驚愕の起用
「おお!やればできるじゃないかー!」
「ナイスピッチングじゃー!」
ファン達は、シャットアウトを決めた相沢に大きな拍手を送った。
相沢はチームメート達にグラブでハイタッチをしながらベンチへと戻る。
ベンチに帰ってきた相沢を森国はねぎらった。
「ナイスピッチングだった」
相沢の投球の真相について知っているのは、チーム内では森国のみ。捕手の辻も何かは感じているかもしれないが、この段階ではまだ具体的な答えは出ないだろうと思われた。
相沢は自らの意思で、すべてのコース、球種、フォームを理論的にその場で選択し、ダイヤモンズ打線を打ち取った。それを森国は知っており、目の前で実演されたのだ。だからこそ、森国はここで相沢の本当の実力を確認できた。
一方、ダイヤモンズにとってはどうか。
相沢が伊達に対して、最後のボールに選んだのはトルネード投法からのフォークだった。
織田、徳川にはストレート(に見える正体不明のボール)一本だったのに対して、伊達に関しては3球とも目に見えた変化球。しかも3球目は投球フォームすら変えてきた。
ここまででダイヤモンズが相沢に抱いたイメージは
「謎」
まさしく、それである。
対戦するまでにも掴み所のない部分があったが、実際にそのボールを見てみて、さらに巨大な霧の迷路に迷い込んでしまった。
相沢のフォームはアンダースローなのか、それともトルネードなのか。持っている球種は?決め球は?
それらの答えはまだ出そうにない。
ダイヤモンズの大八木は流石にエースなだけあって、球威のある直球と変化球を巧みに織り交ぜながら、打者を打ち取っていく。レッドスターズは三者凡退でチェンジとなり、再びダイヤモンズの攻撃を迎えた。
そこで動いたのは、森国だった。
森国はベンチを出ると、ホームベースの近くにいた主審を呼び止め、なんと、投手交代を告げたのである。
「ピッチャー、相沢に代わりまして、坂之上。背番号18」
これが森国の考えていた奇襲だった。
先発の相沢に1イニングをぴっちりと抑えてもらえれば、それだけで相手チームへの動揺、プレッシャーを感じさせることができる。
そして、奇襲はこれだけでは終わらない。
「まだまだ、終わらんよ」
そう、森国は意味深かげに呟いた。




