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1イニングのエース  作者: 冬野俊
挑戦への第一歩
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サウスポー 2

時は少し遡る。



キャンプから抜け出した相沢は、飛行機で大阪へと飛び、尼崎の自宅を探していた。


尼崎の自宅を訪ねることになったのは、尼崎の意思によるものだった。

何故なら、尼崎の自宅には藤堂の少年時代の映像があり、その時の投球を相沢に見てもらいたいからだという。


相沢が辿り着いたのは、こじんまりとした二階建ての一軒家だった。


家の周囲を観察してみても、人が住んでいそうな気配が感じられない。庭の草は手入れされておらず、腰ほどまでに伸びているものもあり、窓もここ数年は拭き掃除など無縁かのように、なんとも言えない汚れがこびりついている。


ただ、教えられた住所はここに間違いない。


意を決して、インターホンを押すと、家の中から「あいあい」と返事があった。



玄関の戸を開けて、相沢を出迎えた尼崎は白髪に無精髭を生やし、頬もこけているように見える。



「相沢さんか?まあ、上がったらええわ」


素っ気ない言葉とともに、相沢を家の中へと招き入れた尼崎は、応接間に相沢を通した。


外観に比べて中は程々に整理されており、「汚い」とか「散らかっている」というような印象は、相沢の元にはやってこなかった。


尼崎はしばらく別の部屋で探し物をしてから応接間に戻って、ソファに腰を下ろした。



「これが藤堂の子供の頃の映像や。ここで見るか?」


尼崎の手には黒いVHSのビデオテープ。相沢は「是非、お願いします」と頼み、応接間の中にあったテレビとビデオデッキを使って映像を確認した。



尼崎がデッキにビデオテープを差し込み、再生ボタンを押すと、映像にはまず試合開始の場面が映し出された。


「これは藤堂が六年生の時のやつや。ほら、この整列の一番前にいるのが藤堂や」


VHSなので画像は荒いものの、よく見ると確かに、現在の藤堂の面影がある。


試合開始の挨拶が終わると、藤堂少年は守備の為にマウンドへと向かった。


投球練習が始まる。

注目すべきはその利き手だったが、やはり藤堂は左投げだった。


「なるほど、本当にサウスポーだったんですね」


相沢が半分独り言のような言葉を口にする。

だが、尼崎はそれを逃さず返答する。


「そうや。これが藤堂の真の姿やねん。見てみい、こいつの球」


投球練習で放たれたボールはおそらく110キロ前後だろうか。フォームを見る限り、まだ体全体を上手く活かしきれておらず、伸び代はまだまだありそうだった。

確かに小学生でこのスピードであれば、中学、高校でさらに鍛えれば、大化けする可能性は十分あると相沢は考えた。


そして、尼崎も同じく、藤堂がダイヤモンドの原石であると考えていた一人だった。


「彼がサウスポーから何故、右投げになったんですか?」


相沢が質問すると、尼崎は「それもこの試合の映像に映ってる」と言い放つ。


尼崎は古びたリモコンを使って、ビデオを早送りしていく。


止めたのは八回。「二死二塁、ここでセンター前ヒットが出る」と尼崎が状況を解説してくれる。


尼崎の言った通り、次のバッターがセンター前にクリーンヒット。


二塁ランナーは勢いをつけて三塁を周り、一直線でホームベースへとヘッドスライディングで飛び込む。



よく見ると、二塁ランナーは藤堂であると思えた。グラウンドコートを着ていたことからの、相沢の推測だったが、それは当たっていた。




センターからホームへと帰ってきたボールは、捕手がキャッチし、滑り込んだランナーと交錯する。


審判がアウトを宣告する中、走者の藤堂は左肩を押さえて、動かなかった。



「この瞬間に、藤堂の肩はぶっ壊れたんや」




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