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1イニングのエース  作者: 冬野俊
シーズン開幕
61/171

シャットアウト

ツーアウトとなったものの、レッドスターズファン達は、相沢と打者との駆け引きを知らず、未だにその実力について疑いの目を向けていた。


それもしょうがない事である。


観客席から見ていても、そのボールは130キロそこそこのストレート。特段、目を見張るような特徴もない。


打席に立った二人共が、アンダースローという投球フォームに惑わされ、偶然に相沢の球を打ち損じたのだろうとも考えられた。



ただ、ダイヤモンズベンチだけは違った。


織田、徳川に投じられたのはいわゆる「魔球」のようなものである。




それも、正体不明の。




ストレートと思って打つと、芯を外れている。


だが、側から見ていたら、その球筋は間違いなくストレートである。


あまりにも相沢に対するデータが少なすぎた。


その中で、ダイヤモンズは初っ端からぶっつけ本番を強いられている。



そんな中で、ダイヤモンズ三番打者の伊達がバッターボックスへと入った。


伊達の特徴は得点圏打率にある。とにかくチャンスに強く、得点圏打率は昨シーズンで4割5分。かと言って、チャンス以外では打たないかと言うとそれも違う。元々、ダイヤモンズの将来の四番として期待されてきたほどに、長打力もある。



伊達はバットでホームベースの角をトントンと二カ所叩き、くるんとバットを回して構える。



相沢は右腕をクルクルと回転させて、肩の調子を確かめた後、織田、徳川と同じように、アンダースローの投球に入る。


伊達への初球は、明らかに変化球と分かるボールだった。左打者の伊達から見れば真ん中から外角低めに落ちていくシンカー。



ストライクゾーンギリギリのボールに、伊達はボールだと見逃したものの、審判はストライクと宣告した。



第2球。



次は外角のボールから、ストライクゾーンに入ってくるスライダー。


これも伊達は見送った。

審判は「ストライク」とコールする。


決して伊達の選球眼が悪いわけではない。

ただ、ここまでの2球は、その伊達ですらボールと見間違えてしまうほどの、ギリギリのコース。



相沢は相変わらず不敵な笑みを浮かべている。


そして伊達に向かって何かを呟いた。


もちろん声は届かない。

だが伊達にはその口の動き方で、なんと言ったかが分かったのだ。


「打ってみろ」



間違いなく、相沢はそう言った。


伊達のプライドに火がつく。



バッターボックスで、深呼吸を一度。続けて、相沢の表情を睨みつける。



ドラフト8位。それも、なんの実績もないピッチャーが、何故こんなところにいるのか。



それはこれから分かるのかもしれない。


ただ、どれだけ優れた投手だったとしても、ここで叩いてしまえばいい。少なくともあの、態度は急速に小さくなるだろう。



相沢が3球目のモーションに入る。



だが、そこで目にしたのはアンダースローではなかった。



相沢は大きく振りかぶると、身体を大きくねじり、その反動を使って、ボールを上手からリリースした。いわゆるトルネード投法である。


球速はアンダースローとほぼ変わらないであろう、130キロ前後。コースもど真ん中のストレートだった。


伊達は投球フォームが変わった事に一瞬、動揺したものの、甘いコースのボールを打ちにいった。



だが、ボールは伊達のバットに当たる直前に急角度で落ち、伊達のスイングは空を切った。



相沢はと言うと、ボールを投げ終わり、ミットに届くまでの間に、すでにマウンドを降り始めていた。


言ってみれば、そのボール自体に余程の自信があったのだろう。


球審が三振のコールを告げると、レッドスターズの観客席からは恐ろしいほどの歓声が相沢に送られていた。

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