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第30話 それ俺が言いたかったセリフ……

 パチクリ。



 気を失っていた獣人の少女レーベが瞼を開く。



「知らない天井……」



「お前が言うんかい」



 すかさずツッコんでしまうテュール。



 キョトンとした顔でレーベはここどこ? と尋ねてくる。



「近くにある孤児院だよ。ほら水でも飲むか?」



 テュールは用意していたコップに水を入れ、差し出す。



「ありがとう」



 相変わらず平坦な声で感謝を伝え、ベッドから上半身を起こし水を飲むレーベ。



「どこか具合の悪いとこや痛いところはあるか?」



 その言葉を受け、レーベは手足を一通り目で追いながら動かしてみる。



「大丈夫みたい」



 そして、そう結論を出す。その答えに満足したテュールは、ちと待っていろと、そう言い残し、部屋を退室する。



 ほどなくして、トタトタトタと賑やかな足音と一緒にテュールが戻ってくる。



「初めましてレーベさん。私はここの孤児院の院長をしているタリサと言います。身体の方は大丈夫かしら?」



 柔らかな物腰で挨拶をするタリサ。



 ベッドから降りて、立ち上がり挨拶を返すレーベ。



「私はレーベ。お世話になりました。大丈夫。ありがとうございます」



 そして、その後はトタトタ足音の原因である子供たちが一斉に自己紹介を始める。俺は、あたしは、と。それぞれの自己紹介に丁寧に返事を返すレーベ。そしてその中の一人──。



「あたちピナ! よっちゅです!」



 小さな小さな少女は胸を張って指で四を作り堂々と宣言する。それを見て、だらしなく頬を緩ますテュール。



「ありがとう。私はレーベ、十五」



(うんうん、実にほっこりする場面だ──なっ!? じゅ、十五? 何の数字だ? いやな? まさかな?)



 幼女同士の微笑ましい自己紹介シーンにうっとりしていたテュールは一瞬で現実に引き戻される。そしてテュールは真相を確かめねばならない。



「レ、レーベ? 今の十五ってのは何の数字だ?」



「年齢。私は今十五歳」



「えぇぇええっっ!?」



 そうであろうことは予想していたが、やはり驚いてしまうテュール。だが驚いているのはテュールだけだ。



(え? こんなもんなの? この世界の十五歳の獣人ってみんなこうなの? 日本と違ってこっちは十五歳で大人なんだよ? 大丈夫? 事案発生しない?)



 一人この世界の現状を憂いてしまうテュールであった。



「ししょー。私は十五。ししょーは?」



「あ、あぁ、俺か。俺も十五だ。奇遇だな。……そして、その師匠ってのはなんだ? テュールでいいぞ?」



「ううん。ししょーは強かった。私弟子入りしたい。……ダメ?」



「え、弟子入りって、いや俺もまだまだ自分のことで手一杯だし……。あそこでやっていたのはあくまでもゴッコ遊びみたいなもんだったし……」



 レーベは視線を逸らさない。



(うっ……。またこのパターンか)



 女性の視線と言うのは何よりも雄弁だということを学んだテュールは視線を泳がせる。しかし、子供達もいいじゃないかー師匠! レーベの師匠にもなってやれよー! と騒いでる。ピナもしょーだ! しょーだ! と言っている。実に可愛らしい。



「ししょーの時間の空いた時に相手してくれるだけでいい。邪魔にならないよう気をつける……。お願いします」



 そう言って深く頭を下げるレーベ。



(なぜ同じ歳でも見た目が幼女だと言うだけで、こうも頭を下げられた時の罪悪感が跳ね上がるのだろうか。誰か研究して発表して欲しいものだ……)



 益体もないことを考えながらテュールは、半ば諦めて返事をする。



「あー……、うん、まぁ、分かっ、た……。けど! そんな期待するなよ!? あと本当に時間の都合もどうなるか分からないからな! まぁ、それでもいいなら……よろしくな」



 テュールはそう言って、手を差し出す。レーベの表情の変化はどれも小さいのでわかりにくいが、それでも最大限喜んでいるのが分かる。可愛らしい笑顔になり、尻尾がフリフリ、そして小さな手でテュールの手を握り返す。だが、この時のテュールの頭の中は──。



(今度師匠特権であの尻尾を触らせてもらおう)



 であった。



「フフ、良かったですねレーベさん。では、話もまとまったところですし今日はテュールさんから頂いたお菓子があります。みんなでお茶にしましょう」



 そう言うと子供達は大袈裟に喜び、ダイニングへと走っていく。見た目は幼女でも中身は落ち着いているレーベは走り出すということをしなかった。ただお菓子という単語が出た瞬間少し耳がピクンと動き、尻尾のメトロノームが速くなったくらいだ。



 やれやれとテュールは苦笑し、ともにダイニングへと向かう。



 おやつを食べ終わるとあまり長居をするのも申し訳ないとテュールとレーベは孤児院を後にする。



「んじゃ、日曜日は動けると思うからよろしく。連絡はギルドを通してくれれば大丈夫だ」



 この世界も七曜制で当然地球の曜日と呼び方は異なるが、テュールは地球読みに脳内変換している。



「分かった。ししょーありがとう。これからよろしくお願いします」



「ハハ、まぁ組手の相手くらいはできるが、過度な期待はしないでくれな。なにはともあれよろしく」



 そう言って頭を下げ合う二人。



 その後はレーベと別れ、帰路につく。



(しかし、この場面をアンフィス達に見られないでよかった。絶対にあいつらからかうからな……。そして、カグヤ達にも見られないでよかった。別にカグヤ達の中の誰かと恋人になっているわけもないのだから怒られるいわれもない……って、こんな考えを持っているから他の冒険者のおっさんどもからハーレム野郎は死ねとか言われるんだな。ッフ、うるせー。こちとら三十と十五年間童貞じゃ! ボケ!)



 と、余計な思考に頭を占領されるが、ブンブンと頭を振って雑念を閉め出し、落ちたらルチアに殺されるであろう入試試験に向け、気持ちを引き締めるテュールであった。

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