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第125話 今選べるのはこの五種類から!

 そして、この日もセシリア宅にて賑やかに食事する一同。その後食休みを挟みラグナロク対策の会議を別室にて行う。集まったのは遊楽団の面々とルチア、エリーザ、ローザ、そしてイアンのみである。



「さて、それじゃきちんと順序立ててもう一度説明していくからちゃんと聞くさね? 特にそこの二人と……あと、おまえさんもね」



 ルチアが説明を始めるにあたって、真面目に聞くか怪しいテップとリリスを注意し、そして近頃問題児となっているレーベをそこに含める。



「心外だな! 俺はマジメな時はマジメだ!」



「リリスもなのだ! よく分からないかも知れないけど聞いてるフリくらいできるのだ!」



「……この二人と一緒。……一緒」



 机を叩き猛然と抗議するテップとリリス。対してレーベは目から光が消え、ブツブツと小さく何か呟いている。

 

 

「分かった、分かった。いいから聞くさね。まずはラグナロクの目的だが実はよく分からない。私欲を肥やし世界を裏で操りたいと考えられているがこれだと腑に落ちないさね」



「どうしてだ? 大体どの世界の秘密結社もそんな理由で活動しているだろ?」



 秘密結社としては至極健康的な理由であるにも関わらず疑問を呈しているルチアにテュールが食ってかかる。

 

 

「もう十分なんだよ。五大宗教はそもそもラグナロクが作ったとされていて今でも世界中から上納金が山のように入る。金も権力も十分なのさ。だがヤツラは今尚天使を召喚し世界を混沌に落とそうとしている。あるいは――」



 ルチアはそこまで言って、自嘲するように鼻を一つ鳴らす。

 

 

「まぁいい。あいつらの本当の目的などあいつらしか分からないさね。とりあえず今分かっているのはユグドラシルを代償に天使を召喚してリエースを壊し、世界に混沌を招こうとしてるってことさ」



 やれやれと言った様子でルチアはさらっとラグナロクの恐ろしい目的を語る。



「さて、じゃあここに雁首を揃えたあたし達は指を咥えて見ているだけかって話しさね。ヤツラの具体的な攻め方は分かっていないし、天使を降ろす器も分かっていない。だが予想はできる。まず器だが――聖女の可能性が高い」



 そのルチアの言葉で遊楽団の面々に動揺が走る。顔を見合わせて様子を伺い合う一同は最終的にテップへと向けられる。

 

 

「……」



 視線を集めたテップは何も言わずただ困ったような顔で肩をすくめる。

 

 

「知ってたのか?」



「……ノーコメント」



 そして皆の気持ちを代弁しテュールが尋ねるが、テップの答えはこの一言だけであった。

 

 

「なんだい? あんたら聖女知ってるのかい?」



 聖女に対する過剰な反応に不思議そうな声を上げるルチア。一同はまさに今日聖女に会ったばかりだという旨を説明する。

 

 

「ほぅ。そうかい。聖女と……。あと、その男は怪しいさね。明らかにカタギじゃなさそうだったんだろ?」



 コクリ。聖女と一緒にいた男は不気味であり底知れぬ何かがあったと伝えたテュールが頷く。



「そいつの顔は思い出せるかい?」



 その問いに、皆はハッとする。そして何もない宙空を見つめ、首を捻り出す。

 

 

「ふむ、思い出せないかい。そりゃラグナロクの一員かも知れないね。しかも聖女の付き人となれば幹部の可能性もあるさね。カカ、あんた達そんな顔してどうしたんだい。思い出せないのは仕方ないよ。あいつらはそういうことに長けた存在だ」



 一同は不思議そうな顔をしたままだ。それはテュールも同様であり、その男の印象は強く残っていたはず、しかし思い出そうとするとボヤけてしまう感覚に戸惑いを隠せない。

 

 

「確か……聖女はその男の名前を呼んだよな?」



 そしてテュールは、ボヤけた頭の片隅にある記憶を引っ張りだしてそんなことを言う。

 

 

 だが名前が出てこない。一同を見渡しても皆気まずそうに目を逸らす。

 

 

「ノイン……と呼ばれていましたね」



 だがベリトだけは覚えていたようで静かに呟く。その言葉にみんなは弾かれたように頷き、むしろ何故出てこなかった不思議そうにしている。そしてルチアもその情報に一つ頷く。

 

 

「ノイン……いい情報さね。だが追おうとすればその名を聞いたあんた達が狙われる。あんた達もその名を心のうちに留めておくだけにしな」



 この情報で一歩進んだかもと思った一同は肩透かしをくらう。しかし、確かにもしあれが自分の存在に気付くものを炙り出すための撒き餌だとしたら……そう考えるとルチアの言葉に一同は頷かざるを得なかった。

 

 

「それでいい。ただでさえあんた達は世界中から注目されているんだ。不用意な動きは見せるんじゃないよ? ん? なんだい、その間抜け面は? 当たり前さね、あんた達王女がこんだけ揃ってて注目を集めないとでも思っていたのかい? かぁ、頭ハッピーセットかい」



 世界中から注目されていると言われ、え? 私達? そんな大袈裟な、と反応する王女陣にルチアは呆れた声でそう罵る。



「と、話が逸れたね。あー、どこまで話したか……、あーそうそう、聖女さね。この聖女ってのは器と代償を兼ねそなえている存在さね。ラグナロクは器たる人物を見つけ、聖女として育てる。また、聖女として育てた器は代償としても役に立つのさ。まぁ今回は聖女を器にし、代償をユグドラシルにするんじゃないかと睨んでいるんだけどね。ただし――」



 ルチアは疲れた顔で言葉を続ける。



「予想通りの動きなんてしないのがヤツラさ。前回、召喚された時もサタナエルの器は聖女と予想されていたが、実際は別の少女だったさね……。だが、それを言い始めたら器の予想などしようがない。というわけで聖女の動きは最優先で把握すべき事項さ。ま、現段階では放置だけどね」



 理由は、先程と同じ、こちらが動いていることを悟られないようにするためと説明するルチア。これに対しテュールは不快感を覚える。



(つまり、聖女はラグナロクの動きを読みやすくするための道具ってことか……)



 聖女を今保護すれば、という考えが最初よぎったがそれこそ先にルチアが言った聖女以外が器になる場合予想のしようがなくなる。つまり対策が立てにくいということだ。しかし、予想通りの動きをしても対応が遅れれば聖女には天使が降りてしまい、そうなった場合は――。



「……あぁ、聖女に天使が降りた時点であたしらは負けさね。だが、大負けにしないようするために天使は器ごと破壊する。当然あたし達だってそんなことはしたくない。だからこそあたし達が対策に動いているのがバレて計画を変えられるのが最も忌避すべき事態さね」



 テュールの予想通りであったが、それでも尚、聞いておかなければならなかった。



「ルチア……、天使は器から剥がせないのか?」



「…………無理だったさね。少なくともあたしらにはそれができなかった。それができればどれだけ……。いや、ここで愚痴っても仕方ないさね。それは無理だと思ったほうがいい。下手な希望は目の前の絶望よりたちが悪いもんさ……」



 その言葉に重い沈黙を返すテュール。



「それで俺らはどうしたらいいんだ?」



 そこでアンフィスがここにいる者達でできることを問う。



「あぁ、そうさね。まず最も重要なのは幹部の捕獲だ。やつらは鉄より口が硬いが何としてでも口を割らせ、ラグナロクの中枢部を引きずり出し殺す。カカ、安心しな、汚れ仕事は老いぼれがするさ。そして、その捕獲のタイミングだが当然天使召喚の動きを見せる前がベストだ」



「じゃあ、俺達もやっぱりノインを探すのか?」



 その作戦内容に先程との食い違いを感じるテュールが割って入る。



「いや、それはさっきも言ったが止めた方がいいだろうね。情報を少しでも掴めている今、向こうの警戒心を高めて予想外の動きをされたくない、それにそのノインが幹部かどうかも確実じゃないからね。よって現実的なタイミングは召喚の瞬間だろうね。この時恐らく幹部級が一人ないし二人程出張ってくるだろうから、ここで召喚を食い止めつつ、幹部を捕獲することが目標となる」



「それでその召喚のタイミングは……」



「流石に何も気取られずにユグドラシルに近づいて儀式をするのは困難なはずさね。となれば何らかの混乱に乗じて近づくはずさね。それと思しき兆候がみられたらあたし達はまっすぐにユグドラシルへと向かい、器の保護と幹部の捕獲を最優先に行う。その際の混乱の収拾は、まぁ誰かが何とかするさね」



 と、ルチアは最後は投げやりにそう言って説明を終えたのであった。

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