表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1イニングのエース  作者: 冬野俊
布石
151/171

被安打

ベンチに帰ろうとした早稲田を、ブレイブスの四番である上宮が呼び止めた。


「何で打てんかった?あんな何でもないボール」


上宮に言われて早稲田は首をひねる。


「分からない。コースはど真ん中だった。でも、ミートがうまくいかなかった」


「ほんなアホなことあるかい。お前もプロやろ?情けない」


早稲田はそれ以上何も言わなかった。上宮はネクストバッタースサークルで、バットに滑り止めのスプレーを吹きかけ、意気揚々と打席に向かった。



ここまでの相沢の成績は5試合に登板して防御率0.00。それに加えて打者15人に対し、被安打はゼロ。プロの中にあって、ここまでの成績は相沢自身にとっても予想外だった。少なくとも1本くらいはヒットを浴びてもおかしくないと考えていたからである。


「ボチボチかな」


相沢はそう独り言を呟くと、上宮と向かい合った。


上宮はゆったりとしたフォームで相沢の投球を待つ。


相沢はノーワインドアップで投球モーションに入ると、滑らかなスリークォーターのフォームで一球目を投げ込んだ。


ボールは左打者の上宮のインコースギリギリに進む。上宮はそのボールに反応することなく、キャッチャーミットに入るまでじっくりと球筋を追った。



「何やねん。やっぱり普通の球やないか。早稲田は何しとんねん、まったく」


一方の相沢は淡々とした表情で、すぐさま2球目のモーションに入る。次もまた同じノーワインドアップからのスリークォーター。コースは外角低めだった。


「コースは際どいが、それだけや」


上宮が鋭くバットを振り抜くと、ボールは瞬時に左中間へと到達した。


相沢が今シーズン初の安打を許した瞬間だった。


神奈川ブレイブスのファンが一斉に歓声を上げる。


上宮は悠々と二塁に到達し、塁上でニヤリと笑った。その表情に気づいた相沢は無表情のままだ。


「俺にかかればこんなもんや。無表情でも俺には分かるで、ストレートを打たれてショックなんやろ?」と上宮は思っていた。


しかし、これもまた相沢の計算であることに上宮はおろか、神奈川ブレイブスベンチすら気づいてはいなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ