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第12話 本日ハ快晴ナリ、所ニヨッテ雨ポツリ




「ついにこの日がやってきたか……」



 テュールが島の外縁に立ち、海を眺めながら呟く。



 今日は、テュール、アンフィス、ヴァナル、ベリトがイルデパン島から旅立つ日である。



 四人は既に出立の準備を整え、その時を待つ。



 昨夜はとても楽しい夜だった。食べて騒いで歌って殴って蹴って……、しばらく取れなくなるであろうイルデパン島ならではの荒っぽいスキンシップを心ゆくまで楽しんだ。



 そして、その時は来る。



 見送りにきた大人は七人。モヨモト、リオン、ツェペシュ、ルチア、ファフニール、神獣フェンリル、悪魔王バエルだ。



「さて、行こうか」



 テュールがそう切り出し、それに頷く三人。



 見送りにきていた大人たちが口を開く──。



「アンフィス……、お前は誇り高き龍族だ。だが誇り高きとは自分が優れているから他者を見下すということではない。お前は他者の痛みが理解でき、同じ目線で物事を考えられ、持てる力を使い、守る……。そんな誇り高き男であれ。息災でな……」



 ファフニールが息子であるアンフィスに言葉を送り、餞別だと言って漆黒の籠手を渡す。



「ありがとうな、行ってくる」



 少し気恥ずかしそうにアンフィスが答える。次に一歩前に出たのは神獣王フェンリル──。



「ヴァナル、良き友人を得たな。その者らと一緒に見る景色はさぞ楽しかろう。外の世界を存分に駆け廻ってくるがよい」



 ヴァナルにそう言葉をかけ、二剣一対のきらびやかな装飾の美しい短剣を手渡す。



「うん、最高の友達だよ! テュール達と楽しんでくるね、いってきます!」



 とても爽やかな笑顔でそう答えるヴァナル。そして、バエル──。



「フフ、ベリト、悪魔に肉親というものは存在しません。ある日突如生まれ、そして生きている内にいつの間にか敵が味方が仕えるべき強者が見つかります。そんな中偶然私は貴方を拾い、育てました。しばらくこの島のぬるま湯に浸かったせいでしょうか。私も家族ごっこというものを気まぐれでしたくもなります。悪魔王バエルの息子として恥じぬよう品位ある生き方をしなさい」



 その言葉に一瞬目を見開くベリト──。



「フフ、バエル王の息子ですか、とても荷が重いですね……。しかしその気まぐれ私も大変好ましく思います。父の言葉確かにこのベリト承りました」



 そう言って最後はいつものように微笑みを浮かべるベリト。



 そして、最後にテュールを育てた四人が言葉を贈る──。



「テュール、悪い女にひっかかるんじゃないよ? あと家は綺麗にすること、食事は三食きちんと食べるさね。まぁそこらへんはベリトがいれば心配はいらないね。とにかくつまんない男になるんじゃないよ。それと初志貫徹、物事を途中で放り出すんじゃないよ? 分かったさね?」



 黙って頷くテュール。



「フフ、テュールお互い強くなろうね。また一緒に魔法を作ろう。たくさん勉強してきてボクに色々なことを教えてね? 楽しみにしてるよ?」



 再度頷くテュール。



「デュ、デュール……、お、おめぇはづよぐなった……。グズッ、俺が何度ぶっ叩いても今日まで俺に笑ってついてぎでくれた……。俺の自慢の息子だ。また……、また殴り合おうな……」



 涙など見せたことのない獅子が顔をクシャクシャにしながら言葉を贈る。



 この時、既に頷くことができず、空を見上げるテュール。そして──。



「ワ、ワ゛シ゛は……ワ゛ジは……うぅ……。テュールよ、元気でな? 元気でやるんじゃぞ? それだけでええ、おんしが……おんしが元気なだけでええんじゃ……うぉぉおおん」



(バカヤロウ……、今生の別れでもないのに大袈裟なんだよ……まったく調子が狂う……)



 なんとか涙をこらえたテュールは、その顔を四人へ向け、感謝の言葉を返す。



「あぁ……、その……十五年間育ててくれてありがとう。俺は本当に……この島で、この家で、この家族に、友人に出会えて本当に良かった……。ここま……、ここまで、大きく、うっ、大きくなれたのは貴方方のおかげです。このご恩一生、一生忘れませんっ……、本当にありがとうございましたっ!!」



 だが、結局こらえきれず零れてしまう。



「ったく、ガキが余計な気を使うんじゃないよ」



 そう言いながらそっと涙を拭うルチア。



「フフ、こういうのはズルいよねぇ~」



 そう笑顔で涙を零すツェペシュ。



 リオンとモヨモトに至っては大号泣だ。二人して泣きながら達者でな! 元気でな! 強くなれよ! と、何度も叫んでいる。



 竜化したアンフィスの上に三人が立ち、テュールが最後の言葉を投げる。



「いってきますっ!」



 そして旅立つのにピッタリな蒼い空へ黒い龍が溶け込んでいく。極僅かな雨を降らせながら──。

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