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1イニングのエース  作者: 冬野俊
シーズン開幕
60/171

ボールへの疑問

ダイヤモンズの二番の徳川は、昨シーズンに大卒ルーキーながらレギュラーに定着した。どちらかと言えば攻撃的な二番という位置付けで、打率は3割越えでありながら、本塁打も25本を記録している。


打席に入る前、凡退した織田が徳川に耳打ちをしてきた。


「何かがおかしい。ボールが、捉えられない」


そんな言葉だけを残して、織田はベンチへと下がっていった。



徳川はゆっくりと打席に両足を踏み入れ、相沢の方を睨みつけるように見据える。


一方の相沢は目を閉じている。それが相沢なりの集中法なのかは分からなかったが、主審の声で相沢は目を開ける。



織田に対してはど真ん中のストレートが二球連続で投げ込まれた。


通常なら織田に同じコースを二球続けるなど無謀すぎるとも言える行為だが、そこは運なのか、実力なのか、とにかく凌ぎ切った。



「だが、俺にはそうはいかない」と徳川は自覚をしていた。


選球眼も良く、出塁率が高い上に、長打も狙える。投手にとっては嫌なタイプだが、相沢の表情は、笑っていた。


織田を打ち取ったことで、幾分かホッとした部分あったのだろう。そう、徳川は予想したが、実際の相沢の表情の意味は『余裕』だった。



相沢はマウンドから低めから真ん中へと浮き上がる直球を投げ込んだ。徳川は初球から甘いコースの直球をねらっていたため、フルスイングする。


「間違いない。これは完全にミートした」

そう、感じたが、徳川もまた、織田と同様にパニックに陥ることになった。



バキッ!



確かに乾いた音がした。



バットが折れた事に、瞬時に気づいた。折れていたのはバットの芯から持ち手側へと10センチほどの部分。打球はセカンドへと転がっている。



徳川は打席から一塁へと走りながら、抱いた最大の疑問について思考を巡らせていた。




織田も言ったように、完全に捉えたはずのボールが動いたのだ。


バットが折れた持ち手側の場所は、ボールが当たって詰まった部分。



「何故、ど真ん中のボールを捉えたはずなのに、当たったのがバットの根っこ側なのか」と。



ここで徳川は織田の言っていたことに、ようやく信憑性を感じ始める。



「なるほど。これは油断しちゃいけない」


と気を引き締めるように一塁を駆け抜けたが、打球はすでにセカンドからファーストへと送られた後。塁審は高らかにアウトを宣告していた。



「これで二人目」



相沢は微笑を浮かべながらロジンバッグを手に、呼吸を整えていた。




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