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1イニングのエース  作者: 冬野俊
挑戦への第一歩
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努力の人 4

隅田は2000年秋のドラフトで、6位指名を受けてレッドスターズに入団した。高校は私学だったが甲子園の常連校という訳でもなく、隅田自身も甲子園出場は一度もなかった。


ならば、何故、隅田はドラフトで指名されたのか。それはレッドスターズでスカウトを担当している小川陽介の存在があったからだろう。

小川は元々、レッドスターズの投手だったが、思ったように成績が残せなかったことで、現役を退こうと自ら考えたのだった。その後、球団側からの要請でスカウトという役目を担うことになったが、おそらく、小川はスカウト稼業の方が肌に合っていたのかもしれない。


地方の小さなチームに眠っていたダイヤモンドの原石を次から次へと発掘し、その選手たちは多くが一軍で活躍する機会を得た。


森国も小川の見立てによってレッドスターズ入りを果たした一人でもある。



小川に備わっていたのは、客観的に力を分析した上で、その選手の持つ特徴、ポテンシャルをかなり正確に把握できる部分であった。



そんな小川が目をつけた隅田という選手は、決して目立つタイプではなかった。


長打がある訳でもなく、一流選手の持つ『オーラ』のようなものはほぼ皆無だったように思われた。


だが、小川は高校野球地方大会の一回戦で偶然隅田を見たときにどうしても気になったのだという。


何故なら、チームが0-20と大差で負けていたとき、ショートを守っている彼の口からは血がツツッと伝っていたからだった。


小川は驚いた。


「彼は何故、口の端から血を流しているのか」


パッと見れば、血を吸い終わったドラキュラのような姿にすら思えて、奇妙ささえ覚えたほどだったが、その理由は考えてみればすぐに分かった。


彼は悔しさから、口の中を食いしばりすぎて、その勢いで口の中を切ってしまったのだと。

試合後、隅田は選手たち一人一人に声を掛けていた。悔しさは自らの内側で全て処理をし、チームメートには励ましの言葉をかけ続けていたのだ。


その時、小川は閃いたのだという。

「彼をスカウトしよう」と。



そうして、念願のプロ野球選手となった隅田。


だが、待っていたのは恐ろしく孤独で、辛い日々だった。



たとえ、一軍に在籍していても、成績次第ですぐにクビになってしまう厳しい世界。


隅田にとっては、そんな悩みを抱く前に、一軍に上がることすら叶わないまま、日常は過ぎていった。



思い描いた通りにならない日常は、人間性にまで影響していくものだ。隅田もまた、年月を過ぎていくごとに心も荒んで行き、成績も伸びないままあの日を迎えることになった。






忘れもしない、

2004年5月13日。







その日、隅田には人生をひっくり返すような大きな出来事が起きたのである。

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