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1イニングのエース  作者: 冬野俊
シーズン開幕
125/171

ウィルとフランケル 5

フランケルとウィルが約束をしたオフの日がやってきた。


ウィルはチェックのシャツにジーンズというラフな格好でフランケルの自宅を探した。


フランケルの自宅は広島市内の高層マンションの21階にあった。ウィルはマンションの入り口でインターホンを押す。聞こえて来たのはフランケルの声だった。


「ようこそ。さあ、エレベーターを21階で降りたら正面のドアだ。待ってるぞ」


ウィルは言われた通りに上の階へと上がると、正面のドア横にあるインターホンを押す。


返事はなかったが、中で鍵を開ける音がした後、ゆっくりとドアが開いた。



一斉に音が鳴った。爆竹のような音が何度も響く。


あまりにも驚いたウィルは顔面を庇いながら思わず尻餅をつき、大きな声を上げた。


音が鳴り止んでウィルが周囲を確認すると、ようやく何が起こったのかが理解できた。


フランケルの自宅玄関には相沢や栃谷、鮫島らが揃っており、彼らが一斉にクラッカーを鳴らしたのだった。



「ビ、ビックリシマシマ」


「シマシマじゃなく、シマシタだろ?あ、大丈夫だぞ、ちゃんと天井に向けたからな」


悪戯な笑みを浮かべる鮫島にウィルが「ダイジョウブデハナイデス。ナゼナラ、シンゾウトマッタ」と冷や汗を浮かべながらようやく立ち上がった。


目の前にいた相沢がウィルに言う。


「ウィル、誕生日おめでとう」


ウィルは今の今まで忘れていた。日本に来てからというもの、毎日を必死で過ごしてきたウィルは自らの誕生日すら覚えていなかった。


「ソ、ソウイエバ、ソウデシタ。ドモ、アリガトゴザルマス」


『ゴザルマス』に反応して栃谷が笑いをこらえる。ウィルの間違った日本語はチームの雰囲気を少なからず和らげていた部分もあり、相沢はウィルの存在をその面でも有り難く思っていたことは確かだった。


フランケルが「さあ、中へ」と促すと、そこには相沢たち以外の選手たちも揃っていた。


「まあ、偶然みんなオフだったから、みんなで行った方が楽しいだろうということになってな」


そう語る人物を見てウィルは感激を覚えた。それはウィルの最愛の存在である監督の森国だった。


「カ、カントクサン。ワザワザキテクレタンデスケ?」


「ああ、みんなウィルのために集まったんだぞ」


ウィルは森国に勢いよく突進すると、その身体をギュッと抱きしめた。よほど嬉しかったのだろう。ウィルの表情はこれまで見たことがないほど明るいものになっていた。



「さあ、それじゃあパーティーを始めよう。っとその前に、ウィルのリクエストであったミートパイだ」


フランケルの妻が台所からミートパイを運んできた。大きさは直径50センチほどあるだろうか。


「さて、問題だ。ウィル、このミートパイを作ったのは誰か分かるか?」


フランケルにそう言われ、ウィルはミートパイに顔を近づける。

何処か懐かしいような、そんな香りだった。

しかし、誰がと言ってもフランケルの妻以外に考えられない。


そう、ウィルが答える前に、相沢がある女性を招き入れた。


「お母さん、こちらです」


相沢に手を引かれ、隣の部屋から姿を現したのはウィルの母、レイラだった。


「ウィル、誕生日おめでとう」


レイラの微笑みを見るや否や、ウィルは今度はレイラの元に向かい、その細い身体を抱きしめたのだった。


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