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六回裏の攻防 3
石川の考えていた「チャンスの一球」とは、言わずもがな、ツーストライクに追い込まれた後の三球目。それまでの二回のスイングは、「バントの可能性は低いだろう」というダイヤモンズ側の思考を「バントはない」というレベルまで、変えさせるためのフェイクだった。
非力そうな九番打者に対し、大八木は体力が少なくなってきていることも考慮して、三球勝負でくるとも見通していた。
石川の類稀なる能力。それはバントである。
一打席目のプッシュバントも石川は、きちんと狙ってあの場所に落としたのである。
ダイヤモンズ側にはまだ石川のデータは万全ではない。となれば、二打席目も相手の隙を突くことで突破口が開けると考えたのだ。
グラウンドにバントされた白球は絶妙の力加減で転がり、大八木が追いついた時にはすでに、石川は一塁に到達していた。
無死で俊足のランナーを出塁させたことはダイヤモンズにとっては大きなマイナスであり、レッドスターズには願っても無いチャンスとなった。




