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第96話 親バカが一匹、親バカが二匹

「さて、いくぜぇ? レーベッ!!」



 テュールから15m程離れた位置で獣王拳を使い、真紅のオーラを纏った二人が動き出す。レーベはリオンの言葉に無言で頷き、気を付けの姿勢で垂直にジャンプをした。



(ん? なんだ? 何をする気だ?)



 テュールは一見無駄な動きに見える垂直跳びを怪訝に思いながらも油断しないよう身構える。



 ガシッ。



「なっ!?」



 テュールの目に映ったもの、それは――垂直跳びしたレーベの両足首をその大きな手で掴むリオンの姿。そして――。



「喰らえぃ!! レーベキャノン!!」



 リオンは振りかぶり、頭上で勢いをつけるべく一周回すと――。



「孫投げるとか正気かよ!?」



 その手から実の孫を投擲した――!



 僅か15mという距離であるにも関わらず初速から空気の壁をぶち破り、幾重にもソニックウェーブが起こる。常人の目では捉えきれない速さで投擲されたレーベをテュールは――。



「あっぶねぇ!? つか、ハゲてないだろうな⁉︎」



 両手で脇腹を掴み、直進エネルギーを逃すべく自身をレーベごと回転する。そして何回転かし、エネルギーを殺し切ると、そのままレーベを持ち上げ、ハゲてないか確認する。



(よしっ、よーし。ハゲてはいないぞ。良かった。マッハ拳打って腕の肉が全部千切れ飛んだ奴を知ってるからな……。髪の毛なんてどうなることと思ったが、所詮漫画の中の話だったか……)



 テュールは一安心し、息を一つ吐く。



「いでっ!」



 しかし、一瞬目を閉じ息をついた瞬間、テュールは右腕から刺すような痛みを感じる。視線を向けると――。



「……何してるんすか?」



「ふぁひふひほーへひ(噛みつき攻撃)」



 テュールに抱っこされたまま上半身をくの字に曲げ首を伸ばし右腕に噛み付いているレーベがいた。



 テュールはとりあえず両手を離し、右腕をぷらんぷらん振ってみる。ぷらーんぷらーん。レーベも振り子時計のごとく振られる。



「…………」



「はふひははほほんふーはひ(噛む力も40倍)」



 テュールの氷点下の視線にそう答えるレーベ。



「ハッハッハー! いいぞレーベ! そのまま離すなよ? オラッ!!」



 そんなことはお構いなしにリオンは肉薄し、テュールにミドルキックを放つ。しかし、その軌道上にはレーベがおり――。



「あぶなっ!?」



 テュールは咄嗟に右手を持ち上げレーベに当たらないよう上へ避難させる。が、右腕を上げれば脇腹はがら空きになり――。



「グボヘェッルアッ!!」



 減速する気のないミドルキックが直撃する。当然、その場で耐えきれるような生易しいものではなくレーベをぶら下げたままテュールは数十m程吹き飛び、なんとかレーベが地面に叩きつけられないよう四肢を――いや、右手以外の三肢を使い、着地する。



 着地した先では土煙がもうもうと上がり、そんな中テュールは悪態をつく。



「おぉいて……。ふぅ、あんのバカ力、一切の躊躇なく蹴ってきたな……。で、レーベさん? まぁ戦っている相手なんで今は敵ですけど、仮にもあなたを守ろうとしたわけじゃないですか? それなのに翼をがっしり押さえて邪魔するってどうなんですか? その、人として」



「ひひはふへひほんひ(獅子は常に本気)」



「……さいですか」



 テュールは翼でミドルキックを防ごうとし阻まれ、吹き飛ばされた時、地面にぶつからないよう飛ぼうとし阻まれる。そうレーベに。



「暢気に会話してんじゃねぇよ」



 そして息つく間もなく土煙の中を切り裂いてリオンが追撃を仕掛けてくる。



「グボハッ、フベラッ、いて、いてて、いてぇよ!!」



 リオンの攻撃は的確にレーベごと貫く軌道で放たれる。当然テュールはレーベに当たらないよう右手を動かしレーベを避難させるのだが、その結果、テュールはことごとく被弾してしまう。だが、逆に言えばレーベがいる軌道にしか攻撃がこないと分かっていれば対応もできようものだが、レーベがそれを許さない。



「やめろ、髪の毛掴むな! ハゲる! こらっ目潰しはあかんっ! やめろ? やめるんだぞ? その足を振り抜いたら大事なところが――」



 テュールはわりとマジで必死だった。



 一方、観戦していた者達は――。



「パパいじめられてる……かあいそう……」



「うむ、あれはリオンがズルいのだ。レーベもきっとリオンに逆らえないからあんなひどいことをしているのだ……ぐぬぬぬ」



「「「アウゥ、アウッ……」」」



 ウーミア、リリス、ポメベロスが手に汗を握り、心配そうにテュールを見つめる。そして、わりとマジで必死なテュールの表情を見たウーミアは遂に――。



「パパをたすけにく!」



「よく言ったのだ! リリスも手伝うのだ!」



「「「アウッ!!」」」



 3人は決心を固め、真っ直ぐ前を見据えた後、窺うような目つきで振り返り――。



「ん? あぁ、気をつけて行ってくるんだぞ? リリス? ミアのことは頼んだぞ」



 レフィーから許可を貰う。許可を貰ったリリスはすぐさま――。



「任せるのだ! ポメ、ケルベロスモードなのだ!」



「「「アウッ!」」」



 ポメベロスに指示を出す。ポメベロスは元気に一声鳴くと先程の可愛らしい姿とは一転し、獰猛な目、獲物を貫くための大きな牙、爪、そして神速で野を駆けるであろう強靭な四肢を持つ地獄の番犬へと化す。



「うわー、ぽめめがおっきくなったー」



「そうなのだ、ポメに乗ってリオンを退治しに行くのだ!」



 リリスはウーミアを抱きかかえると、ふわっと飛び上がり、ケルベロスの背に乗る。



「ゴーなのだ!」



「「「グルァァァッァ!!」」」



 ダンジョンを揺らす程の咆哮を上げると、ケルベロスはその強靭な四肢を溜め、一気に放つ。その後ろ足は一つ跳ねただけでリオンまで到達し、前足は目にも留まらぬ速さで無慈悲に打ち下ろされる。



 ズゥン。



 地面が大きく揺れ、土煙が立つ。



「やっつけたー!」



「やったのだ!」



 そして、ウーミアとリリスはやっていないフラグを綺麗に立てながら喜ぶ、が――。



「……お前ら? ここに飛び込んできたからには戦う覚悟はあるんだろうな?」



 そこには右腕を伸ばし、片手でケルベロスの前足を受け止めたリオンがいた。リオンは放射状にひび割れた地面から足を引き抜き、ウーミア、リリス、ケルベロスに向かい威圧的な言葉を投げかける。



「おい、リオン。ミアとリリスはなしだ。ポメは……まぁ、たまには遊んでもらえ」



 横からテュールがリオンに対しそんなことを言うが、リオンは呆れた声で言い返す。



「かぁ、親バカかよ。てめぇは甘やかしそうだからな。丁度いい。ちと怖い目に合わせてバカなことしないよう躾けてやるよ。伏せッッッ!!」



「「「!?」」」



「待て、リオン!! レーベ離せっ!!」



 テュールが焦って制止の言葉を放つがリオンは全く意に介さず、一声でケルベロスの戦意を奪い取り、生物的上位種として強制的に命令を下す。そして、伏せの姿勢となったケルベロスの背にいるウーミアとリリスの前に躍り出て、その拳を――。



「おいおいおい、ここは親バカばっかかよ。ツェペシュ、ファフ? お前らどういうつもりだ?」



「フフ、どういうつもりも何もないよ? うちの嫁入り前の可愛いリリスに傷の一つでもついたら大変だからね。それが分からないようならこの爪で貫くよー?」



「フハハハ、同じくだ。目に入れても痛くないほど可愛いひ孫なんでな。少しでも怖い思いをさせるつもりならばこの拳を貴様の目に入れてやるぞ?」



 リリスとウーミアの前に立ちはだかったツェペシュとファフニールに止められる。そして二人はリオンに対し殺気と言って過言ではないほどの闘気をぶつけながらそんなことを言う。



「ガハハハハ!! 上等、上等、上等だよ!! てめぇら!! まとめて相手してやる!! かかってこいやァァァ!!」



 売られた喧嘩を即落札し、嬉しそうに笑うリオン。そして、3人はケルベロスの背から飛び立ち、ダンジョン内を高速で移動しながら戦闘を始める。



「おじーさま手伝う」



 いつの間にか右腕を噛むのをやめ、地面に降り立ったレーベはその異次元の闘いに目をキラキラさせて飛び込んでいく。



 そしてそんな闘いを遠くから見ていたアンフィスとヴァナルも――。



「おいおい、何だよ、楽しそうじゃねぇか。混ざろうぜ。師匠どもが削りあっているところでトドメさして普段の修行の鬱憤を晴らそうぜ」



「いいねー。賛成~」



 そんなことを言い合い、その目に闘志を燃やしはじめる。



「私はパスしますね。お気をつけて行ってきて下さい」



「私もパスさね。本当に男ってのはバカばっかだねぇ。ベリト、紅茶を入れておくれ」



「俺もパース。あんなん入ったら死ぬわ。ベリト俺にも紅――ちゅあっ!? は、離せ! やめろ! おい!」



 ガシッと無言で両脇をアンフィスとヴァナルに掴まれるテップ。そして、そのままズルズルと――。



「さて、私もミアに戦い方というのを教えてくるか」



「セシリア、私達もいっちゃおっか?」



「そうですね。実は私もちょっぴりウズウズしてきちゃっていたところです」



 レフィー、カグヤ、セシリアも不敵な笑みを浮かべ、戦場へと駆ける。



 そして、戦場の片隅では――。



「…………乗り遅れてしもた」



「…………取り残されちまった」



 モヨモトとテュールが得も言わぬ疎外感を味わっていたのであった。




ルチア「はぁ、ベリト……土煙がすごいから遮っとくれ」

ベリト「畏まりました。フフ、それにしても皆様元気ですね。あ、テップ? 紅茶が入りましたが?」

テップ「ぬぐわっ、ほげぇ、ずあっ! 俺いつもこんなんばっかかよぉぉおお!!」



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