謎の男
五十嵐が話した内容は、森国が会見で話した内容とほぼ同じだった。ただ、金銭を受け取ったのは最初の八百長の時だけで金額も五万円だったこと、以降は脅されて八百長を続けたということを五十嵐は自身の口から説明した。
「五万円で、お前は野球選手としての魂を売ったのか?」
森国にそう問い詰められると、五十嵐は「すいません」と何度も繰り返した。
「最初は200万円のはずだったんです。試合でわざと打たれれば、即金で渡すと言われて…」
「それで、実際試合が終わって5万円?」
「はい。残りは次の試合できちんと打たれれば、渡すと。もし、拒否をするなら家族を拉致するとも言われました」
「次の試合では、残りのお金は貰えなかったのか?」
「はい、次の試合が終わってからは、私が八百長に関与している事を球団にバラされてもいいのかと脅されて、次の登板からも打たれ続けろと指示されました。そして、残りのお金も貰えませんでした」
「なるほど。それで、それを指示してきたのは誰なんだ?」
「霜月という男です。ただ、正体はハッキリしません。最初にあったのは知り合いの食事会に行った時です。その食事会は地元の友人たちとの集まりだったんですが、その友人のうちの一人の知り合いという事で、プロ野球ファンだから私に会ってみたいと懇願したそうです」
「その友人は霜月という男とはどんな関係なんだ?」
「それが…居酒屋のカウンターで偶然隣同士になって話したことがきっかけで仲良くなった人だからそこまでよくは知らないと…」
「霜月とは連絡は取り続けているのか?」
「いえ、それが3度目の八百長をしてしまった後、急に連絡が取れなくなりました。携帯も既に解約されているようで…」
「野球賭博にはどこまで関与したんだ?」
「私は野球賭博については、直接関与していません。本当です。信じてください。自分で金銭を賭けたりもしていません。私はただ、野球賭博の胴元が儲かるように、わざと打たれろと言われただけで」
森国は頭の中で状況を整理していた。
今の話が本当なら違和感があった。
「うちのチームは元々弱小球団だ。強い球団に負けるよう指示するなら分かるが、弱い球団にわざわざ負けるように指示する事自体が不自然な気がする。しかも、その霜月が五十嵐に接触してきたのは開幕前だろう?」
「私もそう言いました。でも、『確実に負けてもらう必要があるからだ』と霜月は話していました」
森国は眉間にしわを寄せる。
「五十嵐、もしかしたら俺たちはハメられたかもしれん」
森国は唇を噛みながらそう話した。




