第166話 腹四分目
紫の禍々しいオーラを立ち昇らせた半竜のテュールと、同じく紫のオーラを纏い、金色の武装に身を包んだレーベ。二人はゆっくりと魔法陣を描き始める。
『おっと、どうやらまだ魔法を使うようです!! って、なぬっ!? ま、またしても五十メートルを超えようかという魔法陣です!! まずはレーベ選手が発動させました!! ……んん? 不発でしょうか? 何も……、いえ!! よく見れば両手、拳あたりが歪んでみえますっ!! ルチア様どういうことでしょうか!?』
『あぁ、ありゃレーベのジジイであるリオンの得意技さね。その名も──』
「次元崩壊拳……だね。レーベも使えるようになったんだ? 流石は獣王の孫ってことだね。リオン様のその技食らうと下手しなくても身体のどこからは吹っ飛ぶからなー」
レーベの極大局所重力魔法。拳のみ何万倍も重力が増しており、その拳と大気の境界面はゆらゆらと蜃気楼のように歪んでいる。神獣王拳と理からの解放で振り抜かれた何十トンもの質量は、その技の名の通り次元を崩壊するレベルの攻撃となるだろう。それを察したメイアは諦めたように呟いた。どうやら身体の一部を失う覚悟をしたようだ。
そして──。
『一方のテュール選手も大きい!! 大きいぞ!! とてつもなく大きな魔法陣が空に浮かんでいます!! そして魔法陣が渦を巻きはじめました!! おぉーっと!! 渦巻いた魔法陣が中央に集まり、何かを形作ります!! そして落ちてきたぁぁぁあ!! 攻撃魔法でしょうか!? いや違います!! 武器です!! どうやら一振りの刀が落ちてきたようです!! リンクに垂直に突き刺さっています!!』
テュールの魔法陣はその膨大な魔力を凝縮に凝縮し、一振りの刀と成す。黒い柄巻き、炎を象った鍔、刀身は深い赫。テュールはゆっくりとその刀に近づき、柄に手を掛ける。そして一気に引き抜くと、同時に刀身からは黒い炎が奔る。
「黒炎刀『骸焔』ウェンディネヴァさん今からあなたをこの刀で断ちます。けど安心して下さい。あそこで解説をしているルチアって人が上半身と下半身が分かれてもすぐにくっつけてくれますから」
テュールはチロチロと黒炎を漏らす刀を脇に構え、堂々と言い放つ。
「フ、フフフ……。ハハハハハ!! ッ上等だ小僧!! 絶氷と呼ばれた私を断てるというのなら、燃やし尽くせると言うのならば!! ……やってみるがいい。逃げも隠れもせん」
対するウェンディネヴァは高らかに笑い声を上げ、キッとテュールを睨み、堂々とした立ち姿をぶらすことはない。
『す……すごい状況です!! ちょっと私、目の前が暗くなりかけています!! ハルモニア校代表のペアは、かの五輝星の弟子であり、神代級魔法をポンポン使って準備万端です……。あの攻撃は素人目に見てもヤバイということが分かります……。ですが、SSSランクペアの二人はそれを受けきるとそう言っています……。正気でしょうか!? あの四人は正気なんでしょうか!? ルチア様!?』
『な、に、す、ん、だ、い。……ったく、そんな揺するんじゃないよ。あー、正気かどうかなんてことを気にしてるようじゃ種族最強であるSSSランクなんかなれないし、そんなSSSランクを倒すには正気なんて保っちゃいらんないさね。まぁ、万が一ウェンディとメイアが死んじまったらその時点でSSSランク交代でいいじゃないか。テュールのやつは半分竜族みたいなもんだしね。カカカカッ』
『えぇぇぇえ!? わ、笑い事じゃないですよっ!! ぶっちゃけ気を使って言わなかったですが、いくらSSSペアと言えど、あれ受けたら死にますって!! だってテュール選手とかビジュアル完全に大魔王ですよ!?』
観客の目が一斉にテュールに集まる。そして深く頷く。
『うるさい小娘だねぇ。黙って見てときな。とは言ったものの、テュールとレーベがあの状態になれば、それなりに疾いさね。実況だの解説だの挟む暇があるかは怪しいものだが、お前さんもがんばるんだね』
『え? は? え? はぁ……』
『んじゃ、瞬きせず見ときな。そろそろ……動くさね』
そして、ルチアがそう言い終えると同時にテュールとレーベは実況の目から消えた。
テュールは脇に骸焔を構えたまま疾走る。音など優に追い越し、光に追いつこうとせんばかりに。そしてウェンディネヴァの腰骨の上、肋骨の下、その隙間を滑らすように全力の一閃を放つ。だが──。
「残念だな小僧。腹四分目ってところか」
骸焔は脇腹を斬り進むが、背骨を断ち切ることは叶わなかった。刀身が触れた部分は煙を立てている。皮膚を焦がしたため流血はほとんどない。そしてウェンディネヴァの体内で急速に冷やされた骸焔は、ピキピキと嫌な音を立てはじめた。
「チッ……!!」
慌てて引き抜くテュール。当然痛くないよう気を遣うなどということはなく、乱暴に強引にその体内に少しでもダメージを与えるようにだ。
一方レーベは──。
「ごめんね。顔は吹き飛ばされると流石に死んじゃうかもだから、受け止めさせてもらったよ? まぁなんとなくズルしちゃった気がするから左手はこのままで戦うね」
容赦なくメイアの顔面に次元崩壊拳を叩き込もうとしていた。しかし、流石のメイアも首から上を失えば僅かながら死ぬ可能性が出てくる。そのため左手で受け止めたようだが、しかし、インパクトの瞬間その左手は次元の彼方へと消し飛ばされていた。そして、肘から先のない左腕をプラプラさせながらメイアは再生させずに戦うと宣言する。
そして──。
「では……」
「んじゃ……」
「「反撃開始」」
SSSランクペア二人は初撃を耐え抜いたため、反撃に転じる。
『骸焔』という厨二病全開のネーミングセンスに我ながらご満悦な作者である。




