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1イニングのエース  作者: 冬野俊
布石
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奈良原の変貌1

森国は奈良原の顔を思い浮かべて居た。


あの頃の奈良原は、いつも屈託のない笑顔で、人懐っこくて、何より曲がった事が嫌いなフリーライターだった。


「ああ、何から話そうか。そうだな、まずあいつとの出会いから順を追って話していこうか」


森国と奈良原の付き合いはドラフト会議で森国が指名された時からだった。当時、森国はプロ注目の目玉選手だったため、ドラフト会議当日の会見にも多くの記者が会場に詰めかけた。奈良原もその一人だった。


その会見場で、森国が奈良原を認識することはなかったが、その日から奈良原が森国を時々取材するようになると、歳が近かったこともありすぐに意気投合した。


「あいつはな、昔は良いライターだったんだよ。相沢、良いライターってのはどんな人間か分かるか?」


「良い、ライターですか?うーん、人当たりが良くて、話をうまく聞き出せるとかですかね…。分かりませんが」


「まあ、それもあるかもしれん。だが、奈良原には圧倒的に他のライターよりも優れていた部分があったんだ。それは、あいつの書く記事は、泣けるってことだ」


「泣ける?」


「ああ、普段、スポーツ新聞やら雑誌やら見ていても泣くことなんてないだろ?まあ、それが当たり前だ。だがあいつが、日本シリーズの記事を書いたりすると、その記事から優勝チームの喜びや苦労がどこか心に伝わってきて、思わず泣いてしまってな。俺が涙もろいだけかもしらんがな」


「監督が涙もろいねえ」


相沢の疑り深い目に反論しようとした森国だったが、いちいち反応している時間もなかったため、そのまま話を続けた。


「まあ、とにかくそれくらい良い記者だったって事だ。何回か取材を受けるうちに仲良くなって、その付き合いは家族ぐるみになっていった。今思えばあいつとの関係はあの時が一番良い時だった」


懐かしむ森国に相沢が訊く。


「それで今も奈良原って人はライターを続けてるんですか?」


「ああ、続けてるよ。とは言っても、今はスポーツから離れて、週刊誌とかの下世話な話を記事にして生活しているみたいだ。人もガラリと変わっちまった」


「人が変わったって?何かあったんですか?」


「あいつはたった一度だけ、過ちを犯したんだ。俺にとっても辛い記憶だ」


「過ちっていうのは?」


森国は苦々しい表情で告白する。


「ああ、逮捕されたんだよ。傷害罪でな。そこからあいつは変わっちまった」


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