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第21話 ちなみに俺はギター弾けるぜ? なに? お前らギターを知らないのか? もったいないな

 そこからはあっという間だった。どの世界でもこの位の年齢の男子にすれば逆立ちができて、足が速いヤツはヒーローだっだ。先程までの悪態が嘘だったかのように素直にテュールの言葉を聞くようになる男子三人。



 そして調子に乗りペラペラ語りだすテュール。



「いいか? 男はな、強くなくちゃいけないんだ。自分の守りたいものを守るためにな。これは俺の親からの教えだ。そして俺はお前らを一日で強くすることはできないが、きっかけを作ってやることはできる」



 そう言って、テュールは基礎の基礎の体術を一時間程教える。三人は文句一つ言わず懸命に腕や足を振るい続ける。それまで武術など教えてくれる人はいなかったのだろう。初めての修行で汗だくになり、ヘロヘロになってしまう。しかし、テュールが最初話しかけた時の無味乾燥な目ではなくなっており、確かな意志を持った目をしていた。



「よし、お前らここまでだ。よく頑張ったな! 泣き言一つ言わずついてきたお前らは男だ! 男になったんだ! これからも今日の指導を思い出して鍛え続ければ大切なものを守れず後悔するなんてことはないだろう!」



 兄ちゃん……、お兄さん……、感極まるジェフ、エリック、ジミー。テュールはそんな三人との間に生まれた男の絆を確かめるように抱き合う。



「さぁ、運動の後はメシだ! カグヤが美味しいご飯を作って待ってるぞ!」



「わー! 俺もうお腹ぺっこぺこだぜ!」「俺も!」「ボクも!」



 ご飯と聞くとさっきまでガクガク震えていた手足が急にピタリと動きを止める。そしてスッと立ち上がると兄ちゃん早く帰ろうぜーと三人がテュールの手を引っ張り、小走りで家路へ急ぐ。



 帰り道は一面オレンジ色の夕焼けに照らされ、来た時とまるで違って見える。



(豆腐屋のラッパでも聞こえてきそうな風景だな……)



 珍しくノスタルジックな感傷にひたりながらテュールはジェフ達三人と歩く。



 孤児院が見えてくると三人が我先にと走り始める。このくらいの年齢だと一歳の差は大きく一番年長のジェフが先頭で扉へと到着し、中へと入る。



「ヘヘ、いっちばーん! たっだーいまー! お腹すいたー!」



 大声で叫ぶジェフ。続けてエリック、ジミーが続き、口々に帰ったことを知らせる挨拶とお腹が空いたと騒ぎ立てる。


 

 そしてテュールも三人の後から孤児院の中へ入る。すると丁度台所からおかえりなさいと言いながらパタパタと小走りで迎えてくれるカグヤが見えた。



 カグヤは笑顔で出迎えてくれたがジェフら三人の姿を見て、ピタッと動きを止める。張り付いた笑顔というのはまさにこのことだろう。



「テュール君? 今すぐこの三人と水浴びして身体を拭いてきて?」



 ゴゴゴゴゴ……と背景に文字が浮かんで見えた。その笑顔から出る言葉はルチアを越える威圧感を持ってテュールにタオルとともに投げかけられた。テュールは即座に敬礼をし──。



「ハッ! 畏まりましたであります! おい、お前ら全員ついてこい! 今が大切な何かを守る時だ! この家の平和を守りたければ黙ってついてこい!」


 

 そう言うと泥だらけで汗だくの三人は必死な顔でコクコクと頷き、テュールについていく。



「うんっ、水浴び終わったらご飯にするからね? いってらっしゃいっ」


 

 カグヤはそう言うと先程までの威圧感が嘘だったかのように、くるりと軽やかにターンしてスカートを少し浮き上がらせながら鼻歌交じりに台所へと戻っていく。



「……兄ちゃん、お姉ちゃん怖かったね……」



 姿が見えなくなったところでジェフがそう言葉を零す。



「あぁ、あれが強者ってやつだ。覚えておけ」



「うん……、お兄さんより強そうだったよ……」



「バカ野郎。比べるまでもない……。俺は一生勝てる気がしないな……」



 そんなバカな会話をしながら井戸まで歩き、簡易的な目隠しになっている掘っ立て小屋で服を脱ぎ、水を浴び、身体を綺麗にするテュール達四人であった。



 こうして水浴びを済ませ、身体を綺麗にしたテュール達は無事入室の許可をカグヤから貰い、ダイニングにあるテーブルに着く。


 

 そして食卓にはカグヤが作った食事が並べられていく。



 テーブルの真ん中には木製のバスケットが置かれパンが十個程。そこから順々にポトフ、サラダ、オムレツが並べられていく。決して豪華なメニューとは言えなかったが彩りも綺麗で何より心のこもった料理であることが見てとれた。



「うっまそー! これ姉ちゃんが作ったのかー! すげーな!」


 

 ジェフとエリックははしゃいで早く食べたいと椅子に座りながら足をぶらぶらとさせる。



「あたしたちも手伝ったんだよー! ねー?」「うんっ!」


 

 キャロとピナの二人が得意そうにそう言う。



「そうね、キャロ、ピナ、ありがとうね? おかげで美味しくできたよ。さ、みんな食べよ?」

 


 カグヤがそう言うのを待ってましたとばかりに目を輝かせる男子三人。みんなで手を合わせて礼をしてから食べ始める。


 

 ジェフ、エリック、ジミーの三人は動き回ってお腹が空いたのか、ものすごい速度で口からこぼれるのもお構いなしに食べる。


 

「あー、もうコラっ! 身体に悪いからもう少しゆっくり食べなさいっ!」



「そうだぞー、お前ら、あー、ホラこんなこぼして……」



 そう言って子供を(たしな)めるカグヤと、こぼした食べ物を片付けるテュール。それに対しジェフとエリックは目をキョトンとさせ──。



「兄ちゃんと姉ちゃん、ふーふみたい!」



「ほんとだー!」



 そして何が楽しいか、ジェフとエリックは顔を見合わせると合唱し始める。



「「ふーふ! ふーふ!」」



 そう言われるとカグヤとテュールはお互いに視線を向ける。子供たちの戯言(ざれごと)だと分かっていてもお互い免疫がないせいか照れくさくなり二人とも頬と耳が赤く染まる。



「あー、お兄さんとお姉さん照れてるっ! 好き合ってるんだー!」



 それを見たマセガキのジミーが敏感に察知し、からかってくる。これに対しテュールが慌てて──。



「違う、全然違うぞ! 兄ちゃんは姉ちゃんのことまったく好きとか思ってないぞ!」



 大人げなく必死に否定する。この言葉はカグヤに迷惑をかけない一心から出た言葉であったが──。



「……そうなんだ? そりゃ昨日、今日会ったばかりだもんねっ。それで好きとかおかしいとは思うよ? ──けど言い方があるんじゃないかなっ?」



 カグヤのニコリとした笑顔から発せられた言葉は暖かい団欒の場であったダイニングの温度を氷点下まで一気に冷却させた。



 ガタガタガタガタ──震える男子四人(・・・・)、キャロとピナもちょっと涙目だ。



「さっ、冷めちゃわない内に食べないとねっ? さ、みんなで仲良くご飯食べましょ?」



 コクコクコクコク!!



 全力で首を縦に振る男子四人。カグヤに頭を撫でられようやくホッとするキャロとピナ。



 しかし、そこからの食事は若干の緊張感が漂っており、素材の味を上手く引き出して作られている優しい料理が少しだけ薄味に感じられたとか。 

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