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第134話 邪悪を切、り、捨、テロ~

「アンフィスはどこかなーっと。いたいた。うん、随分派手にやってるねー」



 シャルバラ達を倒し終えたヴァナルが急いで本隊の方に向かうと、そこには惨状が広がっていた。



「誰でも良い!! ヤツを止めてくれぇ──ップファッ!!」



 ある者は殴られ、ある者は結界を破壊され鮮やかな色に(まみ)れ、また一人、また一人と屍が積み重なっていく。



「失礼な、殺してなんかいねぇよ。ほい、また一点ゲット」



「やっほーアンフィス。邪魔しにきたよ~」



 そして、そんな惨劇の中心にいるアンフィスに堂々と獲物を横取りにきたと宣言するヴァナル。



「ほぅ、おもしれぇ。んじゃ、俺も遊びは終わりにするかなー。さーて、奥にいる司令官ー!! 今から行くから首を洗って待っててくれー!! おい、ヴァナルこいつは譲らないぞ?」



「アンフィス知ってるー? 世の中には早いもの勝ちっていうことわざがあるんだよー?」



 アンフィスとヴァナルは戦場のど真ん中で目を合わせ、互いにニコリと笑う──瞬間、疾走。



「てめぇ!! 向こう食ってきただろうが!!」「ガッツゥッ!!」



「えー、だってアンフィスの方が敵多かったから稼いでるでしょ?」「ベヘリットッ!!」



 疾走りながらも目についた敵を屠り、二頭の龍と狼は本隊の喉元へと迫ろうとしている。



「ユーステッドさん、どうやらヤツにここを気付かれたみたいです……。どうしますか?」



「フフ、初めからバレていますよ。我々はただ遊ばれていただけです。いやぁ、あれはバケモノですね。とても敵いそうにありません」



「では、逃げ──」



「ですが、今ここで逃げて事態が好転するようであればそれも手ですが、むしろここで相手を食い止めておかなければ確実に総大将を殺られます。それに単身乗り込んで無茶苦茶に暴れた彼は恐らくハルモニアのトップでしょう。そして、後から現れた彼も同レベル帯だと推察します」



 アンフィスとヴァナルの戦力を分析し、ハルモニアのトップと予測するユーステッド。だが、残念ながらバケモノレベルの敵はあと数人いるわけで──。



「あー、俺がトップじゃねぇぞ? 俺より強いヤツが少なくとあとニ、三人はいるなー。ま、一人は不参加みたいだけど。あ、ちなみにコイツは俺より強いヤツに数えてねぇ」



「なっ!? いつの間にッッッ!!」



 アンフィスはご丁寧に誤った戦力予想を訂正する。ユーステッドの周りの生徒は到達速度のあまりの速さに驚きを隠せない、が、ユーステッドだけは落ち着いた様子で──。



「フフフ、あなたレベルがあと三人はいるわけですか。流石、ハルモニアは優秀ですね。ですが、こちらに来てよろしかったんで? うちにはシャルバ──」



「あー、シャルバラさん達はもう倒してきたよー?」



 ピョコンと、アンフィスの影から顔を出したヴァナルがそう付け足す。



「嘘……ではないようですね。ふむ、想像以上に戦況は苦しいですね。では、一つお聞かせ下さい。何故、本隊から西側に切り離した別働隊を見逃したのですか? 気付いてないとは思えないのですが?」



「あー、全部倒しちまうと拗ねるヤツがいるからなー。ある程度は拠点に送ってやらねぇとってとこだ」



「なるほど。とことん遊ばれているわけですね。では、最後にもう一つだけ……、私は何点で?」



 その質問に全員の目がキョトンとする。その中にはアンフィスとヴァナルも含まれており、二人は何度か目を瞬かせた後、楽しそうに口を歪め──。



「「十点」」



 そう言うと、ユーステッドを討ち取る。



『クルード司令、こちら斥候隊アルファ、遊楽団のニ名により敵本隊はほぼ壊滅。司令官クラスであった生徒は退場。西側から本隊の三割程度が切り離され別働隊として拠点を目指してるようです。オーバー』



「ふむ。先程シャルバラ様を倒したという報告と合わせると、既に敵の主力部隊は全て壊滅したと言っていいだろう。西側からの別働隊は無視だ。こちらの防衛力と敵戦力、模擬戦の勝敗条件を考えれば当然だろう。というわけで我々の勝利は目前なわけだ。斥候隊ガンマ、状況を教えてくれ」



『ハッ。こちら斥候隊ガンマ。敵拠点、旗と総大将を確認いたしました。総大将の守りは五十人程です。また、周りに遊楽団の姿は見えず、こちらの斥候にも気が付いていない状況です。オーバー』



「ふむ。では、これよりハルモニア本隊、鋒矢の陣となり一気に敵拠点を蹂躙する。こちらの数は四倍以上だ。フォーマンセルを組み、守りと攻めの役割を明確に分担せよ。目指すは完全勝利。誰一人欠けることなく、総大将を討ち取り旗をいただく。では、ここからは駆け足だ」



 クルードはニヤリと笑うと、全隊に激を飛ばす。わずか一時間前に組織された部隊だと言うのに、その動きは乱れることなく森の中を進む。こうして巨大な一本の矢が放たれた。



 そして、矢の向かう先である敵拠点では──。



「ザック。悪い知らせと悪い知らせと悪い知らせがある。どれから聞く?」



「……良い知らせはねぇの?」



「……強いて言えば五十人程で補足されず敵拠点を目指せている部隊がある」



「強いて言えば、か、それ? じゃあ、悪い知らせは……」



「シャルバラ様が討たれた。本隊はほぼ壊滅し、ユーステッドさんが討たれた。敵本隊は未だ戦闘を行っておらず無傷のままこちらを目指している。その数およそ二百だ」



「…………は? ちょっと待て。え? えぇええ? 敵本隊は戦闘を行っていない? じゃあシャルバラ様とユーステッド様はたかだが数十の遊撃隊にやら──」



「二人だ。たった二人にやられた。タッパのある黒髪の人族らしき男と、性別がどっちか分からないような銀髪の優男だ。こちらも人族と思われる」



「はっはっは! ダルヴィス。お前も冗談が上手くなったな! そのマジっぽい感じ、一瞬信じかけたぞー? そんな煽らなくても大丈夫、俺は真面目にやるって──」



「マジだ」



「マジか」



 総大将のお守りを任された男──ダルヴィス。彼は努めて真面目に現状を総大将であるザックに伝える。本心を言えば、彼も冗談であってほしかったのは言うまでもない。



「さて、来たようだ」



 ダルヴィスの視線の先、隠れる気など毛頭ないようで雄叫びと足音を盛大に撒き散らしながら矢が到達する。



「いたぞ!! あれが拠点部隊だな!! 必ずクルード司令をあの旗へ届かせろ!!」



 ハルモニア校の隊列で作られた矢の先端が弾け、敵の守備部隊と交戦しはじめる。そして後続部隊も次々に左右へ敵を押さえつけていく。



「フッ。これで旗を取れなかったらアイツに笑われてしまうな。よし、クルード主力部隊突撃ッッッ!!」



 まるでモーゼの十戒のように旗まで一直線に道ができたのを確認し、クルードが突撃の号令をかける。



「おっとー、総大将と旗は二十ポイントだからなー。わりぃけど貰うぜ?」



「フフー、クルードご苦労さまー。この道使わせてもらうねー?」



 クルードが率いてきた本隊は足並みも揃っており、決して遅くはなかったのだが、やはり身軽な二人と比べてしまえば速度は落ちる。ここに来て追いつかれてしまったが、ここでどうぞと譲れるほどクルードは大人ではない。



「第三勢力確認!! 無力化せよ!!」



 そして、クルードはあろうことかアンフィスとヴァナルに対して攻撃指示を出す。これにはアンフィスとヴァナルも苦笑いを浮かべ──。



「そうかよ。おい、ヴァナル味方の司令官クラスも十点な」



「フフ、第三勢力って言われているくらいだから正確には味方にカウントしてもらえていないけどねー」



 こうして、二百vs五十vsニの戦いが始まる──かに思えたが。



「はぁ、ダルヴィス。俺目眩が……」



「しかし、これはチャンスだな。敵方はどうやら仲間割れしているようだ。これに乗じて漁夫の利を──」



「パオ゛ォォォォヌ゛ン゛!!」



「なんだ!? 次はなんなんだ!?」



「ほぅ。初めて聞いたが、これは俺の愛読書である魔獣図鑑312ページに載っているレファンドパオーヌの鳴き声だろう。流石は魔獣図鑑だ。聞いたことがなくとも聞けば一発でそれと分かる」



 そしてダルヴィスの予想通り、木々を薙ぎ倒し、乱戦している戦場に一頭の魔獣が現れる。と、同時に──。



「ふぅ。この林檎の匂いを凝縮した最強の匂い玉魔法を持ってすればレファンドパオーヌを操ることなど朝飯前なのだよ!! フハハハハ!!」



 そっと群衆に紛れ込んだ後、認識阻害魔法を解いて高笑いする男がいた。そう彼こそ──。



「テュール!! このアホウが!! そいつをどうする気だ!!」



「クルード何怒ってんだよ。決まってんだろ? レファンドパオーヌを撃破せよっ!!」



「ほぉー、おもしれぇじゃねぇか。おい、ヴァナルあのデカブツと上に乗ってるヤツセットで五十ポイントな、あとテュールは百ポイントだ」



「おっけ~」



 こうして、ちゃっかりテュールまでポイント扱いされ、二百vs五十vsニvs一頭+一体vs一の大乱闘が始まる──。






作者はこの自由過ぎる模擬戦の収拾をつけられるか心配になってきました。

遊楽団が遊楽団が自由すぎるんです(ノД`)シクシク

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