表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/182

第161話 異世界の開会式ってなんて自由

「おい、テュールどうだ? ドキドキするか?」



「んー、まぁ多少はな」



 嘘だ。なんだかんだで大舞台に慣れているわけでもないテュールは、ビビっていた。テップのからかいに対して、余裕そうに答えるが周りは当然そんなテュールの内心など見抜いており、ニヤニヤしている。



 さて、開会式直前、選手は整列しているのではと思いきや、そんなことなどしないとのことだ。テュールは元日本人としては非常にモヤモヤするがそれがならわしであれば、従うまでだ。そして闘技場の中には選手やそのサポーターなどが無秩序に点在しており、その一角にテュールを含む遊楽団や師匠陣もいる。先程の王族たちは障壁の張られた二階席、特別観覧室で座って待機していた。



「んじゃ、レーベは……」



「……ん。やる気満々」



 恐らくテップなりに緊張をほぐそうとしているのだろう。しかし、話しかけるまでもなくレーベの目には闘志がメラメラと燃えていた。



「ほら、テップ君? 始まるよっ?」



「へーい」



 そして九時丁度となり、開会式が始まる。現れたのは五種族五人の男たち。



「まずは各国から遠路はるばるここリバティへお越しいただいたことに感謝申し上げる。さて、本日はこの世界における最高峰の戦いの祭典、ロディニア闘技大会だ。日頃の研鑽の成果を十分に発揮し、正々堂々と最強を目指して欲しい。ハハ、そして皆も知っての通り、この大会はあの席から五大国の王族も見ている。アピールするにはもってこいというわけだ。怪我のないように、とは言わん。死なぬようにな。君たちは大事な各国の戦力であるのだから──」



「あれ、誰なのだ?」



「お前、この街で暮らしててあの人たち知らないのか? リバティ運営の最高責任者五人だよ」



「ふーん。知らなかったのだ」



 都市国家リバティを束ねる五人。その中の一人、壮年の人族の男が挨拶をしていると、リリスが小声でそんなことを聞いてくる。流石のテュールもその存在は何度か目にしたことがあったため、小声でリリスに答える。だが、リリスは自分から聞いておきながら実に興味なさげだ。



 そして最高責任者の五人である魔族、竜族、獣人族、エルフ族の四人もそれぞれ簡単な自己紹介と挨拶を行う。ここらへんは日本と大して変わりはない。



「では、続きまして選手宣誓に移ります」



 その後司会が選手宣誓へと進める。



(へー、選手宣誓とかもあるんだな)



 などとテュールが考えていると、二名の選手の名前が呼ばれた。



「ウェンディネヴァ・アルクティク選手、メイア・ハウトリア選手」



 闘技場の中央に設置された壇上に上がるのは二人。白銀の長い髪をなびかせ、歩くだけで目を奪われてしまう妖艶な美女。そして、純白のショートヘアにウサ耳を生やしたボーイッシュな美少女。



「宣誓、私たち」



「ボクたちは──」



「「一切慢心することなく、全ての試合に全力で挑み、完膚なきまでの敗北をプレゼントし、SSSランクは別次元であると証明することをここに誓います」」



「竜族SSSランク。絶氷ウェンディネヴァ・アルクティク」



「獣人族SSSランク。土兎メイア・ハウトリア」



 宣誓を終えた二人はニコリと笑うと壇上を下りる。それを見ていたテュールは──。



(……えぇぇ。選手宣誓っていうか、君たちの宣誓じゃん。こっちの世界ってあんなに選手宣誓を私物化しちゃっていいん?)



 言いたい放題、やりたい放題の選手宣誓に若干引いてしまう。そして周りを見渡すと、やはり多くの者は苦笑していた。が、一部の者、恐らく選手であろう者たちはその目に闘志を燃やしている。どうやら分かりやすい挑発は選手たちには好評のようで、大会的にはアリなのだろう。



 こうして開会式は進行していき、そろそろ終わろうかというところで司会からこんな言葉が出る。



「最後に今回は特別ゲストによる挨拶があります。私も今しがたその方々の名前を教えていただきましたが、にわかには信じられません。この会場に本当に来ているのでしょうか。では呼んでみたいと思います。五輝星の皆様です!」



 最初訝しげに誰だ、誰だとざわついていた会場は、最後の一言でその声の大きさが何倍にも膨れ上がる。



 ──嘘だっ! ──死んだはずじゃ! ──冗談にしちゃタチが悪すぎる! ──ってことは? 本当に? いやいやいや。



 会場内は半信半疑どころか、無信全疑の状態だ。そんなざわめきの中、師匠陣五人は実に楽しそうにゆっくりと壇上へと上がっていった。



「ホホ。ほいっ」



 パチンッ。



 そして檀上中央にまで上がったモヨモトが指を一つ鳴らすと、今まで五人を覆っていた認識阻害の魔法が消え去る。



「みな、ちと静粛に。ホホ、久しぶり。モヨモトじゃ」



「ガハハハ、本物のリオンだぜ?」



「フハハハ、ファフニールである!」



「フフ、ツェペシュだよー。みんな覚えてるかなー?」



「ふん、なんでこんなこっ恥ずかしい名乗りを上げなきゃいけないさね。どこぞの老いぼれだよ」



 一瞬の静寂──。さきほどまでのざわつきが鳴りを潜め、それどころか呼吸音、衣擦れの音すら聞こえない。まるで時が止まったかのように固まる参加者たち。



「なんじゃなんじゃ。もう少し驚いてくれてもよいじゃろうに」



 そして、そんな固まっている者たちを見て、おどけるモヨモト。その一言を引き金に会場からは割れんばかりの歓声が巻き起こる。



(す、すげー。モヨモトたちってこんな人気があったのか……)



 周りを見れば、叫ぶ者や涙を流す者までいる。興奮しすぎて闘気を全開にぶつける者や、それを行動に移し壇上へと上がろうとする者、とにかく五輝星と紹介された師匠陣は人を惹きつけた。



「ガハハハ、おめぇたちの戦う相手は俺たちじゃねぇだろ。闘技大会が終わったら俺が喧嘩を買ってやる。今日は大会に集中しな。それに──」



 個の頂点と言われた男リオンの言葉に参加者は大人しく従い、耳を傾ける。



「フハハハ、我らの弟子が参加している」



 リオンの横に立つファフニールがドヤ顔でそう言い放ったのだ。


いつもありがとうございますm(_ _)m

発売日一週間前となりました!

口絵と特典情報の公開許可が下りましたので活動報告にて公開しております。

下記表紙画像から公開ページに飛べますので、どうぞ覗いてみてくださいm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ