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第32話 この手刀、俺じゃなきゃ見逃しちゃうねぇ

 そして、テュールは体術試験会場入り口と書かれた扉の前で止まり、両手で頬を打ち気合を入れる。



(うっし。体術こそはいい点数を取る!)



 気合十分の表情で入場し、受験番号と名前を言った後、体術試験の説明が始まった。



 体術試験は、現役Bランク以上の冒険者と一対一で戦うというもの。当然勝ち負けにしてしまうと冒険者のランクでの不公平さが出てしまうため、内容うんぬんを見極めるとのことだ。制限時間は五分。



 ここでテュールはテップの言葉を思い出す。トップのクラスに入りたいのであればB、Aランクは圧倒する必要があり、AA、AAAなら勝利、Sランク以上とは引き分けにするレベルというのが目安とのこと。



 テュールは十五歳でSランク冒険者と渡り合えるヤツが三十人もいるのかと関心したものだ。



 ちなみにテップはSSランクまでなら三分でいけると言っていた。SSSランクは苦戦するな、五分じゃ倒しきれないかも知れない、とも。まさか隣に偶然座ってきた男が世界最強レベルだったとは、いや、世界は広い、とやはり感心したものである。



 そして、一通り説明を聞いたところで対戦相手の冒険者を紹介される。だが、試験前に名前やランクは明かされない。少しでも公平性を期すための措置だ。



 さて、ここでテュールは考える。恐らく魔法の試験の結果はあまり良くない。ということは体術で良い点数を取らなければトップのクラスが危うい。結果アンフィス達にバカにされる、と。それだけは許せない。ベリトにまさか私の主ともあろう方が執事よりも下のクラスだなんてヨヨヨヨと三年間チクチク言われるのは避けたいのだ。



(よし、ここは全力だ。どんな相手でも瞬殺だ)



 テュールは闘気をじっと抑え、内に溜め込む。そして目の前の冒険者を見定める。恐らく人族であろうと思われる。獣人や竜人、エルフの特徴はない。魔族か龍族かはパッと見では判断できない。歳は三十を過ぎたくらいであろうか、なかなかに貫禄があり、無精髭が似合っている。



 より深く観察していくとテュールはあることに驚く。試験相手の冒険者の意識と意識の隙間がかなり狭い。反応速度や集中力は中級冒険者のそれではないだろう。佇まいを見ても相当の手練(てだれ)だということが分かる……。



(だが、俺の相手(・・・・)ではないな(・・・・・)。)



 相手との距離は十m程。テュールは構えをとる。が、どうやら相手は相当油断しているようで構えらしい構えは取らない。



「はじめっ!」



 開戦の合図と同時に毛ほどの意識の隙間を突く。気配も闘気も殺し、全力で後ろに回り込み、相手の膝の裏を片方ずつ素早く蹴り地面へと(ひざまず)かせる。そして首を落として(・・・・・・)しまわないよう(・・・・・・・)注意しながら手刀を叩きこ──。



 パシンッ。



「なっ!」



 完全に決まったと思った瞬間に手刀を掴まれる。



「ククク、ハハハハ!! アーッハッハッハ!!」



 そして突然笑い始める冒険者。何が何だか分からずポカンと呆気にとられるテュール。



「ククク、喜べ、お前の体術試験は満点だ。たまにこういう面白いヤツに会えるからこの依頼はやめられねぇな。おい、試験官見たか? 俺が跪かされたぞ? この俺が、だ。十五のガキに、だ」



 試験官はそれがどれだけ異常なことか分かっているらしく狼狽えている。そんな様子を見ながら冒険者は言葉を続ける。



「お前らの中でこのガキの手刀が見えたヤツはいるか? いねぇだろ? 俺らSSランク以上じゃなきゃ対処できないレベルの手刀だ」



 試験官は理解の範疇を越えてしまったのか、唖然として周りの試験官をキョロキョロ見渡し、次の行動を起こせないでいる。



「ったく、情けねぇ連中だな。おい、ガキもうお前帰っていいぞ。体術試験はこれで終わりだ。俺の名前はカインという。人族の冒険者でランクはSSだ。クク、今日は楽しかったぜ。次は試験なんかじゃなく死合(やりあ)おうぜ」



 クハハハと笑うバトルジャンキーがそこにはいた。テュールは、急展開について行けなかったがまぁ体術試験が満点ならいっか。と会場を後にするのであった。



(カインかぁ。うん、二度と関わらないでおこう。俺は師匠になされるがままに修行させられてきたが別にバトルジャンキーじゃないし)



 全然熱くならない小市民な主人公であった。



 そして会場を後にするテュール。合否の通知は一週間後に届くとのこと。テュール達はしばらくリバティで生活するため四人で一戸建てを借りて住んでおり、そちらに送られてくる手筈になっている。



 テュールは家に帰ると既にアンフィス、ヴァナル、ベリトも帰っており、どうだった? と試験のできを確認し合う。



 四人はトップのクラスに入り、尚且つ真ん中の順位という極めてタイトな場所を狙いたかったため細心の注意で試験に臨んだ。



 そして不安そうにテュールが八mの魔法の話しとSSランク冒険者を瞬殺して満点を貰ったという話をすると、アンフィス達三人は呆れた目になり──。



「はぁもういい寝よ寝よ。気を使った俺らがバカだった」



「だねー。流石にこれはフォローできないねー」



「フフ、流石テュール様です。ですが、我々の苦労をあまり無下にするのはお止め下さいね?」



 口々に苦言を呈して、自室に戻ってしまうのであった。何が起こっているのか分からないテュールは困惑し叫ぶ。



「え? なに? どうゆうこと? ねぇ? え? 何かマズイの!? ねぇマズイの!? おーーーい!!」



 しかし、シンと静まる家の中からは返事は何もなく、釈然としないまましぶしぶ部屋に戻るテュールであった。

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