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第98話 悪い子はルチアに食べられてしまうぞ

 ベリトに起こされた一同は、若干苦々しい顔をしながら旅館の暖簾をくぐる。当然男女は別だ。



「当然だぞ? もうあんな惨劇は起こしてはいけない」



「ん? テュールなんか言ったか?」



「いや、なんでもない。若気の至りを思い出しただけだ、さぁ入ろう」



 テュールは過去の惨劇を思い出し、一人ごちる。どうやら隣を歩いていた赤髪のお調子者にも聞こえていたようだ。そして、テュールは何を思ったか、その赤髪と腕をがっしり組む。



「……なに? 俺のストライクゾーンは広めだけど、男は全部ボールだぞ?」



「……お前がバカなことをし始めると、俺にツケがくるからな」



 二人は見つめ合い、数秒沈黙する。そして、ゆっくりと頷き合うとどちらからともなく歩き始める。



「あいつら何やってんだ?」



「さぁの」



「フフ、若いってのはいいねー」



 リオンとモヨモトはそんな二人を呆れた目で見ており、ツェペシュはいつものように微笑んでいる。



 そして、浴場には――。



「フハハハ! 負けたのだから潔く背中を流せ!」



「チッ……」



 指先が真っ白になるほどの力を込めてファフニールの背中を洗う苦々しい顔のアンフィスと、そんなアンフィスを煽り続けるヴァナルが既にいた。



「さっきさらっとこの街、いや下手したら世界の危機レベルの事件起こしたのにみんな通常運転だな……」



 改めて非常識な師匠陣にげんなりするテュールであった。



 一方そのころ女湯では――。



「うわー! うーちゃんすべすべのぷにぷにのもっちもっちなのだ!」



 リリスが全力でウーミアを洗いまわしていた。



「あっわ、あっわ♪」



 当のウーミアは気にした様子もなく、泡を使って遊んでいる。



「「「アッウ、アッウ」」」



 そう、ポメベロスを洗いまわしながら――。

 

 

「「…………」」



 その隣ではレーベとナベリウスが並んで腰掛けており、黙々と自分の肢体を洗っている。そして奇遇にも同時に洗い流し、立ち上がる両者。チラッとお互いがお互いを横目で見る。その視線は徐々に下にさがっていきある一点で止まる――。



「「…………」」



 無言。されどケモミミ少女は極僅か口角を上げ、薄紫色の髪の少女は極僅か眉をひそめる。



「あらあら、どうしたんですか?」



 そんな無言で見つめ合う二人に声がかかる。セシリアだ。そして、レーベとナベリウスは、振り返り、上から下まで3往復した後、ため息をつくと仲良く温泉の方へと歩いていった。



「??? なんだったんでしょうか?」



「セシリアは悪くないよ? というか誰も悪くないんだけどね。うん、この世の中は不公平だからね」



 顎に手をかけ、首を傾げるセシリア。その体勢で更に胸が強調されることは本人は気付いていないようだ。無自覚とはかくも恐ろしい。そして、そんなセシリアの肩を叩き、やれやれと首を振るカグヤであった。



 こうして、全員が無事に(?)洗い終わると温泉タイムとなる。見るもの全てが初めてのウーミアは当然はしゃぎ――。



「じゃぱじゃぱー!」



 湯の中を泳ぐ。誰が教えたわけでもないのに綺麗に泳ぐその姿は流石龍の遺伝子を継ぐ者である。



「ミア、湯の中で泳ぐのはマナー違反だ」



 そんなウーミアを叱るレフィー。



「ぽめめだって! ぽめめだって!」



「「「アウッ???」」」



 すぐさまウーミアはポメベロスを指さし、母に反論する。ポメベロスは足が短く、湯の底まで届かないため犬かきでお湯の中を浮遊していた。



「ポメベロスはポメベロス。うちはうちだ。それにポメベロスを叱る者は他にいる」



 レフィーは、そう言ってナベリウスに視線を送る。



「? なんで泳いじゃいけないの?」



「……ふむ、お湯が飛んだり、音がうるさいからだろうな」



 不思議そうに首を傾げるナベリウスにレフィーが冷静に説く。そして、チラリと見た先には――。



「ナハハハー!! とりゃー! おりゃー! くらうのだー! ナハ――ん?」



 温泉のお湯をバシャバシャとすくっては放ち、レーベにお湯攻撃をしているリリスの姿があった。



「な、なんなのだ? まさかお湯かけっこもダメなのか?」



 レフィーの視線にオロオロするリリス。レフィーは多くは語らず無言で一回頷く。



「じゃあ最後の一発」



 この戦が勝ち逃げで終わってしまう。やられっぱなしであったレーベが気合を入れて、拳を握る。そして、湯の中に容赦なく突き入れた。



 ――ズバシャッッッ!!



 ――バババババババババババ!!



「なんだ!? なんだ!?」



 突如女湯から爆音とともに数十mの水柱が上がり、男湯にまで降り注ぐという事態に目を白黒させるテュール。



「ガハハハハ、こりゃあれだな」



「フハハハハ、これはあれであるな」



「ホホ、躾が必要じゃの」



「フフ、売られた喧嘩は買わないとねー」



 師匠たち4人は、湯船からスクッと立ち上がる。



(前を隠せ、前を)



 いらないサービスシーンにげんなりするテュール。しかし、そんなテュールに構うこともなく、師匠たち4人は動き始める。



「はい」



「ほい」



 お湯をすくって球状にし投げ、それを魔力で生成したバッドで打ち、見事女湯へとお湯を降り注がせるツェペシュとモヨモト。



「ガハハハハ」



「フハハハハ」



 ガチムチ男二人はその両手を使い、お湯を掴む(・・・・・)と、それを放り投げる。



(な、なんて非常識な行動なんだ……)



 みるみるうちに減っていく温泉のお湯。笑いながら女湯への攻撃の手を止めない師匠たち4人。



 しかし、そんなことをしていれば当然怒る者が出てくる。そう、彼女だ――。



 ヒュー、バサバサバサバサ――シュタッ。



 女湯と男湯の仕切りを飛び越え、バスタオルをはためかせながら華麗に着地する女性。



「あんた達っ!! 風呂で遊んでんじゃないよ!! さっきのではしゃぎ足りないならいいさね!! 今度はあたしが相手してやる!! ほら、一列に並びな!!」



 鬼の形相で啖呵をきるルチアがいた。



 そこから先を覚えている者はいないだろう。ルチアが動き始めるとチラチラとはためくバスタオルの隙間を見ないように見ないように皆が顔をそむけていた。その隙に全員の命が刈り取られたのは言うまでもない。当然テュール、アンフィス、ヴァナル、テップも巻き添えになっているが、本人たちの寝顔を見る限り、この結末は避けられないと分かっていたのであろう。悟りきった顔をしていた。



 そして一部始終を上空から見ていたウーミアは、ルチアが戻ってくると身体を固くし、レフィーの言うことをよく聞くようになったようだ。その時に使う言葉は悪い子はルチアに食べられてしまうぞ? だとか。

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