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第102話 ラージャ◯を20倍くらい大きくして、10倍くらい速くした感じ

「レーベ!! どこだっ!!」



 谷底へと降り立ったテュールは、急いで左右を見渡し、レーベを探す。災厄の谷はベヒーモスのような巨大な魔獣が住むとあって、深く、そして広大だ。陽の光は底までは届かず辺りは薄暗い。



「チッ……」



 目視で確認できなかったテュールは、焦る気持ちを抑え、耳を澄ます――しかし、音も気配も消して移動することを常としているレーベを見つけられないでいた。



「誰かレーベの居場所は分かるかっ!?」



 テュールは縋る思いで、皆の顔を見る。



(クソッ!! こんなことならもっと強く止めておくんだった!! 谷を見たら諦めると思ったが、まさかこうなるとは――)



 己の判断を悔いながらテュールは懸命に探そうとしている面々の答えを待つ。



「あっちの方向だ――ってヤバッ!! 全員壁に張りつけ!!」



 期待していなかったテップが探り当てたようだが、それと同時に普段のふざけた態度とは違う真剣な声色でそう指示を飛ばす。



 全員がその声に反射的に従い、すぐさま壁へと張り付く。その瞬間――。



「なっ!?」



 背を壁につけた面々のすぐ目の前を巨大な光の奔流が走る。その光は一瞬で谷底を縦断し、辺りを白く染め、その谷の果てまでをも照らした。



「おいおいおい、これシャレにならんぞ……。つーかレーベはもう戦ってるってことか!? 全員戦闘態勢――!! いくぞっ!!」



 光が発せられた方向へと全速力で駆け出すテュール。数kmを数十秒で駆け抜け遂に一人の少女と一匹の怪物の姿を捉える。



(デ……デカッ……。これって――)



「ベヒーモスはその頭部の角の本数で個体年齢や強さがおおよそ分かります。かの国喰いは7本。七角と呼ばれていました。そして、どうやらこの個体は9本……。全長も100mを優に越していますね。ハハ……、これを調教できれば歴史に名を刻めますよ?」



 ベリトがその額にうっすらと汗をかき、そんなことを言う。皆の目線の先には山と見間違う程の巨大な四肢獣。そしてそれに挑む一人の少女。レーベは赤きオーラをその矮躯の何倍にも迸らせ、殴打を繰り返しているが――残念ながら伝説の前には全くもって意味をなしていない。



 覚悟を決めたテュールは大きく息を吸う――。



「ベリトッ!! 全力でレーベを気絶させて脱出しろっ!! アンフィス、ヴァナルは俺と一緒にあのデカブツの囮だ!! それ以外は今すぐ退避しろッッ!!」



「で、でもテューく――」



「余裕がない!! 二度は言わん!! 今すぐ動け!!」



 目の前のバケモノとの戦力差に少女たちを守る余裕がないと判断したテュールは、そう告げる。その判断にレフィーがまず従い、どうしていいか分からない他の少女たちに気付けをし、撤退を始めさせる。



 すぐさまテュールは、半龍半人のデミドラモードへと変貌。本気を出して戦った際、デミドラモードを維持できる時間は5分――。その間にせめてレーベを含めた少女たち5人は逃がす。そう心に決め、ベヒーモスへと駆ける。



 同時に、アンフィスは竜化、ヴァナルも獣化し、黒き竜と、銀の狼を引き連れたテュールは注意を引くために全力で攻撃を仕掛ける。



「ハァァァ――!!」



 今できうる限りでの最大威力でブレスを溜める――。どうやらアンフィスとヴァナルも考えていることは一緒のようでその口元に巨大な魔法陣を描く――。



「ブルァ……?」



 ベヒーモスがテュール達の魔力の収束に気付き、一瞬気が逸れる。その視線につられるようにレーベもまたテュール達の方を向く、瞬間――。



「失礼――」



 ベリトがレーベの死角から潜りこみ、魔力針とも呼べる魔力で出来た細い針でその魔力器官を突き、魔力欠乏による失神を引き起こさせる。そして、そのままぐったりと動かなくなったレーベを抱きかかえると一瞬で戦場から離脱。



「グルァァブルァァァ!!」



 ベヒーモスはハッと気付き、先程まで自分にちょっかいをかけてきた羽虫の如き存在が眼前からいなくなることに不快感を表す。そしてベヒーモスがベリト達を追おうとしたところで、テュール達は一気にブレスを放つ――。



 ――――――――!!



 三匹の獣が本能を剥き出しにし、全力で放ったブレスはされど――。



 ニヤリ。



「グラァッァァァァア!!」



 その巨大な口で受け止められ、あろうことか喰われてしまう。そしてお返しだとばかりにその口に光が収束していく。



「ヤバッ!! 避けたら他に被害が出るかも知れない!! 受け止めて上空へ反らすぞ!!」



「正気かよ……流石に無理じゃね?」



「はぁ……ウーミア泣いちゃうよ~?」



 この期に及んでも平常運転なアンフィスとヴァナルがのらりくらりとテュールに返事し、極光レーザーに備える。



黒き引力の盾ダークグラヴィテイションシールド!!」



反重力の盾アンチグラヴィティシールド!!」



遮光の幕(シェイドカーテン)!!」



 空中に浮いている3人は質量を持った光を誘導し、反らし、弾くよう3枚の盾を生成し、タイミングを見極めようと呼吸を止め、集中する――そして、ピタリ。収束していた光が動きを止めるとベヒーモスの口から極光のレーザーが放たれる――刹那、激突。



「「「――――!!」」」



 テュール達まで一瞬で到達した光は、3枚の盾によって僅かに反らされ、テュール達を灼き尽くすことなく天高く一条の龍となり登っていく。雲を切り裂き、天へと昇るその龍が、各都市からも観測され騒然となったのは余談である。



「フシュー……フシュー!!」



(ヤ……ヤバイヤバイヤバイ!! 無理!! こんなん無理!! 逃げるぞ!!)



 今防げたことすら信じられない様子で両手を見つめるテュール。そして、両隣に浮遊している黒い竜と銀の狼に目で合図する。ヤバイから早く逃げよう? と。気持ちは通じたようで両隣はコクコクと頷いている。



 しかし、当然ベヒーモスがそれを許すわけがない。その巨大な腕を振りかぶり、まっすぐ突き出す。

 

 

「はやっ!!」



 その巨大な質量はまるで重力を無視しているかのように俊敏に、それでいてやはり巨大な質量を伴っているため抜群の破壊力でテュールを襲う。



 その腕目掛けアンフィスとヴァナルが全力で横からタックルをかます。軌道が数度ズレ、速度がコンマ何秒遅れたことにより、テュールは回避に成功する。逆に言えば、今アンフィスとヴァナルの助けがなかったらミンチになってたであろう。

 

 

 その後も死線ギリギリでなんとかテュール達3人はお互いをカバーしながら、攻撃を避け、逃亡を試みる――が、流石は伝説の魔獣、一瞬でも背を向けることができない。



(チッ、このままじゃ――!!)

 

 

 結局逃亡の糸口すら見えないまま、あっという間に5分は過ぎ、タイムリミットとなる。テュールの体から角が鱗が翼が尾が消え、元の体へ――そして、その一瞬の変化の隙を逃さすベヒーモスではない。

 

 

(ダメ、か……ミアすまない)



 広大な谷底一面を影で覆い尽くすような巨大な両腕が振り上げられ――。

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