早稲田の違和感
「おいおい、何であんな球が打てへんのや」
ベンチに戻ってきた上宮が清峰にもそう言った。
「すいません、ストレート狙ってたんですけど、全部シンカーで引っかけてしまいました」
「いや、ものごっつ変化するシンカーなら分かるで? でもな、あいつのシンカーは二塁から見てても並やで。いくらストレート狙ってたにしても、お前もプロやろ?」
打ち損じた清峰は何も言い返せず「すいません」と繰り返すだけだったが、早稲田は腑に落ちない部分があった。
「上宮、お前が打った球はストレートか?」
早稲田の問い掛けに「そうや」と上宮は答えて続ける。
「確かにコースは際どかったわ。ストライクゾーンのギリギリを狙ってきてん。あれは普通のバッターなら見逃せばストライク、振りに行ったら凡打になる所やな。だが、プロならあれは八割打たれるコースや。あの球速ではあかん。見極められて踏み込まれたらおしまいや」
「なあ、打った時に何か違和感みたいなものは感じなかったか?」
「あほいうなや。ジャストミートや。違和感なんてあるわけないやろ」
早稲田は首を捻った。早稲田に投げてきたボールも確かにストレートだった。それが、自分には打てず、上宮だけは打つことができた。さらに言えば、自分はど真ん中で、振りに行った瞬間にミートを確信していた。この感覚にこれまで乱れがあったことはない。「捉えた」と感じたものは確実にミートしていたからだ。
「何故だ。何故、俺だけ打てなかった・・・」
ブレイブスベンチでは早稲田一人だけがその違和感を感じていたのだった。
一方のレッドスターズベンチでは相沢が「ふうっ」と息を吐きながらベンチに腰を下ろしていた。すると森国が近寄り、声を掛けた。
「ちょっとは気が楽になったか?」
相沢は苦笑いを浮かべながら「まあ、ずっとヒットを打たれないのも、変なプレッシャーになりますから」と汗をタオルで拭った。
「あれ、わざとか?」
森国の問い掛けに相沢は「さあ、どうでしょう」とだけ言ってはぐらかすだけだった。




