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1イニングのエース  作者: 冬野俊
シーズン開幕
126/171

ウィルとフランケル 6

「ウィル、元気でやってたかい? フランケルさんから聞いたよ。なかなか調子が上がらないんだってね」

「ああ、どうしてもここぞって時に力が出なくてね。母さんのミートパイが無性に食べたくなってたんだ」


ウィルは心残りだった。祖国に母を残して来たことが。レイラの事が心配でもあった。


ウィルはテーブルに近づくと、すでに切ってあったレイラの焼いたミートパイを一切れ、口に運んだ。


「この味だ」


ウィルはその味から故郷を思い出した。


爽やかな風が吹き抜ける農場の風景。


家族で囲んだダイニングテーブル。


毎年、誕生日で見せた父の笑顔。



フランケルが「お節介だっかな?」と問うと、ウィルは首を横に振りながら、感謝した。


「本当にありがとう。何だか、吹っ切れた気がするよ」


「そうか、良かった。俺もさ、レッドスターズに来た時は同じような感じだったんだよ。俗に言うホームシックってやつだ。意外となるんだよなあ、俺たちみたいな体格の良い男に限って」


笑いながら二人は握手を交わす。

レイラがウィルにさらに嬉しい知らせを伝えた。


「ウィル、私はしばらく日本にいることにしたわ。ひとまず、二週間ほどはね。その間、たくさんミートパイを食べて良いわ」


「母さん、来てくれてありがとう。でも、本当にしばらく居てくれるのかい?」


レイラはかぶりを振る。


「当たり前よ、その間にミートパイをたくさん作り置きしなきゃならないからね。そして、ウィルの試合での姿もお父さんと一緒に見なきゃ」


ウィルがもう一度、レイラを抱き寄せる。


「ありがとう、母さん」



ここで、相沢が割って入った。


「さあ、ここからはウィルの誕生日パーティーです。皆さん、たくさん食べて明日からまた頑張りましょう」


そう言う前に、栃谷はミートパイやフランケルが作ったオードブルにすでに手をつけていた。


「あ、てめえずりいぞ!」


鮫島も負けじと鳥の唐揚げに手を伸ばす。


「さあ、楽しもうじゃないか」


森国に肩を叩かれたウィルは、「ハイ!」と大きな声を上げる。



「あ、そうそう、ウィルは誕生日プレゼントいらないの?」


相沢がそう言った時、理由は分からなかったものの、森国の背中に悪寒が走った。


「マズイ、何かがマズイ気がする」


そう森国は感じたが、逃げる間も無く相沢がさらに問いかけた。


「今日ならもらえるかもよ、例のやつ」


ウィルの目が一層輝きに満ちた。


「ホ、ホントウデスカ? ヨシ、ソレナラ」


とウィルは森国の前に近づいて行く。

そして目の前で止まると「カントクサン、ボクトキスヲシテクレマセンカ」と告白した。

「カントクサン、ケッコンシテマスガ、ボクニプレゼントトトオモッテ、キス、オニガシマス」



嫌な予感は的中した。


だが、何故かチームのメンバーは期待の眼差しで二人を見つめている。


「もしかして、これは仕組まれて居たのか?」


森国は相沢の方を見るが、飄々とした表情で悪びれた様子はない。


「この空気感はやらざるを得ない」


そう感じた森国は唾を一度飲み込み、ウィルへと熱い口づけをした。


ウィルは思ったのだった。


「カントクサンノクチビル、アタタカカッタ」



こうして、室内が大きな拍手と歓声に包まれながらウィルの誕生日はふけていったのだった。

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