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第128話 レファンドパオーヌ討伐ミッション!

 キョロ、キョロ。



 テュールは早速王族専用の露天風呂を見渡す。



(ふむ、流石は王族専用……。そこはかとなく高貴な感じがする。むむっ!? こ、これは――)



 日本で言うところの檜風呂を発見するテュール。



(もしやユグドラシル風呂か!?)



 この素材が何の木材かは分からないが、もしかしたらユグドラシルかも? と思ったテュールは急いで体を洗い、ユグドラシル風呂と思しき湯へ向かう。

 

 

 現在時刻は真夜中真っ只中のため、歩いたり洗ったりする際は出来るだけ物音を立てないようにしていたテュールだが、結局めんどくさくなったため、防音の結界を張ることとする。そして心置きなく――。



「くぅ~~~~。染みるぜぇ……。あれだ、マナだ。これはいいマナがダシとして出てる気がする。いやぁ疲労回復には持ってこいだな」



 おっさんくさい声を出す。プラシーボ効果とは偉大であり、ユグドラシルで作られているわけがないユグドラシル風呂に浸かり、ふにゃっとニヤけ顔で四肢を弛緩させるテュール。



「よーしっ、次はあっちだ! おぉ、涼しいっ」



 次はルチアがデザインしたのだろうか、まるで老舗旅館のような自然豊かで荒々しくもどこかホッとする岩の湯へ向かう。途中、お湯で火照った体を清涼な風がそっと撫で、テュールのテュールを僅かに揺らす。



「って、やかましいわっ。おっ、効能まで書いてあるじゃないか、どれどれ――」



 風のいたずらにツッコみ終えたテュールは湯の直前で立ち止まり、看板に目を通す。



(ニャン? ニィー? チュ……読めんわ。えぇと、なになに、若い娘が溺れたという悲劇的伝説あるアルヨ。以来ここで溺れた者、皆若い娘の姿になてしまう奇跡的泉……。そう信じて入ればきっと若返るアルネ……ね、ふむ)



 とりあえずテュールは両手で後ろ髪を束ねてみる。が、とてもおさげにはなりそうになかった。



「さて、入ろ」



 そして、今の浪費と言える一分をなかったことにして、湯へ浸かる。



「ま、当然女になるわけないわな」



 と、なかったことにしておきながら、それでも僅かばかり異世界だしあり得るかもと思ってしまったテュールを責めることは恐らく誰もできまい。



「…………」



 それ以降は口を開くこともなく、ただただ揺蕩う。風が葉を揺らす音、湯が流れる音、そしてシンとした夜の音。



 心地よいオーケストラと温かい誘惑に誘われ、テュールはつい睡魔に堕とされそうになる。



 起きているのか、寝ているのか、現実なのか、夢なのか、世界の境界線でまどろむテュール。一体どれくらいの間そうしていただろう。しかし、いつだって世界は唐突に姿を変える。



 ガラララ――。



「おっきいおふろー! わーい!」



「コラ、ミア。ちゃんと洗っ――」



 脱衣所の扉が開き、洗い場を挟んで岩の湯に浸かっていたテュールとレフィーの目が合う。そして世界は瞬間停止し――動き出す。



「ぬぁああ「あー、パパー!」あ、コラ、ミア走るのは危ないからダメだ。って、飛ぶのも……んー、ダメなのか? って、コラっ」



 この状況に混乱したテュールは反射的に叫び声を出しそうになるが、ウーミアが駆けてくるのを見て、冷静に注意する。しかし、そんな注意など振り切ってウーミアは翼をはためかせテュールの胸に飛び込む。



「えへへー。パパとおっふろ! おっふろ!」



「コラ、洗わないで入るのはなしだ。ほら洗ってきなさい」



 湯に着地する寸前でテュールが立ち上がり、ウーミアをキャッチする。



「うわっ! パパれふぁんどぱおーぬさんがいるよ! ママー! ママー! パパがまじゅーになっちゃった?」



 ウーミアはテュールに掴まれたまま首だけを後ろに回し、レフィーを呼ぼうとする。テュールは慌ててそれを止めるが――。



「……ミア。これはレファンドパオーヌさんじゃないぞ。そして、そこをあんまり指差すのはよくない。あと頼むからこの状況でレフィーを呼ぶのはやめてくれ。そして、レフィーお前もニヤニヤと俺のレファンドパオーヌを観察するんじゃない」



 とき既に遅し。ちなみにレファンドパオーヌは象に似た魔獣であり、ウーミアが愛読している魔獣図鑑の312ページに載っている。



「ミア? パパはどうやら魔獣に取り憑かれてしまったようだ。戦えるか? よし、なら修行の成果を見せてやれ」



 レフィーの言葉に目を爛々と輝かせたウーミアが頷く。そして温泉で火照っている筈なのに冷や汗が流れるテュール。



「えいっ! 尻尾ばすたー!」



 ヒュンッ。ガシッ。



「ふぅー! ふぅー! あぶっねー!」



 両手で脇を掴まれているウーミアはそれでも尚尻尾を巧みに振りかぶり、レファンドパオーヌへの攻撃を強行する。



 尻尾の先端が下から弧を描くようにレファンドパオーヌに到達しようとする刹那、テュールは両足をガッと内股に閉じ、その尻尾を挟み止める。



「ハハハハハ、テュール。まるで女子のような格好だな」



「お前笑い事じゃないからな! 本当に女子になるところだったぞ! あと、前隠せ!」



「ん? 今更だろ? お前にはもう何回見られたことやら。流石に慣れる。それに、まぁパパとママだし、な」



 そう言ってからかうように笑うレフィー。間に挟まれているウーミアは、前と後ろをキョロキョロと交互に見て、不思議そうな顔をしている。そこに――。



 ガラララ――。



「あー! レフィーとテューくんがイチャついてるのだー! とぅ!」



「なっ、お前までいるのか! 今ウーミアを抱えて――って聞いてねぇ! ぬぉっ」



 ほんのりピンクな雰囲気を敏感に嗅ぎ取ったリリスが脱衣所から真っ裸で駆けてきて、そしてジャンプする。何故幼女というのは人の話を聞かず突っ走るのか。永遠の謎である。



「ふふんー。久しぶりの裸テューくんなのだぁ~。スリスリ」



「コラッ、しがみつくな! おま、全裸だぞ!?」



「んー? テューくんは裸のリリスに抱きつかれると何か不都合があるのだー? もしかしてレファンドパオ――」



「それは、もうええっちゅねん! つーか、なんでみんないるの?」



「ん? あー、もう四時を過ぎたからなー。修行を終えてシャワーしか使えなかったからお湯に浸かりにいこうということになってセシリアが――」



 テュールの目の前からいつの間にか洗い場へ移動し、髪の毛を洗い始めようとしているレフィーがそう答える。そしてセシリアという名前が出たということは、それ即ち、ガラララ――。



「あら? テュールさんもお湯ですか? フフ、恥ずかしいのであまり見ないで下さいね?」



 髪をアップにまとめ、薄いボディータオル一枚だけで体を隠すセシリアがニコリと笑いながらそんなことを言い、洗い場へとゆっくり歩いていく。



「……いや、なんていうか、君たち動じなさすぎじゃない? 一応俺男だよ?」



「ししょーは動じすぎ。泰然自若。どんな時でも冷静に拳を振るう」



「ほぇー、難しい言葉使うのなー。けど、注釈が物騒――ってレーベいつの間に!?」



「……ずっといた。二時までに上がろうと思ってたら寝てた」



「……そ、そうか。あ、あとリリスいい加減離れろ。そしてミアお前も体を洗ってくるんだ」



 なんとなく抱えたままだったウーミアを地面に下ろし、洗い場へ行くよう指示するとウーミアは素直にレフィーのところへ駆けていった。そして空いた手でリリスを剥がそうとするテュール。だが――。



「いーやーーなーーのーーだーーー。最近ヒロインとしての絡みが少ないからここぞという所でアピールするのだーー」



「コラッ、アホっ! 体をこすりつけるな!」



 引き剥がそうとするテュールに対し、両手両足を絡みつかせ、コアラの如くシャカシャカと上下に逃げるリリス。



「…………ひしり」



「…………で、お前は何をやっとるんだ?」



「……アピール?」



「…………はぁ」



 リリスの反対側に同じようにひしりとしがみつくレーベ。当然、真っ裸である。



(俺はユーカリ、俺はユーカリ、こいつらはコアラ。こいつらはコアラ。そして俺の股間にはレファンドパオーヌ。ププッ、ここは動物園かっての)



 もはや引き剥がすのも疲れたテュールは、両手に幼女をぶら下げたまま棒立ちで、心の中で一人ボケツッコミを始める。ちなみにここで言う棒立ちに他意はない。



「テュ、テューくん。どうしたのだ? 流石にいきなりニタニタ笑うのは気持ち悪いのだ……」



「欲情? 浴場で幼女に欲情?」



 そしてニタニタ笑うテュールに対し、リリスは引いた目をし、何故かレーベは僅かに輝きを増した目で見つめてくる。

 

 

「はぁ……。ほら、もういいだろ? とにかく洗ってこい。あぁ、レーベはもう洗い終わった後か。いやだからと言ってくっついていいわけじゃないぞ? まったくこんな時にカグヤがいれば……いや、もっと大変なことにな――」



 ガラララ――。

 

 

「わぁーすごい――綺、麗、だ……ねっ。……って、何をやってるのかなっ?」



 体にはバスタオルを、頭の上には小さなタオルを髪とともに巻いているカグヤがテュールと目が合い笑顔で問いかける。

 

 

「いや、聞いてくれ。俺は湯で眠る気なんかなかったんだ。こう何かしらの大きな力が働いて眠らされてこうなってしまったんだ。こんな展開を望んだわけではない! そう俺も被害者なんだよ!」



 テュールは必死の形相で訳の分からない言い訳を始める。本当に作者にも彼が何を言っているかさっぱりである。そしてその必死な弁明を端で聞いていたウーミアは――。

 

 

「パパ、うーとのお風呂やーだったの?」



「あぁ、どうやらそうらしい。悲しいな。だが安心しろ私はいつまでも――」



「嫌じゃないぞ! ミアとは毎日お風呂入りたい! いくつになってもパパと入ってくれ!」



「じゃあパパはママと入るのがやーなの?」



「あぁ、そうみたいだな。ミアごめんな。パパに嫌われてしまったから一緒には――」



「嫌じゃない! 嫌じゃないぞー! ママとミアと一緒に毎日だって入りたいさ! ハハハハハ!」



「あら、では私との入浴が嫌だったということでしょうか……」



「んーん、きっと私がいけない。ちっちゃいから……」



「リリスとがイヤなのだ? テューくん、体ちゃんと洗うからリリスとも入って欲しいのだぁ。仲間ハズレはイヤなのだぁ」



「リリィかあいそー」



「あぁ、可哀想だな」



「えぇ、可哀想ですね」



「ん、ひどい」



 いつの間にか洗い終わったレフィー、ウーミア、セシリアが立ったまま喚いているテュールの脇を通り過ぎ、レーベの横で湯に浸かりながら好き勝手言う。

 

 

 リリスにいたっては髪を洗う手を止め、涙目でこっちへ走りながらしがみついてくる。涙目なのはシャンプーが目に入って染みているだけなのは皆も分かっていたがあえてテュールを責めたのは言うまでもない。

 

 

 こうして温泉は混沌の坩堝(るつぼ)と化していったが結局――。

 

 

「いいお湯だねっ。んーー今日は大変だったなぁ」



「血痕を残しながら歩く土管な。カグヤのあんな姿を見たらエスペラント王国中が大騒ぎだろうなぁー」



「クク、確かにあの格好は中々に衝撃的だったな」



「えぇ、私もカグヤさんを部屋に連れて戻るまでにすれ違った方々からの視線は忘れられません。フフ」



「でもこれでカグヤも強くなった」



「えーー! リリスそれ見てないのだ! 見たいのだ!」



「絶対イヤっ♪」



 テュールとお姫様五人、そしてウーミアは一緒の湯に浸かりのんびりと疲れを癒す。

 

 

 そしてテュールは、チラと皆の顔を見渡した後、まだ暗い空の果てへと視線を移し、そっと言葉を投げる。

 

 

「俺たちの冒険はまだ始まったばかりだ」



 ~fin~ るい先生の次回作に――。

 

 

「いや、始まったばかりだって言ってんだろ! まだもうちょっとだけ続くんじゃ!」



 少女達はいきなり一人で空と会話し始めたテュールを訝しげに見るが、まぁいつものことか、とすぐ様意識の外へと弾き、只々仲間と浸かる湯を楽しむのであった。




清々しいまでにネタに振り切った回だが、ここまでいくと皆様に怒られそう((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル

いやぁぁあ、石を投げないで! コーラ投げないで! 生卵投げないで! ブクマを投げないでぇぇえ!

そして裸が出てもイヤラシくないのが強ししょクオリティw

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