森国の動揺
神奈川ブレイブス戦は四回を終えて0-2とリードを許していた。
しかし、レッドスターズは無死一、二塁と好機をつくり、打席には鮫島。
「監督!監督って!」
肩を叩かれた森国はハッと意識を試合に戻した。
隣には相沢が居た。
「どうしたんですか?ボーッとして。ここはノーサインで打たせればいいんですか?」
そう相沢に言われても、森国はまだ状況を理解しきれず少し慌てたような様子だった。
「すまない。集中できてなかった」
二人が会話をしているうちに、鮫島は三塁ゴロを打ち、サードが三塁を踏んだ後、一塁へ送球して併殺に倒れた。
「監督、もし五十嵐のことが気になっているのなら、もう言ってしまった方がいいんじゃないですかね。結局、待つしかできない状況ですし、このままじゃ試合も壊れちゃいますよ」
相沢は出来る限り声量を絞ってそう言ったのだが、近くにいた栃谷にはその声が届いてしまったようだった。
「五十嵐がどうしたんですか?」
栃谷の質問に森国は答えづらそうに表情を曇らせる。
「監督、やはり隠すのは得策じゃないですよ」
相沢からもそう言われて森国はベンチを見渡す。選手たちはいつのまにか全員が森国の方に注目していた。
「こんなところで言うのも何なんだし、タイミングも悪いのは分かってるんだが、落ち着いて聞いてほしい」
森国はそう切り出し、五十嵐が野球賭博と八百長に関わっている可能性があることを伝えたのだった。




