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1イニングのエース  作者: 冬野俊
布石
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対談

時刻は午後一時。森国は広島市内の喫茶店にいた。

長い間掛けることのなかった奈良原の携帯番号は、幸いな事に変わっていなかった。


傷害罪で逮捕されてから、奈良原はそれまで懇意にしていた森国も遠ざけるようになり、いつしかお互い連絡を取ることもなくなっていた。


そのため、連絡が取れなければ出版社を通して連絡を取る必要があったが、それも杞憂に終わった。下手に出版社に接触を知られては下手な勘ぐりをされるかもしれないと感じていたからだった。


電話に出た奈良原は森国と会うことを了解し、昔から二人の行きつけだった喫茶店を指定してきたのだった。



「お久しぶりです」


思案を巡らせていた森国の前にいつのまにか奈良原が立っていた。見た目も大きく変わった。昔は爽やかな雰囲気が漂う好青年だったが、現在では無精髭を生やし、目つきも何処と無く鋭い。


「奈良原さん、お久しぶりです」


森国の対面に腰かけた奈良原は店員にアイスコーヒーを頼むと「で、どうしたんですか?」とにやけながら問う。



「率直に伺いますが、あの記事は嘘ではありませんよね?」


奈良原は困ったような、または苦笑いのような表情で「嘘なわけないでしょう」と返す。



「そうか、そうですか。やはり」


「まさか、私が嘘の記事を書くとでも?」


「普通の記者ならそう思っていたかもしれません。ですが、奈良原さんはそんな事をする人間ではないでしょう」


奈良原は今度は鼻で笑う。


「さあ、どうでしょうか。結局、読者が求めているのは真実ではありませんから。嘘でも本当でも面白い記事を求めてるんですよ」


森国は硬い表情を崩さない。


「それでも、やっぱり、奈良原さんはそんなことをする記者じゃないと思ってます」


「流石ですねえ。昔からあなたはそうでした。でもね、人って変わるんですよ。それもちょっとしたきっかけで」


「ても根本は変わらない」


「それで、五十嵐は八百長と野球賭博への関与は認めましたか?」


「いえ、五十嵐は寮に待機させていますが、具体的な事は話していません。奈良原さんと会って真偽を確かめてからと思ったので」



「そうですか。まあ、これでおたくのチームが苦しい立場になるのは間違いない」


森国はふと湧き上がった疑問をぶつけた。


「今回の記事は、私たちのチームを苦境に立たせるのがあなたの目的ですか?何故、そんな事を?」


奈良原は何も答えずやはりニヤニヤするだけだった。



「とにかく、今から帰って五十嵐に事情を聞くことにします。ただ、もしうちのチームを揺さぶることが目的ならこんなものでは、うちは揺るがないですよ」


「さあどうですかねえ」


奈良原の不気味な笑いが森国の脳裏にしばらく焼きついていた。

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