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第173話 せめてもの抵抗

 一方、その頃アンフィスは避難班を目的地まで運び終える。ここでようやく殲滅班の顔ぶれが揃う。即ちウェンディネヴァ、メイア、レーベ、アンフィス、ヴァナル、レフィーだ。



 そして殲滅班リーダーであるウェンディネヴァは早速指示を出す。



「二手に分かれるぞ。私はアンフィスとレフィーを連れていこう。メイア、お前はレーベとヴァナルを頼む」



「ん、了解。なにかあったら呼んでねー」



 そしてメイアが軽く答えると、自然と遊楽団の四人もそれぞれのSSSランクの後ろにつく。



「では、ここからリエースの外周をぐるりと回って、落ち合おう。私達は西から行く」



「んじゃ、ボクたちは東からだねー」



 言ってることは単純だ。今現在、国境へ攻め込んできている天使たちを大掃除しようということ。しかし、いざ地上に降りてみればあまりの密度にため息もつきたくなる。当然、空中から大火力で殲滅することも考えた。しかし、それはあまりに爪痕を残しすぎる。



 結局六人は、人の姿のままゾンビもどきを(ほふ)ることを選択した。こうして、殲滅班の国境半周ツアーが始まったのであった。



 そして、避難班。



 国民は全て中央議事堂に避難を促されている。その議事堂を守っているのがエリーザであった。



 エリーザは議事堂の前に立ち結界を張っていた。これは樹界魔法の一つであり、マナを用いた特殊な結界である。生命活動、マナの循環が行える者は通し、マナの循環のない者は通さない。国民の多くは命からがらにその結界の中へ駆け込んでいき、ゾンビもどきはそこで阻まれているのが、避難班として動いているカグヤたちの目に映る。



「エリーザ、遅くなってすまない!」



 イアンはエリーザの姿を見つけ、そう叫ぶ。そして同時に結界に張り付いてるゾンビもどきを消し飛ばしていく。



「私たちも手伝うことといたしましょう」



 後に続くベリトも今回ばかりはのらりくらりとしたいつもの態度ではなく、闘志を漲らせている。当然、本気で邪魔なものを片付ける時の執事の掃除術は圧倒的であった。



 こうして、モヨモト、カグヤ、リリスもそれぞれの方向から襲いかかるゾンビもどきを排除にかかる。その間、住民の保護、避難誘導も忘れない。次第に輪を広げ、セーフティエリアの拡大を図る。



「アナタ……ありがとう。お願いできるかしら?」



「代わろう。キミは怪我人の手当てを」



 四方をベリト、モヨモト、カグヤ、リリスに任せ、イアンは結界の維持役を買って出る。そしてエリーザは樹界魔法で怪我人を治すべく、議事堂の中へと入っていった。



 そして議事堂の外では──。



「た、助け──」



「ハァァッ!! ……大丈夫かなっ?」



 へたり込んでゾンビもどきに囲まれた母娘をカグヤが助ける。こうして範囲を広げて捜索していると、逃げ遅れた人がまだ国中に残っていることが分かる。東西南北に分かれた四人は難しい選択を迫られていた。



(離れれば、離れるほど連携は取れなくなるし、避難場所である議事堂が狙われやすくなっちゃうね……。でも、取り残された人を見捨てるなんてことはできない)



 議事堂を守るのはイアンやエルフの騎士、冒険者たち。もう何時間も戦っていたのだろう。交代しながら専守に当たっている。多少リスクは上がるが、やはり自分たちが避難誘導をすべく足を伸ばすしかない。カグヤはそう考え前を向く。



 そしてモヨモト、ベリト、リリスも徐々に議事堂から離れ、安全な道を切り開くべくその武を振るい続けていく。だが、それを見て笑う影があったことには誰も気付くことはできなかった。



 一方、その頃ノインは遂に動き始める。



「さて、と。そろそろ頃合いですかね。ユウリさん出番ですよ」



 パチンと指を鳴らすと、先ほどカミラが出てきたカプセルから別の人物が現れる。ユウリと呼ばれた聖女である。



「はぁ、私も遂に器になるんですか。まったく世知辛い世の中です。こんな美少女を天使の容れ物にするなんて罪悪感とかないんですか?」



 ノインをジト目で睨み、不機嫌そうな声でそう訴える。



「えぇ、まったく、これっぽっちも罪悪感などありませんね。むしろ喜ばしいことですよ? 人の身でありながら天使を降ろせるのですから、正に聖女と言えるでしょう?」



 だが、ノインはまったく(ひる)むことなくユウリへ言葉を返した。しばし睨み合う二人。



「はぁ。もう最低です。この世界に迷惑をかけるくらいなら死にたいんですけどね」



「クク、死ねない体とは厄介ですね。さぁ行きましょうか」



「はいはい」



 そして、ユウリはせめてもの抵抗にノインのつま先を思い切り踏み抜く。だが、ノインは怒るどころかいつもの不気味な笑みのまま、ユウリの両手に鎖をはめ、先導していく。

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