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第175話 マナがオドでノインがハイハイ

「テュール!! 何ボサッとしてんだ!!」



 一瞬動きが止まったテュールを容赦のない蹴りで吹き飛ばすローザ。その両手には樹界から召還した茨の鞭が握られている。その先端はノインの斧に絡み付いていた。



「おや、選手交代ですか? 困りましたね。あの刀にはちょっと興味があったんですが。あ、ちなみにあなたの命にはこれっぽっちも興味ないですよ。というわけで、その樹を切り倒させてもらうだけでいいんです。ほら、枝も葉も伸びたい放題ですし、剪定ですよ。剪定」



「ふざけるなぁぁぁ!!」



 ローザが怒号とともに再度ノインへと迫る。と、同時にルチアが背後から樹界魔法を使う。ノインの体は首から下が幾重にも束ねられた(つた)に巻き取られ見えなくなるほどだ。



「おや、身動きが取れませんね。では、少し遊びましょうか。ユウリさんは暫し安全な場所に隠れてて下さいね?」



 言葉通り身動きがとれなくなったノインは、しかし余裕のある声でそう言うと、小さく指を動かし、魔法陣を描く。そしてユウリはひび割れた空間へと吸い込まれてしまう。



「らっぁぁああ!!」



 そして、それと同時にローザの拳がノインの仮面へ打ち付けられる。だが──。



「だーかーら、無駄ですって」



 先ほど同様、数ミリ手前で障壁によって遮られてしまう。



「って、思うじゃーん? ほいっ。解読完了。第三位天界魔法、『拒絶する天壁(リ・プルムド・ウィル)』解除っと」



「あぁ、そう言えば貴方がいましたね。忘れて──グッ」



 テップが障壁を解除する。当然隔てられるものがなくなれば、ローザの拳は仮面へと届く。その一撃は地に根を張り縛り付けていた蔦ごとノインを吹き飛ばす。



 このとき、ローザの頭の中にあったのはこうだ。殺す気で攻撃して死ねば良し。気絶しながら生きていれば尚良し。そして、相対してみて目の前の男がたかが一撃で片がつくとは思っていない。



「テュール断て!!」



「応!!」



 そして、吹き飛んだノインを追いかけながらローザはテュールに指示を出す。このときの断ては、できうるならば四肢を、無理であれば命を断てとの意を篭めた。

 テュールは躊躇することなくそれに頷くと、半竜半人の体に紫色の禍々しいオーラを立ち昇らせ、ローザの隣を駆けていった。



「はぁ、やれやれ。みなさんはしゃぎすぎですよ? まぁ、流石に世界最強クラスの魔術師二人と茨姫。それにその一番弟子ですか、これは厄介ですね。おっと、危ない危ない。刀を人に向けて振り回すとは、五輝星の道徳教育は酷いものですねぇ」



 そして、ノインは厄介と言いながらもローザの打撃、テュールの斬撃を(ことごと)く逸らし、避ける。



「あんたたち、どきなっ!! 樹界魔法禁呪『死界』!!」



「ほぅ、樹界魔法の中でも禁呪ですか。見たことない魔法ですね。少し興味があります。避けませんのでどうぞ?」



 ルチアが百メートルを越える巨大な魔法陣を描く。すぐさまその場から離脱するローザとテュール。ノインはそれでも尚、両手を広げ仮面の下で笑った。



「ふん。あんたは危険さね。殺すよ」



 避けずに受け止めると言ったノインにルチアは冷たくそう吐き捨てると『死界』を発動させる。すると、ノインを中心とした球体状の結界が生まれる。そして、その中は──。



「ほぅ、一定の空間のマナをオドに変える魔法ですか。しかもご丁寧にオドが魔素まで汚染するとは、これじゃ魔法も使えませんねぇ。ゲホッ、ゴホッ。いやぁそれにしてもこんな不味い空気は初めてですよ。おや、私の肌もツルツルの美肌も……」



 まさしく死の世界。草木は急速に生命力を失い、枯れ、そして空気までもが淀み、灰褐色となる。当然、人体にも影響は及び、その肌は紫色に変色し、指の先からポロポロと体が崩れていく。



 それを油断なき眼で見つめる一同。この中から生きて脱出することなど不可能だ。これはそういう魔法なのだから、と分かっていてもどこか不安が拭いきれない。

 そんな様子が可笑しかったのか、ノインは口元を歪める。



「ハハハハハ、これだけ実力者が雁首を揃えて、死の世界にまでひきずりこんで、体が崩れゆく瀕死の男を見つめて……」



 



「何を怖がってるんです?」



 そして、そう言い終わるとガラガラと崩れ落ち、灰となり後には何も残らない。それからたっぷり死界を見守り、ようやくルチアがそれを解く。



「……ッチ。胸糞悪いやつさね。テップ、聖女は取り出せるかい?」



「任せんしゃーい。んとー、ここが空間座標のルーンで、ここが質量保存のルーンだろ? えぇと、これは時間停止か? んで……、っつー、天界魔法はやっぱ分かりにくいなぁ。まぁ、けどこれで発動、だ」



 ルチアはさも当然のようにテップにそう指示すると、テップも当然の如く応える。そのとき隣にいたテュールはもちろん頭に疑問符が浮かびっぱなしだ。



「おい、テップどういうことだ? なんでお前が天界魔法を使いこなせるんだ?」



「え? そりゃお前……、あぁー。まぁそろそろ限界か。落ち着いたら説明する、よっと」



 そして最後までいつもの軽い調子で誤魔化すようにそう言うと、ノインの魔法陣を再現してみせる。すると先ほどひび割れてユウリが吸い込まれた空間が再び、開き──。



「ダメ!! 閉じてっ!!」

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