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1イニングのエース  作者: 冬野俊
挑戦への第一歩
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努力の人 2

「どうだった?」


森国から質問された真木は、「いや、凄かったっす」と答えるのが精一杯だった。


「あいつは昔からああなんだ」


担架で運ばれていく隅田を見送りながら、森国は懐かしげに目を細める。


「昔から、ですか?」


「ああ、隅田はな、『世界のプロ野球選手の中では、自分が一番下手だ』と本気で思ってるんだ」


「いやいや、冗談ですよね?ゴールデングラブ賞だって獲ってる人ですよ?」



森国は腕組みをしてグラウンドに残された隅田のグラブに目をやった。


「うちのチームは万年Bクラスだっただろ?だからマスコミとかでも取り上げられる機会が本当に少なかった。それで、チーム内の人間しか知らないことも意外と沢山あるんだよ」


「それにしても隅田さんは昔から堅守の遊撃手で有名でしたよね」


真木の指摘は正確だった。隅田は入団してからはしばらく二軍生活だったが、四年目から一軍で起用され始め、翌年からはレギュラーに定着した。守備範囲の広さ、打球の見極めには定評があり、滅多にエラーをしない安定感も武器だった。


「それも、入団してからだ」



プロ野球はやはり、アマチュアとは大きく舞台が変わる。内野ゴロはきっちりと捌けて当たり前、ストライクの直球は安打にできて当たり前の厳しい世界。


「隅田がプロ野球選手になって二軍の試合に初めて出た時、どんな感じだったか、分かるか?」


「いえ、ちょっと分かりません」


「今でも俺は覚えてるんだがな、あいつはいきなり5連続エラーをしたんだよ。しかも、三回までという短い間にだ。もうな、二軍監督の怒りようは半端じゃなかった」



真木にとっては、やはり想像し難いことだった。幼き頃からレッドスターズのファンであった真木は、もちろん隅田の姿をもこの人生で見て来ていた。ただ、そこには『守備が下手』という印象がない。


「まあ、無理もないな。今ではあの守備も間違いなくチームナンバーワンだから。疑うのも当然だ。でも、入団した時には守備に関してはもう、本当にひどかった。だからこそ、あいつはずっと努力し続けて来たんだよ。そうすることで、この年齢まで活躍し続けて来られたんだ」



「でも、練習ってどんな練習を?」



「簡単な話だ。毎日倒れるまでノックを受け続ける。それだけだった」



まさに、先ほど真木の目の前で起きた出来事が、これまで幾度となく繰り返されて来た。その事実を間近で見たことで、真木はようやく、隅田の必死さを感じ取れたような気がした。



「毎日ですか?」


「そうだ、毎日試合の後で。ナイターの日には夜中にもやっていた」



真木は少しずつ理解し始めていた。なぜ隅田が自分にノックの依頼をして来たのかを。


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