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1イニングのエース  作者: 冬野俊
シーズン開幕
94/171

心理戦 1

大阪スラッガーズとの三連戦。初戦の先発は藤堂だった。開幕から藤堂は好調を維持しており、この日はまず、左腕での投球となった。

初回から快調に飛ばす藤堂。対する大阪スラッガーズ打線は、藤堂のテンポの良いペースにいつの間にか引きずり込まれ、内野ゴロと三振の山を築いてしまっていた。


0-0で迎えた七回裏。ここで、五番栃谷が今シーズン初のソロ本塁打を放ち勝ち越し。八回表に勝利投手の権利を持ったまま、藤堂は降板し、榊、地蔵、武内の三人一イニング体制で無失点。


迎えた九回表。久方振りに、相沢がマウンドに送られることになった。


この日は相手方のホーム、阪神球場での試合だったが、この時ばかりは敵味方関係なく沸いた。

実況解説も「とうとう注目の選手が出てきました。相沢が最終回のマウンドに上がります」と興奮気味に伝えていた。


「さあ、頼んだぞ」と森国に背中を押されてマウンドに向かった相沢は、大阪スラッガーズの打者たちを確認する。


スラッガーズはこの回、先頭打者からの好打順。一番の沖田は今シーズン開幕から打率を4割近く維持する好打者。二番にはオールラウンダーの土方、三番には好打者の山南が控えている。


投球練習を終えた相沢。この日の第一球は、ワインドアップでもノーワインドアップでもなく、セットポジションからのモーション。


一つ一つの動作に球場内からどよめきが起こる。


相沢はクイックに近いスピードのサイドスローでボールを投げ込んだ。


コースは右打者の沖田から見て内角。スピードはそれほどでもなく、相沢の表情が「しまった」というように歪んだ気がした。


それを沖田は見逃さなかった。「失投だ」と確信し、スイングを始動する。だが、ボールはさらに内角低めへと沈んでいった。


「シンカーか!?」と気づいた時には既に遅く、沖田はボールを引っ掛け、サードの正面へ。


ここで慌てて沖田は、相沢の表情を確認する。



「笑ってる…だと?!」



ここでようやく沖田は、あの相沢の「しまった」というような表情が、仕掛けられた罠だったことに気づいた。沖田にバットを振らせるための巧妙な罠。ドラフト8位の新人が相手という奢りも多少はあったのかもしれない。それが命取りになった。


「まず、一人目」


相沢はそう言って、マウンドのロジンバッグをポンポンと手のひらで二回、転がしていた。

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