあったのかぁ……と、ぼうっと考えているあたりテュールのポンコツさが伺える。



「……あー、ベリト、どういうことだ?」



 とりあえず困った時のベリえもんに状況を説明してもらうことにした。それが今のテュールの精一杯だ。



「どういうこともこういうことも見ての通りですが? 我々(・・)の合格祝いと明日誕生日であるテュール様のお祝いを行うのでご友人をお招きしただけですよ?」



「いや、あ、そうか。うん、わ、分かった。あ、ありがとう」



 そんな困惑し立ち尽くすテュールを見て待ちきれないのか、リリスとレーベが急かす。



「テューくん早くこっちに来るのだ!」



「ししょーこっち」



 と、左右から腕を引っ張る。



 まだあまり事態を飲み込めないテュールは、とりあえず二人に引かれるまま居間のテーブルの前まで歩く。流石に人数分の椅子はないため立食形式で食事を行うみたいだ。



 テーブルの上には色鮮やかで豪華な食事が所狭しと並んでおり、それを見たテュールは、美味そうだなと誰に言うわけでもなく呟く。



「ヘヘ、私達で作ったんだよっ?」



 その言葉を耳にしていたカグヤが胸を張ってアピールしてくる。



「本当に美味そうだ、ありがとう」



「リリスも手伝ったのだ!」



 テュールがカグヤに礼を言うと、隣からリリスが目を輝かせてそうアピールしてくるので、ついつい頭を撫でる。するとリリスは猫のように目を細め笑顔になる。それに対抗してか、レーベまで──。



「ししょー、私も手伝った」



 などと言ってくる。尻尾を左右に振り、撫でて欲しそうな上目遣いで小さくアピールしてくる少女にテュールは小さく吹き出し、感謝の言葉と一緒に頭を撫でる。猫が増えた。



(うむロリっ子二人は癒されるな)



 そう思っていると──。



「テュールさん? テュールさん? 実は私も手伝いました!」



 撫で撫でチャーンス! と後ろからテロップが浮き出てきそうなほどに期待した眼差しでそう宣言するのはセシリアだ。



「え、セシリアも?」



 その問いは、セシリアも手伝ったの? ではない。セシリアも撫でて欲しいの? である。だがそんな問いに迷うことなく頷くセシリア。そして頭をズズズと差し出してくる。やや戸惑うテュール。ロリっ子二人には気軽にできてもセシリアは大人なため抵抗がある。年齢は同じなのに不思議。



「……ダメなんですか?」



 いつまで経っても撫でてくれないことに不安になったセシリアは目をうるませて訴えかけてくる。女性の涙には勝てないテュールは羞恥心を押し殺しセシリアの頭をぽんぽんと撫で、ありがとうと言う。その瞬間、花開くように笑顔になるセシリア。



「ふ~ん、みんなの頭は撫でて私の頭は撫でないんだねっ? そうなんだね~」



 そんな中、カグヤが笑顔でチクリと刺してくる。今更頭を撫でる空気でもないため言葉を詰まらせたテュールは、助けを求めるため視線を左右に振る。そして一人の少女と目が合う。だが、その目は──。



 私に話を降るなよ? という目で真紅の髪をした龍族の少女レフィーが睨んでくる。フリだな? フリだな? 目で確認するテュール。違う! 止めろ! 目と首で必死に抵抗するレフィー。



「レフィーも今日来てくれたんだね。ありがとう」



 必死の抵抗を無視して爽やかに挨拶をするテュール。その瞳の中の言葉は、逃さないぞ、お前も巻き込まれろ、だ。



「あぁ、テュール達には以前世話になったからな。祝い事の誘いがあれば来るさ。まぁ私は料理には一切関与していないがな」



 ニコリと笑顔でそう返すレフィー。その瞳の中の言葉は、私を巻き込むな。お前達の痴話喧嘩には関与しないぞ、だ。



 アハハ、フフフ、見つめ合い笑い声を上げる二人だったが、両者とも目が笑っていないため中々に不気味だ。しかし、それを見たリリスは──。



「なんか仲良さそうなのだ! ずるいのだ!」



 そう怒りながらテュールの脇腹あたりをぽこぽこと叩いてくる。



(いや、仲良いとかそんなんじゃないだろ)



 ちなみにレーベはレーベでレフィーの横に立ち、なぜか一緒になってテュールを睨み始める。ロリっ子達が何をしたいのかはテュールには分からなかった。



 そして、その空気に触れずにすむ絶妙な位置でベリトはフフフと微笑をたたえている。流石は完璧執事である。その距離感は神がかっていた。



「そう言えばアンフィスとヴァナルは?」



 そんな執事にこの場に姿が見えない二人の所在を尋ねるテュール。



「あぁ、彼らでしたら──」



 コンコン。



「噂をすれば……ですかね、どうぞ」



 ベリトが扉の向こう側へ言葉を投げる。



 そしてガチャリと扉が開き──。 

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