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第133話 銀の狼、桜舞う森の中で

 テュールとベリトが森を駆け回っている頃、一方こちらでは──。



「こんにちは~」



 ひらひらと手を振り、エルフの一団の前に銀色の青年が躍り出ていた。



「なっ!? 止まれッ!!」



 先頭を走っていたエルフの青年が後続のエルフに制止の声を掛ける。



「ひーふーみー。十三人かぁー。シャルバラさんは指揮官クラスだよねー。で、君とシャルバラさんの横にいた子は隊長クラスかなぁー。あとは1ポイントだねー」



「ッ!? う、打てぇ!!」



 先頭のエルフが声を掛けた時点で後続は淀みなく散開し、樹の幹や葉の影にスルリと溶け込んだ──にも関わらず、目の前の銀髪の青年は正確な人数、更に戦力の分析まで行ってみせた。先行隊の隊長を務めていたエルフは目の前の男に底知れぬ恐怖を覚え、即排除という選択を取る。



 そして当然、敵と遭遇することは想定済みであるリエース校の生徒たちはこの指示に即座に従い、ペイントボールの魔法を四方八方から打つ、打つ、打つ。



 スルリ──。



 銀髪の青年はニコニコと笑顔を崩さぬまま、その両の手に模擬戦用に用意された刃のない短剣を二振り引き抜く。



 そして、襲いかかるペイントボールに対しその場で剣舞の如く打ち、払い、廻り、斬る。



「ま、魔法を……斬る、だと? チッ、かくなる上は──!! カレーナ頼んだぞ!!」



 エルフの青年は遠距離攻撃のみでは仕留められないと判断し、その腰から両手で二本のナイフを引き抜く。



 ──刹那、投擲。



 一瞬怯めばいい。エルフの青年は最初からそれで決着が付くなどと甘い考えは抱いていない。そのナイフを弾いた瞬間を仕留める。



 エルフの青年はナイフを投げるのと同時に予備のナイフを握り、斬撃を繰り出そうとする。



 しかし──。



 銀髪の青年は投擲されたナイフに対し、短剣を投げ返し宙で弾く。それを見て、僅かに目を見開くエルフの青年。しかし、ここで斬撃を鈍らせるような愚鈍さでは隊長は務まらない。空の手になった銀髪の青年に対し、二閃──とにかく速度を重視した不可視とも言える斬撃を放つ。



 が、ヴァナルはそれを両手の指で挟み止める。



「……バケモノめ」



 エルフの青年は呆れるようにそう言い、ニヤリと笑った。ヴァナルの背後から風切り音が聞こえる。凄まじい速度で飛来する矢である。先端は殺傷性のないものであるがこの速度で食らえばいかにヴァナルと言えど──。



「よーいしょ、っとー」



「は? ──ゴベヘッ!!」



 だが、ヴァナルはくるりとそのままエルフの青年を持ち上げ、体を入れ替える。当然矢の軌道は変わらないのだからその矢はエルフの青年の背中に突き刺さる。



 ビビーッ。



 アラートが鳴り、背中のパトランプがクルクルと赤い光を放つ。これでエルフの青年は退場だ。



「な、なんていうデタラメな反応速度なのっ……。あの状態から体を入れ替えるなんて……」



 コンマ数秒で到達する矢を認識してから男子生徒一人を持ち上げて身体を入れ替えるという単純であるが故にその身体能力の高さが伺われる場面に矢を放った少女──カレーナは戦慄する。そして──。



「シャルバラ様、ここは私達が足止めします。シャルバラ様だけでも相手の総大将の元へと急いで下さい。相手はどうやら慢心がある様子。三分……、いえ五分は持たせてみせます。どうかご武運を!」



 シャルバラを含めた残り十二人で応戦しても分が悪いと悟ったカレーナはシャルバラにそう進言する。シャルバラは何か言いたそうに口を歪めるが、結局何も言わずに頷き、敵の総大将がいる方角をまっすぐに見つめる。



「すみません、ご武運を」



 そして、短く言葉を発し、枝を蹴る。だが、それをみすみす見逃すヴァナルではない。



「えっ……グッ!!」



「よーいしょっ、と」



 シャルバラが枝を蹴り、次の枝に移る僅か数瞬の間にヴァナルは短剣を拾い、跳躍。すれ違い様にその手を振り下ろし墜落させる。そして、そこから反転するように宙を蹴り、シャルバラが地面に叩きつけられる前に抱きかかえ、そっと降ろす。



「シャ、シャルバラ様ッッッ!! き、貴様ァァァア!!」



「峰打ちだよー? 貴重な十ポイントは逃がせないからね~。まぁ、ここにいる人全員逃がす気はないけど」



 激昂するカレーナ。その憤怒を一身に受けても尚柳に風の如くニコニコと笑顔を崩さないヴァナル。周りの生徒達に動揺が走る。



「全員、打ち続けろッッッ!! 私ごとヤレッッッ!!」



 弓を捨て、長剣を抜き放ったカレーナが裂帛の気合を持ってヴァナルへと詰める。



「おっとー」



 倒れているシャルバラを巻き込まないよう十分に離れながら、カレーナの一撃を片手で受け止めるヴァナル。そして、もう片方の短剣でペイントボールを弾き続ける。ご丁寧にカレーナに当たりそうになる分までも。



「カ、カレーナ、だめっ、逃げ……」



 先ほどの一撃で退場となったシャルバラはゆっくりとその半身を起こし、目の前の光景を見て、か細い声で呟く。



「な……、舐めるなァァァっ!!」



 しかし、カレーナには届かない。相手のペースに振り回され続けて怒りに染まったカレーナは振り向くことなどなく、ニノ太刀を考えない渾身の一撃を振るう。



 カンッ、ヒュルヒュルヒュルヒュル、トサッ。



 その、下からすくい上げるような一撃はヴァナルの右手から短剣を弾くことに成功する。一瞬ヴァナルの驚く顔がカレーナの目に映る。



 ニヤリ。



 カレーナの顔に一瞬喜色が浮かぶ。まさしく──。



「油断だねー。はい」



 ペシャリ。



 短剣を弾き飛ばし、慢心が生まれた刹那にヴァナルはその右手からペイントボールを放つ。着弾。



 鳴り響くアラートと茫然とするカレーナ。



 そんなカレーナにくるりと背を向け、消えたと錯覚する速さで疾走、跳躍するヴァナル。



「ぐえっ」「がはっ」「ひでぶっ」



 森のなかにはあっという間に十の苦悶の声が上がり、決着となる。



「さーて、これで丁度三十ポイントかぁー。アンフィスは本隊の方に行ったからもっと稼ぐだろうなー。……うん、邪魔しにいこう」



 地面に降り立ったヴァナルは独り言を言いながらトコトコと歩き、アンフィスの方へ向かおうと方針を立てたところでカレーナの前を通り過ぎる。



「……お強いんですね。お名前を伺っても?」



「ん?」



 考え事をしながら歩いていたヴァナルを呼び止める声──カレーナに支えられたシャルバラが話しかけてくる。



「ボクの名前はヴァナルだよ~。じゃあね、シャルバラさんとカレーナさん」



 だが、急がなければアンフィスに大量にポイントを稼がれてしまうと考えたヴァナルは質問に軽く答え、その場を後にする。



 残された二人はと言えば──。



「……ヴァナル様、かっ、格好いい」



「え!? シャルバラ様!? 正気ですか!? あんなのらりくらりとしていて男か女か分からないような中性的な青年が格好いいと!? た、確かに、剣技の方はまぁまぁでしたけど……。いえ、やはりダメです! シャルバラ様どうか気を確かにっ!!」



「はっ……!? そう言えばセシリアからの手紙にヴァナル様の名前があったわ! 同じ団の団員であり親しい友人だと……終わったらお茶の席を設けてもらいましょう。そうしましょう」



「シャルバラ様ぁー!? 聞いてますかー!? シャ、シャルバラ様ぇ……」



 ヴァナルが去った方角に熱っぽい視線を向け続けるシャルバラにカレーナの声は届かないのであった。



ヴァナルモテ回。

多分強ししょで一番女性から人気高いのはヴァナルだと思う。


あと今話から「――」を「──」に修正しました!

書籍版ではきちんと一から修正します٩( 'ω' )و

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